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青い鳥文庫『黒魔女さんが通る‼︎』 をだらだら語る  

【黒魔女さんが通る】黒魔女の騎士ギューバッド2巻を振り返る【ギューバッド編感想】

この記事の続き

 

krmjsnfan.hatenablog.jp

 

 第2巻あらすじ

サンタフスタ騎士団に入団し、国王軍を迎え撃つことになったギューバッドたち。メリュジーヌは早速、ビアヘロや騎士たちと一緒に、危険な「死招き池」まで食料をとりに行くことを命じられます。道中一休みしていると、近くの森からエグジリと名乗る老婆が現れ、「雪白カエル」という美味しいカエルをご馳走してくれることに。しかしそれは毒を持つ殺人カエル。知らずに食べたサンタフスタ騎士団のみんなは昏睡状態に陥ってしまいます。途方にくれるメリュジーヌの元にやってきたのはギューバッドとゴンサロ。黒騎士に囲まれ、観念したエグジリが語った話とは……

 

 

第2巻感想&みどころ

メリュジーヌ、ギューバッドとはなればなれに

気弱な性格で、学生時代はずっとギューバッドに守ってもらっていたメリュジーヌ。しかし今回、はじめて離れ離れになる機会がやってきます。

黒騎士叙任式を経て正式にサンタフスタ騎士団の一員となった二人。巨大な兵力を持つ国王軍に対抗するため、籠城戦を行うことにしたヴェルドレ団長は、ギューバッドに城門の警備を、メリュジーヌに食料集めを命じます。食料の調達池は「死招き池」。城からは丸1日かかる上に、騎士団ですらめったに足を踏み入れない、危険な場所です。

そんな所にメリュジーヌを向かわせることに大反対するギューバッド。「あたしが命をかけてるのは、メリュジーヌを守ることなんだよ!」と叫び、黒騎士のフレデラーとあやうく斬り合いになりかけます。まだ騎士団との信頼関係もできていないので当然といえば当然ですが、ちょっと過保護な気もします。メリュジーヌも「ギューバッド、助けて!」と相変わらずの他人頼り。

願いむなしく、ギューバッドなしで死招き池へ行くことになったメリュジーヌ。小隊長のフレデラーは見知らぬ黒魔女とビアヘロを快く思っていないようで、二人には特に厳しく接してきます。しかし同行していたちびっ子騎士、エルス&マリスは正反対で、メリュジーヌが魔女学校の話をしてあげると喜んだり、黒魔法にも興味津々だったり。悪霊の国には学校がないので、黒騎士といえどごく簡単な魔法しか使えないのです。好奇心旺盛な彼らは、のちのちメリュジーヌに教師としての最初の一歩を踏み出させることになります。

 

怪しげな老婆エグジリ

夜になり、野宿の準備をする一行。メリュジーヌも黒魔法で、焚き火を起こすのを手伝います。初めて目にする黒魔法に驚くマリス。フレデラーには内緒にするようにと、口に指を当てるp57のイラストかわいいです。ちょっと頼りになる面が出てきました。

戦闘食の粗末なアオガエルに文句をつける美食家のビアヘロ。ストイックなフレデラーはその図々しい態度を「ふん、また『男』の泣き言か」と蔑します。二人が険悪な雰囲気になりかけたとき、メリュジーヌは背後に何者かの気配を感じます。

そこにいたのはボロボロのマントをまとい、枯れ木を杖代わりにしたみずぼらしい老女、エグジリ。「老女」と書きましたが、初見ではみんなからおじいさんにまちがえられており、男女の区別も難しいほど年老いて、外見も荒れ放題なのがわかります。イラストでも、ぎょろりと見開いた目と長い爪がいかにも怪しげです。

魔剣を振りかざす騎士団をなだめた彼女は、自分は涙の国の出身であり、今は悪霊の国と涙の国との境にあるカンタレラの森に住んでいると話し、森の沼地に生息する貴重な「雪白カエル」を差し出します。不審に感じながらも食欲には勝てず、カエルを貪り食う一行。しかし、歩き続けて疲れ果てていたメリュジーヌは、一口も食べずに眠ってしまいました。

