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青い鳥文庫『黒魔女さんが通る‼︎』 をだらだら語る  

【黒魔女さんが通る‼︎】6年生編16巻のあとに再読するとエモい『黒魔女さんのお正月』【感想】

(2022/4/30リライト)

あらすじ

黒魔女かるたの特訓で、うっかり大形くんのぬいぐるみを外してしまったチョコ。王立魔女学校で行われる、ダメ黒魔女専用の冬季講習を受けることになります。

しかし学校に到着早々大形と遭遇。聞けばある計画を実行中なんだとか。じゃっかん訝しがりつつも、彼を信じたいチョコは、聞いたことを誰にも言わないと約束してしまいます。

一方、講習も大忙し。怖い先輩や先生に戦々恐々しつつ、クセの強いルームメイトと一緒に課題を解くチョコ。はたして無事に修了することができるのか……?

感想

今読むと大形の行動がエモい

王立魔女学校の冬期講習に呼び出されたチョコ。大形と再会します。

ある計画を打ち明け、チョコに協力してほしいと持ちかける大形。

それは、『ハロウィーン』での悪事の罰としてさらしものの刑にされかかっている暗御留燃阿をこっそり助ける計画。しかし裏があり、暗御留燃阿に修行終了の証明をさせることで、魔界での出世の足掛かりにしようとしていました。

つまり「暗御留燃阿を助けたい」というのは嘘だったのですが、今読み返すと大形のセリフの端々に、憎しみという言葉だけでは説明できない様々な感情が滲んでいるようでエモいです。

たとえば、計画を説明するときに発した「あの、美しく、誇り高い黒魔女が、(略)見習いダメ黒魔女たちの前でばかにされるなんて、たえられない」という言葉。また、計画が本当にうまくいくのか心配された時の「ぼくには暗御留燃阿がおそれたほどの魔力があるからね」というセリフもそうです。

かつて暗御留燃阿によってむりやり黒魔法使いにさせられたうえ、魔力と意識を封印されていた大形くん。当然強い憎しみを抱いています。ですがそれと裏腹に、これらの表現は師匠への尊敬すら感じさせるものです。チョコをだますために演技をしていたことを加味してもオーバーな印象。恨みも感じるのですが、単純に「暗御留燃阿が嫌い、だからやっつけたい」みたいなものでは片付けられないのではないかと思うのです。

自分でも「暗御留燃阿とギュービッドの関係と、ぼくと黒鳥さんの関係は似てる」と言っているように、また最新刊でも「暗御留燃阿もぼくも似た者同士」と言っていたように、大形は師匠にめちゃくちゃ影響を受けています。暗御留燃阿のギュービッドコンプレックスについても、同情的ともとれる発言をしています。「憎しみ」であることは間違いないですが、いろんな思いが含まれている、複雑な「憎しみ」なのだと思います。

『チョコレート戦争』ではすでに和解済みで、大形は本心から師匠を助けるために行動します。読み返してみると、さらしものになりそうな暗御留燃阿を救出しに行く点といい、そこでチョコに語る言葉といい、『お正月』と『チョコレート戦争』の言動はほぼ同じなんですね。

暗御留燃阿を助けたかったのは「修行終了」の証明をしてもらうため。決して師弟としての情があるからではないです。ですが、本人も意識していないところで、整理しきれないさまざまな感情があり、意図しない形でそれがあらわれているのではと思うのです。それがエモい。

 

魔女学校のメンバー大量登場

今回のメインの舞台は王立魔女学校。学校自体は『黒魔女さんのハロウィーン』でも出てきましたが、ここまでメインの舞台となるのは初です。

ニイカちゃん、マリーちゃん、ミルフィーユ初登場。個人的には、読者キャラが複数巻にわたって登場するような重要度になれたのは、この時期に投稿されたキャラまでのような気がします。

冬期講習でニイカ、マリーと一緒の部屋になるチョコ。

ニイカはギュービッドに憧れている子。銀髪で、キャラデザもちょっとギュービッド意識したのかなという感じです。

マリーちゃんは貧乏貴族。父親は死の国の男爵ですが、第一王子によって、第二王子のエクソノームがグレた責任を押し付けられ没落。このあたり複雑でおもしろかったです。先生が描く貴族とかお金持ちの子は背景がリアルな気がします。

マリーちゃんとチョコの不要物持ち込みにより、校訓書き取りの罰を与えられてしまった3人。ニイカちゃんは罰と講習を両立させるべく、知恵をはたらかせます。各自で探すことになっている講習の課題を教えることを条件に、同級生たちに書き取りをやってもらうというのです。

