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青い鳥文庫『黒魔女さんが通る‼︎』 をだらだら語る  

【黒魔女さんが通る】『黒魔女の騎士ギューバッド』3巻を振り返る【ギューバッド編】

この続き

 

krmjsnfan.hatenablog.jp

 

あらすじ

ラムエルテと実の親子であることが発覚したエグジリ。優しい少年だった頃の自分自身を思い出してもらうべく説得すると、心を打たれたラムエルテは涙を流し、王位を退くと言います。かわりに国王に命じられたのはなんとギューバッド。さらにメリュジーヌも、新しくできる悪霊の国王立魔女学校の校長に就任します。

黒騎士たちを相手に早速授業を行うメリュジーヌ。その様子を興味深げに見ていた悪霊の国の子供・ダリルも生徒になり、教室は和気藹々としてきます。ところがダリルの黒魔法の力が異様に強く、しかもどこにすんでいるかも不明であるという事態が発生。その正体を探るため、あとをつけることにしたギューバッドとメリュジーヌですが……。

 

 

第3巻感想&みどころ

ギューバッド、王になる

ラムエルテの正体

サポス族の神殿を脱出したサンタフスタ騎士団一行。そこにはラムエルテたち国王軍が待ち構えていました。狼のように獰猛なオンブラスコーラ犬の群れをひきいてギューバッドを襲うラムエルテ国王。犬たちは彼自身が秘密で育て上げた「決して死をおそれず、うらぎることのない親衛隊」で、側近ですらその存在は知らないのだとか。裏切られることをそこまで恐れているとは、恐ろしいというよりなんだか悲しい人物ですね。

悪事をやめさせるため、そんな息子を説得するエグジリ。彼女は前巻、「黒魔道士の記録簿」の記述から、ラムエルテの実母であることが明らかになったのです。

ラムエルテの正体は動物好きの心優しい息子、ギジェルモに違いないと語るエグジリ。その証拠として、彼が育て上げたオンブラスコーラ犬軍団の存在をあげます。犬を育てるためにはこまめな世話が欠かせません。つまりラムエルテには犬の飼育方法に関する豊富な意識があることになります。そして、国王として家来に囲まれている彼が犬の面倒を見ることができたのは、心の奥深くに刻みつけられた記憶や優しさが生きているからだろうと言うのです。エグジリが身につけているボロボロのマントも、息子が初めて刈った羊の毛で織ったもの。うながされて泥だらけのマントに触れ、体を震わせるラムエルテ。相変わらず昔の記憶は失われたままではあるものの、母親だと確信した彼は、ついには涙を流してエグジリと抱き合います。

いや〜、ラムエルテってめちゃくちゃ魅力的な悪役ですよね。私結構好きなんですよ。人間味と容赦なさが両方あって。後述しますが、このあと彼は再びギューバッドたちを裏切ります。そして二度と仲間にはならないし、その心情が詳しく描かれることもありません。そんな紛れもない悪役なのに、彼が抱えていた孤独感みたいなものは確かに感じ取れるんです。

ラムエルテはしばしば「余はだれも信用しておらぬ」と言っていますし、実際腹心のサンタフスタ騎士団に重大な秘密を持たれています。さらに物語ラストでは犬たちすらも自分の元を去っていきます。誰の事も信じてないし、他の人も自分を信じてない。孤独な王のままです。母子再会のシーンの涙は本心からのものであったと思われ、人間らしい部分がまだかすかにでも残っていることを感じさせますが、長年かけて染み付いた人間不信はそう簡単にはなおりませんでした。たとえ一瞬でも本当に改心しかけているのを感じる分切ないですが、ご都合主義がないのがかえってリアルでいいなぁと思います。

そしてかわいそうな境遇ではありますが、同情をさそうように描かれているかといったら違います。ギューバッドやメリュジーヌにとっては裏切り者でしかないし、ラムエルテ自身が自分の胸の内を話すシーンとかもありません。あくまで作中では悪役を全うするんです。好き。

 