翌朝目覚めた彼女の目に飛び込んできたのは、死んだように眠り続けるフレデラーたちの姿。実は、昨晩食べた雪白カエルは強力な毒を持っており、口にすると丸一日昏睡状態になって死んでしまうのです。自らが盛った毒の被害者の様子を見に来たエグジリと鉢合わせになり、大ピンチに陥るメリュジーヌ。毒と同じ効き目のある黒魔法をかけられて殺されかけますが、すんでのところでギューバッドが駆けつけます。結構距離があるはずですが、頑張りましたね。

 

エグジリの過去

二人が悪霊の国の騎士ではなく火の国出身の黒魔女であると知ると、とたんに殺意を失うエグジリ。解毒剤を作りながら、騎士団を殺そうとした理由をポツリポツリと打ち明けてくれました。

50年以上前、6歳になるやんちゃ息子の母だったエグジリ。しかしある日、息子が悪霊の国の黒魔道士にさらわれてしまいます。 愛するわが子を奪われたエグジリは、すぐさま黒魔道士が姿を消したというカンタレラの森に飛び込みました。しかし森は想像以上に深く、道に迷ってしまったため、涙の国に戻ることも悪霊の国に向かうこともできないまま日々を過ごします。そのまま長い年月が経ち、既に息子を奪い返すことは諦めていたエグジリ。しかし、悪霊の国への恨みを忘れたわけではありませんでした。他国の子供をさらいに行くために森を通る黒魔道士を、雪白カエルで毒殺しはじめたのです。

彼女は『黒魔女さん』シリーズのキャラの中でもトップクラスに悲惨な過去の持ち主だと思います。とくに殺人にまで手を染めているところが取り返しのつかなさに拍車をかけていて痛ましいです。メリュジーヌたちは、魔法のコンパス「魔コンパス」を渡して涙の国に帰国させようとしますが、エグジリは拒否します。悪霊の国の内実や騎士団の秘密を聞いた今、悪いのはラムエルテ国王ただ一人とわかった、自分も騎士団に入って共に戦うというのです。

ヨボヨボ老女の突然の騎士宣言に戸惑う二人。しかし、ギューバッドの後を追ってやってきたゴンサロがそれを許可します。物陰にかくれて三人の話を聞いていた彼女は、エグジリたちの黒魔法の力が打倒ラムエルテに使えないかと考えたのです。

悪霊の国で魔力を持っているのは国王と黒魔道士だけ。あとはサンタフスタ騎士団ですらごく簡単な呪文しか使えません。悪霊の国が女嫌いなのは、黒魔女を排除することで黒魔法の力を独占するためではないかと推測したゴンサロ。もしサンタフスタ騎士団が黒魔術を使えるようになれば、ラムエルテに衝撃をあたえ、国王軍との無駄な戦いを避けられるかもしれないと語ります。穏やかながらも頭が回る人物です。

 

謎の墓石

かくしてエグジリを仲間に加えた騎士団は、ゴンサロ、ギュービッドと共に死招き池に向かいます。道中、メリュジーヌのために休憩を取ってくれるゴンサロが優しいです。彼女は騎士が小競り合いおこすと仲裁したり、メリュジーヌのことも最初から「さん」付けで呼んでくれるなど、他の黒騎士と比べても穏やかで気品のある人物です。

休憩中、ビアヘロから、死の国へ続く秘密の抜け道の情報を聞くギューバッド&メリュジーヌ。なんでも死招き池への道のりに粗末な小屋があり、そのなかに秘密の通路があるという伝説を聞いたそうです。信じられないというメリュジーヌに、「伝説っていうのは(略)話の内容はうそでも、かならず事実と結びついているんだよ」と語るギューバッド。このセリフ、オカルトっぽさを感じて好きです。

しばらくするとくだんの小屋らしき建物を発見する騎士団。しかし、その手前には「R・I・P」、つまり「Rest in Peace」と刻まれた墓石の群れがありました。死招き池付近に足を踏み入れる人はめったにいないはず。ですが、墓があるということは誰かがここにやってきたことを意味します。いったい誰が作ったのだろうと考えていると、墓石から霧が立ちのぼり始めます。

霧は死霊に変身し、次々と騎士団に襲いかかりました。わけがわからないまま、体を張って死霊たちに斬りかかるエルス・マリスやギューバッド。ちびっ子騎士たちは飛び上がって敵を斬り伏せたり、戦闘が体に染み付いてる感じ。ギューバッドは戦闘経験はないはずですが、それなりに戦えており、センスを感じます。このシーン躍動感があって好きです。

 