彼女の頭の回転のはやさはたしかにギュービッドに似ています。でもギュービッドよりも無邪気でストレートに調子乗ってる感じですね。メリュジーヌ校長に気に入られているということを自覚していてそれを利用した振る舞いをしてたり、死霊のルルちゃんを当然のように見下していたり……。ただの愛すべきキャラというだけでなく、ちょっとくせがある、黒魔女さんらしい子だと思います。

ミルフィーユも初登場。彼女はメリュジーヌの孫で、チョコ等後輩たちをとりしきる生活監督官です。

「この最悪メンバーじゃ、無事に夕ごはんにありつけるか、疑問」と、登場早々にチョコたちを馬鹿にするミルフィーユ。特にニイカを目の敵にしているらしく、自分に歯向かえないのを見て楽しそうにしています。

そんなさなか事件が発生。課題を教えるのと引き換えにみんなに書いてもらもらった校訓が、何者かによって燃やされてしまったのです。

犯人はミルフィーユに違いないというニイカ。「あいつにきまってる」「ぜったいゆるさない! こてんぱんにやっつけてやる!」と、語気を荒げてかなり激昂している様子。校長のお気に入りの自分に比べ、ミルフィーユはしょっちゅう小言を言われている。だから、彼女は自分に嫉妬しているんだ……というのです。いやあ、先輩のミルフィーユを「あいつ」よばわりしてたりとか、影で呼び捨てにしていたりとか、仲の悪さがリアルですねぇ。

ミルフィーユは校長の孫というのもあって、祖母の微妙な態度の違いには特別敏感なのかもしれません。メリュジーヌはニイカを意識的に贔屓しているわけではないですが、ギュービッドの面影を感じさせる彼女を、どこか強く叱る気になれないところがあります。だからこそミルフィーユはニイカに強く当たってしまい、一層ムカつかれる。ニイカも一応敬語を使ったりしてはみるものの、尊敬していないのが見え見えであまり隠す気もなさそうです。それがまた癪にさわる……。うーん、こういうのってよくありそうですよね。

ラストで仲直りする二人。ミルフィーユは、校長が贔屓しているつもりはないと気付いたそうです。この二人の関係、生活監督官と生意気な後輩という面では、かつての桃花とミルフィーユ自身のようでもあり、要領のいい愛されキャラに対する優等生タイプの嫉妬という面では、ギュービッドと暗御留燃阿のようでもありますね。

また『お正月』は、生活指導の濡烏先生の初登場回でもあります。

洗濯場でうろついているチョコをどなりつける先生。初登場時の外見描写が好きです。「滝のようにながれる黒髪」「ナイフのような細い体」「どすのきいた声」。どんな人物なのかが一発でわかる。キャラデザもクールかつ力強い感じでかっこいいです。

そんなに怖いのに、実はムーミンが好きというギャップ萌えの一面もある先生。しかもかつてそのことが生徒たちにばれ、ムーミングッズをわたす代わりにゆるしてもらうという賄賂が横行した時代もあったとか。今巻でも井戸のなかのムーミングッズをゲットしようとして大形に引きずり込まれ、逆に利用されたりとか、ちょっと抜けてるところがありそうです。

 

物語上の大きな転機

物語ラスト、暗御留燃阿が再修行として人間界の「モリカワ」に来ることになります。彼女は初登場以来一貫して悪役として扱われており、大形のような同情できる面も特に描かれてこなかったので、純粋に憎まれ役として活躍してきました。しかし、次の巻からは180度変わり、味方ポジションになります。

石崎先生は『黒魔女さんの小説教室』で、物語の中心になれるキャラは「主人公、敵キャラ、お助けキャラ」だとおっしゃっていて、敵キャラとして暗御留燃阿の名前もあげています。トライアングルの一角が変化したので、この巻はシリーズ全体で見てもかなりおおきなターニングポイントだったと思います。

わたしは暗御留燃阿オタなので、このラストを読んだ時は、彼女が仲間になることでギュービッドの学生時代のことや大形のことがもっと掘り下げられたらいいなぁと思っていました。また、彼女自身の詳しい内面やキャラクターが描かれることにも期待していました。ですが結局、長い間そういうお話がなかったのはちょっと残念です。

最近は大形とのやりとりなども増え、その中で素の部分っぽい一面が見えることもでてきました。暗御留燃阿は他のキャラ(特にギュービッドや大形)をより深めることもできるし、彼女自身が重要なポジションで活躍できるポテンシャルもあると、オタクとしては信じています。これからどんどん登場して、魅力的な面が描かれていってほしいなと思います!

 

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