国王ギューバッド

母の優しさに触れ、心を入れ替えたように見えたラムエルテ。この調子で国王をやめてくれればニーニョ・ネグロの制度もなくなると喜ぶみんなですが、その考えは突っぱねられます。国王がトップに立つことで曲がりなりにも安定していた悪霊の国。それなのにいきなり王がいなくなったら、なんとか保たれていた国としてのまとまりが一気に失われてしまうというのです。しかも現在、空には凶兆として恐れられているほうき星が浮かんでおり、ただでさえ国民の不安が高まっています。ラムエルテは悩んだ末、ニーニョ・ネグロの条件にぴったりなギューバッドを新国王として指名し、自分は王位から退くことにします。

最初は驚いたギューバッドも、渋々その役割を引き受けます。言葉遣いは乱暴だけど、実は慈悲深いギューバッド。なんだかんだ言って、騎士団のみんなや圧政に苦しむ悪霊の国の人たちを放っておけないのです。

迎えた戴冠式当日。式が行われる王宮前の広場には、新国王誕生の瞬間に立ち会おうとおおくの群衆が集まっていました。その視線の中を堂々と歩いていくギューバッド、すでに国王の風格があってかっこいいです。式の開始を告げる厳かなファンファーレといい、長いカーペットの先にある「アスタロトの玉座」といい、こういうヨーロッパ貴族っぽい場面はいつも以上に熱が入っている気がします。

群衆にさむいギャグを飛ばしてはどすべりするギューバッド。でもただふざけてるのではなく、「この国はこれから変わらなくてはいけないのだから、国王もくだけた雰囲気の方がいい」という思いゆえの行動です。表面はおちゃらけていても、裏でこういう緻密な計算ができるの、やっぱり王の器だと思います

その工夫もむなしく、黒騎士団とニーニョネグロは女だという噂を聞いている群衆は世も末だと不審がります。式は最後まで盛り上がらず、「ギューバッド国王陛下に栄光あれ!」という言葉も寒々しく響きました。この不穏な空気いいです。

 

メリュジーヌ、校長先生になる

不思議な子どもダリル

一方のメリュジーヌは、新生悪霊の国で魔女学校の初代校長を任されます。実はこれは彼女自身の願いでもありました。火の国に帰るときはどうしてもギューバッドと一緒がいい彼女は、ギューバッドと共に過ごすため、帰郷せずに悪霊の国で魔女学校の先生になると決めたのです。この作品の友情ってすごく密ですよね。運命共同体的なところがあります。

校長になるにあたって、「あたしの魔女学校は、身分も年齢も関係ない。黒魔法に興味のある人なら、自由に参加できる、明るい学校にしたいのよ」という思いを語るメリュジーヌ。これは魔妖精の低い身分に苦しめられてきた自身の経験からの言葉でもあるのでしょう。そして早速、黒騎士以外の生徒を迎え入れることになります。

王宮の中庭に魔草を植え、少しでも火の国王立魔女学校に雰囲気を近づけようとするエルス&マリス。しかし街の人はギューバッドたちを警戒しており、なかなか売ってくれません。ところが翌日、何者かによって教卓の上にマンドラゴラの鉢植えが置かれていました。さらに授業中、教室の外に謎の人影を発見します。

人影を捕まえるため、フレデラーが授業に出席することに。内心黒魔法に興味があったフレデラーは喜んで引き受けます。剣士としてはトップクラスの実力を持つ彼女ですが、黒魔法にはまるで子供のように目を輝かせているのが可愛いです。最初のツンケンした態度が嘘みたい。でも謎の人影を捕えるために猫のように飛び上がる姿はやはり百戦錬磨の騎士だと感じさせます。

捕らえられたのはボロボロの服を着たダリルという子供。怯えているのか、簡単な質問にも口を結んだまま答えません。メリュジーヌは相手の目線の高さまでしゃがむと、マンドラゴラの鉢植えを用意してくれたことにお礼を述べました。はっとした表情を見せるダリル。さすが未来の火の国王立魔女学校校長、子供の心を開くのが上手です。さらに正式に生徒として認め、王宮に入るための通行許可書を発行します。