メリュジーヌ、先生になる

やっとのことで小屋にたどり着くも、扉は何者かの魔力で守られておりびくともしません。敵はすぐ背後まで迫っており、絶望的な状況に。しかし、メリュジーヌが苦肉の策として唱えた解錠呪文で扉が開き、一団は中に逃げ込みます。そのことで彼女を見直したのか、いままでずっとぶっきらぼうだったフレデラーの態度も少し軟化します。カンテラ魔法で指先に火を灯すメリュジーヌに、「いつまでもそのままじゃ熱いだろう」と火を移すための木の枝を差し出してくれたのです。無表情のまま松明をかざすフレデラー。しかしそれが彼女にとって精一杯の優しさの表現だと、メリュジーヌはわかっていました。不器用さが可愛いです。

小屋の片隅に井戸らしきものを発見するビアヘロたち。その中には梯子が降ろされていました。ひとまずそれを下り、死霊たちから逃げようと考える騎士団。エルス・マリスは、自分たちも明かり係として貢献したいから、カンテラ魔法を教えて欲しいとメリュジーヌに頼みます。

かくして、初めて「先生」として魔法を教えることになったメリュジーヌ。おでこから魔力を出すことに苦労する二人に「難しい問題を考えるときのことをイメージして」とアドバイスするなど、教え方も上手です。その様子を見たビアヘロは、「メリュジーヌ、おまえ、いい先生になりそうだな」と感心します。前巻ではギューバッドがいないと不安げでしたが、先生になると別人のように堂々としてますね。ちょっと今のメリュジーヌ校長の面影が見えてきます。

 

「R・I・P」の謎

梯子を下りた先はトンネルでした。 しばらく歩くと、かべに「R」の文字が描かれているのを発見します。墓石に刻まれていた「R・I・P」の「R」のことでないかと推測するエグジリ。文字の先の道は二股に分かれていますが、正しいルートを選べば「I」や「P」も現れ、順にたどっていけば出口に到達できると考えます。

脱出の希望を胸に意気揚々と先を急ぐギューバッドたち。しかしエグジリは、文字の下に描かれた絵が気になっていました。「R」の下には骸骨の絵が、続く「I」の下には瞳の絵が描かれているのです。しかも瞳の絵は目を閉じている状態でした。そのことから、「R・I・P」には「Rest in Peace」つまり「安らかに眠れ」以外の意味があるのではと感じるエグジリ。この直感の鋭さ、さすがベテラン黒魔女ですね。

ついに「P」の文字を見つけ出す一行。その下に描かれていたのはドクロをまいた蛇の絵。蛇は呪い、ドクロは死者の象徴です。つまりこの絵は、「呪われた死者」を意味します。「呪われた死者」は「Posedee」。エグジリは、「R・I・P」の「P」は「Posedee」の頭文字ではないかと考えます。そして「I」の下の閉じた瞳の絵は「見えない」つまり「Invisible」であることを表しており、「I」はその頭文字。「R」の下の歩く骸骨は「歩く死者」だととらえれば、「R」は「Revenant」の頭文字です。

それらをつなげると、「Revenant Invisible Posedee」。つまり「呪われし不可視の歩く死者」になります。これこそが「R・I・P」の真の意味。このネーミングめっちゃ不気味でかっこいいです。とっさに、先に進もうとするギューバッドたちを止めるエグジリですが、時すでに遅し。騎士団はまばゆい光に包まれ、気絶させられてしまったのでした。

 

魔妖精と悪霊の国

意識を取り戻した彼らが目にしたのは、大理石でできた真っ白な神殿と巨大な二つの女神像、そして、緑色の肌をした赤マントの男でした。のちにゴドフリという名が判明するこの男は、縛り上げられた騎士団たちに、彼らをとらえた理由や小屋の前で戦った死霊たちの正体について語ります。

ゴドフリたちはサポス族という魔妖精の一族。悪霊の国でつかわれている黒魔法は、もともと彼らのものでした。しかし666年前、サポス族の王宮だったここ、「呪われし不可視の歩く死者の神殿」に悪霊の国が攻め込み、サポス族を追い出しました。悪霊の国の目的は、涙の国まで張り巡らされた一族の地下通路と、透明マント的な効果がある秘宝「闇騎士の鎧」を奪うこと。そのことによって、安全にニーニョ・ネグロを確保できる仕組みを作ろうとしたのです。さらに悪霊の国は、異端審問でサポス族と周辺の魔妖精をほぼ絶滅させました。

