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青い鳥文庫『黒魔女さんが通る‼︎』 をだらだら語る  

【黒魔女さんが通る】『黒魔女の騎士ギューバッド』1巻を振り返る【ギューバッド編】

『黒魔女の騎士ギューバッド』とは

 ギュービッドの大叔母さん・ギューバッドと、火の国王立魔女学校校長・メリュジーヌの魔女学校時代のお話です! 

ギュービッドそっくりの問題児・ギューバッドと、今の姿からは想像がつかないぐらい気弱なメリュジーヌが、悪霊の国の王位継承問題に巻き込まれ大冒険します。

超王道ファンタジーでオカルト要素が大爆発。本編の魔界編でもオカルトモチーフがたくさん出てきますが、ギューバッド編はそれをさらに煮詰めた感じ。本編や桃花編に比べると読者キャラも少なく、その分石崎先生のこだわりをビシバシ感じられます。なので『黒魔女さんが通る‼︎』を本質の本質まで理解しようと思ったら絶対に避けては通れないお話です‼︎

 

 

第1巻あらすじ

卒業を5日後に控えた王立魔女学校。最後の外出日を楽しみにしていた生徒たちの元に、悪霊の国の黒魔道師が火の国に侵入したという報告がはいります。悪霊の国は霧に包まれた謎の国。国王の代がわりごとに他国に黒魔道師を派遣して、国王候補の男の子を誘拐していくといううわさがあり、とても恐れられています。当然外出禁止になる魔女学校。しかしギューバッドは、ルームメイトのメリュジーヌを連れて街へ遊びに行きます。

街で怪しげな旅人に絡まれていた男の子を助けた二人。逆に不審者と間違えられ、魔界警察に捕らえられてしまいます。なんとか牢獄から脱出しようとするギューバッドたちの元に現れたのは、同じく捕らえられていた先ほどの怪しげな旅人・ビアヘロ。彼の助言に従って外に出た二人は、思いもよらぬ人物に出会い……。

 

 

第1巻の感想・みどころ

本編で出てきたキャラの昔の姿が楽しめる

外伝の大きな魅力の一つは、本編で登場したキャラが違った角度から描かれること。『黒魔女の騎士ギューバッド』では、ギューバッドとメリュジーヌが深く掘り下げられます。

今では涙の国の女王になっているギューバッド。その物怖じしない性格は昔から変わっていないようです。しかもただのかみつき野郎ではなく、「黒魔道師がうろついていて危ないので外に出るな」という王立魔女学校のデスカ先生に対して、「自分たちはあと五日で卒業するんだから、実質一人前の黒魔女だ。そして一人前の黒魔女は黒騎士をとらえるために街中探し回っている。だから自分たちが宿舎に閉じこもっているのはおかしい」と、理路整然と意見を主張できるだけのクレバーさも持っていました。すでに一国の女王の素質があります。

街で魔界警察に捕らえられ、投獄される二人。そこには同じく黒魔道士の疑いをかけられていた旅人・ビアヘロがいました。彼は、メリュジーヌの魔妖精の力を利用した脱獄計画を提案します。

魔妖精とは魔物の一種。普段は人の姿をしているものの、週に一度蛇に変身しなくてはならず、変身時の姿は誰にも見せてはいけないと決められています。計画を聞いてパニックになるメリュジーヌを落ち着かせて代わりに反論し、一人で逃げさせようとするギューバッド。彼女は、出自をコンプレックスに感じているメリュジーヌを3年間をずっとかばい続けてきたのでした。ギュービッドもそうですが、この家系は守らなくてはいけない存在がいると本領を発揮するタイプのようです。

反論を遮り、「いつもギューバッドに助けてもらってる。そう自覚してるんなら、一度ぐらい、助ける側にまわってみたらどうだ」とメリュジーヌに決断を迫るビアヘロ。彼はその名の通り、自由気ままに生きる”旅人”で、現実主義で合理的な考え方の持ち主。キャラクターデザインのクールで大人っぽい感じが好みです。『黒魔女さんのホワイトデー』にも子孫が出てきましたね。

その言葉に背中を押されたメリュジーヌは、蛇の姿で外に出る決心をします。このシーン、精神的にも脱皮してる感があって好きです。その根底にあるのがギューバッドとの友情というのもいいですねぇ。友情や師弟愛が登場人物の成長を促すのは、『黒魔女さん』シリーズに共通して言えることです。

 

魔酔いの森と貯庫霊都

そのおかげで無事牢獄を脱出した三人。ギューバッドたち二人は「魔酔いの森」に迷い込み、住人の火魔人に助けられます。彼はPart0でもギュービッドたちを助けてくれましたね。

「魔酔いの森」には黒魔女「デスカ」に関わる伝説があります。昔、悪霊の国から攻められそうになった森を、彼女が守ったというものです。Part0ではこの「デスカ」はメリュジーヌたちの担任のデスカ先生のことと説明されていましたが、今巻では先生の祖先ということになっています。これは今後の伏線でしょうか。気になります。