晴れて魔女学校の生徒となった彼女は、黒魔法の実習でさっそく才能を発揮します。みんなが苦労していたカンテラ魔法を一発で成功させた上に、コントロール魔法までやってのけたのです。中性的でミステリアスで天才型のダリル。彼女は読者キャラですが、なんとも石崎先生が好きそうなキャラです。

 

ダリルの正体

身なりから街の子供だと思われていたダリル。しかし通行許可書を衛兵に見せた子供はいないという報告から、そうではないことが発覚します。正体を探るため、あとをつけることにしたギューバッドとメリュジーヌ。その結果、王宮の中に住んでいることが明らかになります。

彼女の住居は石畳がむき出しの「霧の間」という一室。生まれつき動物と心を通わせる才能があったダリルは、部屋から一歩でも出たら殺すという条件のもと、ここでオンブラスコーラ犬の番人を任されていたのです。ひどい条件のもとでの生活でしたが、女の自分を殺さずにいてくれたラムエルテに感謝してるというダリル。その言葉を聞いたメリュジーヌは絶句します。

さらに悪霊の国を覆っている霧の正体も明らかに。彼女曰く、大きな部屋の奥には魔法の霧が噴き出す穴があり、それが国中に充満して国民の記憶を消しているそうです。そしてこの部屋の存在はラムエルテ国王と自分以外知らないと話します。

ダリルが二人を部屋に入れたのは、ともに霧の間に残されたファイヤーナイト号を助けるため。オンブラスコーラ犬の軍団をひきつれて王宮を離れたラムエルテですが、その母犬のファイヤーナイト号だけは霧の間に残しておいたのです。なぜなら退位したのは形だけで、いずれまた王位にもどるつもりだったからです。

気候が悪く貧しい悪霊の国。国民は不満を抱えています。それが国王自身に向けられるのを防ぐため、凶星が出るタイミングに合わせて新しい王を即位させ、その人に不幸の責任をなすりつけて処刑します。そしてその後再び即位することこそがラムエルテの真の計画。つまり最初から、ギューバッドを代理王として殺すつもりだったのです。石崎先生もあとがきで熱く語っていらっしゃいましたが、この設定闇深くて非常にいいですね。ラムエルテの邪悪さも素晴らしいです。さすが国王。格が違います。

ラムエルテに心を支配されていたものの、メリュジーヌの授業をうけて目がさめてきたようすのダリル。学習の喜びで心を開かせるとか、彼女はいい教育者ですね。

 

メリュジーヌの成長

最後の戦い

ダリルの案内で王宮を脱出し、悪霊の国の別荘にたどり着く騎士団一行。ほっと一息ついたのもつかの間、駆けつけた旧騎士団長のヴェルドレたちから、国王軍との兵力差がかなり大きいという情報を聞きます。無駄な争いを避けるため、戦わずに隣国の涙の国に逃げ込む作戦を提案するヴェルドレ。

しかしギューバッドは「逃げるのはオンブラスコーラ犬たちを救出してからだ」と騎士団を睨みつけます。ダリルやファイヤーナイト号の話を聞いた彼女は、何としてでも母と子を再会させたいという気持ちなのです。しかし部下の命をたかが犬のために危険にさらすわけにはいかないというゴンサロと言い合いになり、あやうく斬り合いになりかけます。ギューバッドの気持ちはわかるけど、ゴンサロの判断は団長としては正しいですよね。

親子を引き離して記憶を失わせるという悪霊の国のやり方が許せないというギューバッド。ファイヤーナイト号とオンブラスコーラ犬を無理やり引き離したら、自分もラムエルテと同じことをすることになる。だから放っておけないが、これは自分の考えなのでみんなに戦いを強制するつもりはない、逃げたかったら逃げてくれと語ります。