しかし512年前、一族の生き残りたちは神殿を奪い返し、再び攻められないように迷宮を作り上げます。騎士団が小屋の前で戦った死霊たちは、神殿や闇騎士の鎧をもとめて派遣された悪霊の国の兵士の成れの果て。迷宮にはまって命を落とした彼らを呪いで死霊化し、新たに送り込まれた兵士と同士討ちをさせるのです。悪霊の国がしたことはひどいですが、サポス族もなかなかエグい罠を考えましたねぇ。

 

 メリュジーヌの覚醒

ですが、騎士団は小屋の扉の封印を解き、迷宮をくぐり抜けてしまいました。そんなことができるのは、彼らの中に未知の黒魔法の使い手、すなわち悪魔がいるからに違いないというゴトフリ。かつてサポス族への異端審問に使われた「呪いのスープ」の湯気を吸わせることで”悪魔”を炙り出そうとします。

ゴトフリは湯気の毒を避けるためにその場を去り、神殿には騎士団だけが残されます。死を待つばかりになったエルス・マリスに、せめて黒騎士としての誇りを胸に最期をむかえようと声をかけるフレデラー。その言葉を聞いたメリュジーヌは思わずブチ切れます。

黒騎士の厳しい訓練に耐えてきたサンタフスタ騎士団。ラムエルテを倒すために今日まで頑張ってきたはずなのに、ここで死を受け入れていいのかと叱咤激励します。「どんな小さなことでもいいから、自分になにができるのか、考えなさい!」と叫ぶメリュジーヌ。誰かに頼ってばかりだった一巻とはえらい違いです。守らなくてはいけない生徒ができたことで少し強くなったようです。

その発言を受けて、ゴンサロはギューバッドとメリュジーヌの黒魔法を利用する方法を提案しました。悪霊の国の黒魔法は火の国のそれには効かないはず。だから、二人が瞬間移動魔法を唱えて神殿の外に出ることはできるはずです。

ゴンサロの言う通り、神殿から脱出する二人。呪いのスープが入っている大鍋を遠ざけ、少しでも時間を稼ごうとしますが、スープの毒が充満するまでに残された時間はあとわずか。もうダメかと思われた時、神殿から黒騎士たちが次々に飛び出してきました。

驚く二人に事情を説明してくれるエルス・マリス。彼らを助けたのは、メリュジーヌが教えた「カンテラ魔法」でした。指先に灯した火で自らを縛っていた縄を焼き、逃げ出したというのです。「すっごく、えらいわ! 先生の何百倍も、えらい!」とふたりの無事を喜ぶメリュジーヌ。もうすっかり教師の顔ですねぇ。

 

 いよいよラムエルテの元へ

神殿に戻ってきたゴドフリたちは、呪いのスープで殺したはずのサンタフスタ騎士団が無事なのを見て驚愕します。騎士団は全員女であること、今はラムエルテを倒すために篭城作戦の準備をしていることを語るゴンサロ。事情を飲み込んだゴドフリは、512年前、悪霊の国から王宮を取りもどした時のことを話してくれます。

王宮が悪霊の国の手にあった期間に、黒魔道士たちは王宮のなかに「魔戸」というどこでもドア的な扉を作っていました。すでに封印されていますが、今でも迷宮の奥にあるそうです。さらに奪還の際、黒魔道士たちは歴代のニーニョ・ネグロの記録も王宮に置き去りにしました。そこには連れ去られた子供の頭髪も共に保管されています。それを使って、ラムエルテ国王に拘束魔法をかけられないかと考える一行。その時、ニーニョ・ネグロの記録を読み込んでいたエグジリが「自分がラムエルテを説得する」と言い出します。急な発言に戸惑うギューバッドたち。あわてて記録を覗き込むと、そこには「即位名 ラムエルテ 母 エグジリ」と書いてあったのです……。このシーンのエグジリは、ギューバッドをもビビらせるような気迫があります。緑の瞳が光るのも覚悟が決まった感があって最高です!

 

 

全体を通して

 本編では優しくも厳しい校長先生として生徒たちから慕われたり恐れられたりしているメリュジーヌ。第2巻は、彼女の教師としての最初の一歩を知ることができる感でした。そのほかにもエグジリ、ゴドフリなどの濃いキャラも登場し、さらに悪霊の国の歴史なども絡んできて非常に内容が濃いです。
 
 
 
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