それから、このお話で重要な働きをしていたのが魔界グッズの貯庫霊都。食べると性別が変わるチョコレートで、物語冒頭、ギューバッドたちが幼き日の魔娑死にもらったものです。彼は本編でもオモテダケ(=占い師)として活躍していますが、この頃から才能はピカイチだったようで、二人の冒険も、『黒魔女さんのクリスマス』で再会することも全てお見通しでした。貯庫霊都をくれたのも、それが二人を助けるのがわかっていたからでしょう。とんでもない千里眼です。

 

悪霊の国のなぞ

濃い霧に包まれた謎の国、悪霊の国。なぜか代々女ぎらいで、女性は殺されてしまうため、国内には男性しかいません。子供が生まれないので、他国から「ニーニョ・ネグロ」と呼ばれる、国王になれる見込みのありそうな男子をさらってきて即位させます。ギューバッドは貯庫霊都を食べていたので一時的に男子になっており、ニーニョ・ネグロと間違われます。結局元の姿に戻れたものの、逆に女なのに悪霊の国に侵入した罪に問われます。

悪霊の国の国王・ラムエルテの前に引っ立てられるギューバッド・メリュジーヌと、二人を追って捕まえられていたビアヘロ。ラムエルテは小さな老人で、部下の言葉も信用しない、疑り深い人物です。メリュジーヌたちを捕らえた腹心のサンタフスタ騎士団についても、「魔界最強の騎士団などと、えらそうなことをいっているが、どうだかな」と軽んじている様子。

彼はバリバリの悪役ですが、ところどころ人間味を感じるところがあって好きです。たとえば、部下にはちょっとしたことで声を荒げる反面、ギューバッドたちの話はバカにしつつも最後まで聞いてくれたりとか。

貯庫霊都を食べたせいで女性の姿になってしまったが、本来は男だとデタラメの主張をするギューバッド。死刑になりかけてるのにえらい肝の座りっぷりです。結局、ラムエルテが行ったタロット占い「タロット・ディモニオ」の結果、三人は高い塔に閉じ込められることになります。占いによって政治を行うというのもあやしげでいいですねぇ。

 

サンタフスタ騎士団

 なんとか塔から逃げだした三人。しかし今度はサンタフスタ騎士団にとらえられ、騎士団の本部・ポンフェラーダ城に連れて行かれます。再び蛇に化け、脱出の手がかりをさがすメリュジーヌ。城の内部を探索していると、とんでもないものを目撃します。

たまたま見つけた部屋に潜り込んだメリュジーヌ。そこにいたのは、サンタフスタ騎士団団長のヴェルドレ・デ・インフィエルノ。彼はなぜか、国王にしか許されていないはずの「タロット・ディモニオ」をしていました。さらに部屋の壁一面に飾られていた歴代団長の肖像画を見て、メリュジーヌはある違和感を覚えます。

前述した通り、悪霊の国には男性しかおらず、女性は殺されてしまいます。しかし肖像画に描かれているのはどう見ても少女……。胸騒ぎは、子供の騎士たちの訓練に遭遇した時確信に変わります。彼らのひとりが、「サンタフスタ騎士団は女の自分をかくまって育ててくれた」と発言したのです。

そう、サンタフスタ騎士団は実は全員女性。まちがって悪霊の国に連れてこられた女の子を、男性の騎士として育て上げたのが騎士団の真の姿なのです。この設定、非常にこだわりを感じられて素晴らしいですね。団員がみな強く、騎士としての誇りを持っているのもかっこいいです。

秘密を知られたことを悟ったヴェルドレたちは、歴代の団長もひそかに「タロット・ディモニオ」を使ってきたこと、それらの事実がラムエルテにばれたので、近々国王軍と騎士団の武力衝突が起こるであろうことを明かします。国王軍との対決は兵力差的に不利だが、自分が行った「タロット・ディモニオ」の結果、ギューバッドたちの存在が騎士団にとって吉兆と出たと語るヴェルドレ。黒魔女の騎士として共に戦おうと持ちかけます。

団長は「食べて、変えよう、あなたの人生! 男の子は女の子に! 女の子は男の子に!」と、貯庫霊都の包み紙に印刷されているキャッチコピーを読み上げ、「いまこそ、人生を変えるのだ! 黒魔女の騎士として!」とふたりを鼓舞します。性別を変える貯庫霊都。それを食べたことが、ギューバッドたちが悪霊の国に迷い込む遠因となりました。そして今、サンタフスタ騎士団の一員になり、ある意味もう一度男女の差を超えることで国王と戦おうとする二人。まさに「女の子は男の子に」なって「人生を変える」冒険が始まろうとしているのでした。

 

 

全体を通して

まだ一巻だというのに、とんでもなく内容が濃いです。まとめるのにめちゃくちゃ時間かかりました。

わたしの思い込みかもしれませんが、『黒魔女の騎士ギューバッド』は登場人物全員に石崎先生の美意識やこだわりが込められている気がします。サンタフスタ騎士団のヴェルドレやゴンサロはもちろんのこと、ギューバッドの不敵で切れ者の感じとか、ビアヘロの時には冷酷なまでに合理主義な性格とか。『黒魔女さん』の一番濃い部分がつまっている外伝だと思います。

 

 

 

次巻はこちら

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