心を動かされたみんなは、ギューバッドについて行くと言い出します。涙の国からの援軍、ロビンがその姿に「伝説の女王、ラルム・オルール」を重ねるなど、すっかり国王の威厳があるギューバッド。メリュジーヌは頼もしく思う反面、それにくらべて自分は全然成長できていないと感じて焦ります。

翌日、別荘を包囲され、とうとう国王軍に立ち向かう騎士団。ギューバッドはメリュジーヌに黒騎士の鎧を着せ、ともに馬に乗ってラムエルテ軍に乗り込むことに。「戦いだろうがなんだろうが、あたしたちは、いつでも二人いっしょだぜ」という言葉が頼もしいです。メリュジーヌも背中にギュービッドの体温を感じるから怖くないと言います。いままでなんども一緒に危機を乗り越えてきたからこその強い信頼関係ですね。これまでの積み重ねを感じさせます。

メリュジーヌの役目は、犬たちを縛っている魔法の鎖を断ち切ること。すぐ近くで振り回される魔剣、突進してくる国王軍たちに再び臆病な気持ちになりかけるメリュジーヌ。そんな彼女の目に、丸腰で国王軍の中に飛び込むファイヤーナイト号の姿が映ります。子供たちを助けるため、危険を顧みず戦う姿を見て、「できるかなじゃない、やらなくちゃ」と自分を奮い立たせるメリュジーヌ。そしてラムエルテに近づくようギューバッドに指示し、魔剣に黒魔法をかけて、犬たちを縛る鎖に向かって振り下ろしたのです。

このシーンめっちゃ熱いです。メリュジーヌはこれまで先生としてマリスたちを叱咤激励したり、成長が感じられる部分はあったものの、やはりギューバッドから自立しきれてないところもありました。でもこのシーンの彼女は一人で気持ちを立て直し、魔剣に呪文をかけるという手段も考え出して犬たちを救います。オンブラスコーラ犬だけでなく、自分自身を縛っていた鎖をも断ち切ったのだと思います。

 

それぞれの道へ

戦いが終わり、涙の国に向かう一行。息子に裏切られ、失意のエグジリには同じく母であるファイヤーナイト号が付き添っています。息子のために殺人まで犯したのに結局親子の絆を取り戻せないなんて、エグジリの気持ちを思うと辛いです。せめて騎士団やファイヤーナイト号という仲間ができたことを、救いに感じてくれていたらいいですね。

国境の森の中を歩いていると、今は亡きラガルト族という魔妖精が所有していた泉を見つけるみんな。ゴドフリによれば「帰省の泉」といい、この泉を通って一日に二人だけ、魔界のどこへでも行くことができるのだそうです。火の国に帰れるチャンスがやってきたメリュジーヌたち。しかし彼女は、隣に立つギューバッドがそれを心からは喜んでいないことに気づきます。王立魔女学校では怒られてばかりだったギューバッド。しかし冒険中はすごく生き生きしていました。ギューバッドは学校よりこっちの方が向いているし、彼女自身も内心そう思っている。でもメリュジーヌの手前言い出せないのだろうと気持ちを察します。

ギューバッドにはずっと心の底から笑っていて欲しい。そう思ったメリュジーヌは、自ら「一人で帰るわ」と笑顔をみせます。その言葉に涙を流すギューバッド。このシーン本当にいいですよね。今まで二人は守る守られるの関係で、メリュジーヌはギューバッドの背中を追いかけてる感じでした。でもこのシーンでは、メリュジーヌがギューバッドの背中を押してるんですよね。ギューバッドから体を離すときの、「自分からそうしたかった。これは、ギューバッドからの卒業だから」という文章めっちゃ好きです。美しいラストだ……。

 

 

全体を通して

1巻の記事でも書きましたが、ギューバッド編は黒魔女さんを骨の髄まで理解したかったら絶対に読むべきです。「ギューチョコ桃花も出てこないし、ギューバッドの事はよく知らないからちょっと……」という人もたぶんいると思うんですけど、やっぱり黒魔女さんオタクなら読んでほしいです。あと古い時代のお話だからか、イラストのタッチがいつもとちょっと違うのも見どころです!