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青い鳥文庫『黒魔女さんが通る‼︎』 をだらだら語る  

【6-1黒魔女さん】ついにあの人が大形問題に参戦!『黒魔女さんと秘密のサバト』【12巻感想】

これのつづき。前回に引き続き暗御留燃阿オタ視点の感想です。

 

krmjsnfan.hatenablog.jp

 


第1話

あらすじ

未完呪ースを飲んで記憶と魔力を失ってしまった大形くん。桃花とともに魔界に残った彼を心配しつつ、チョコ自身も慣れないリモート授業&修行にてんやわんや。そんな中、リモート授業に大形らしき人物が参加しているのを発見するチョコ。「過去をやり直して自分を変えたい」という彼のために、チョコがとった行動とは……

 

メタ的な意味がありそうな第1話

大形らしき人物から「いままで口にしてきたうらみの言葉を消して人生をやり直したい」と頼まれたチョコ。大形の魔力が流れ込んだおかげで高級魔法が使えるようになっていた彼女は、覚えたての呪文と過去をやり直せる魔界グッズを使い、望みを叶えてあげようとします。

しかし実はチョコに頼み事をしたのは大形のふりをした青菜西男という少年。大形に憧れて黒魔法使いになったはいいものの、「どうせ自分にはできない」とネガティブな言葉を繰り返しているうちに自信をなくし、修行を始めて5年経っても黒魔女4級レベルという少年です。そんな弟子に自信をつけさせたいと思った西男のインストラクターが考えたのが、チョコの魔力を利用して過去に戻り、「自分にはできない」という発言を修正させる事でした。

生徒を「○人」ではなく「○個」で数える松岡先生、「スーパージャイアントみなしごハッチ」と呼ばれる悪魔情など、日常回としてもおもしろかったですが、大形問題的に考えてもなかなか興味深いお話でした(大形自身は登場してないけど)。

まず西男と彼のインストラクター・ソリスの関係が、大形と暗御留燃阿の関係と対になっているのではないかと思いました。師弟ともに優秀だけど心が全く通じていない大形と暗御留燃阿に対して、師弟ともにあまり強くなさそうだけど弟子の事を真剣に考えているソリス。

暗御留燃阿の「あたしにソリスのような心があったら、大形もあんなことにならなかったと思うの」というセリフもありましたが、大形問題が佳境に入り、とうとう暗御留燃阿がこの問題に本格参戦した今巻にこういうお話が書かれるという事は、次巻の大形・暗御留燃阿の掘り下げにも相当期待していいのでは? と思っちゃいました。

第2話でも暗御留燃阿がチョコに黒魔法を教えるシーンがありましたが、「大形にはどんな感じで教えてたのかな」とか妄想が膨らんで楽しかったです。まあ第2話のシーンを次巻の伏線と捉えるのはさすがに深読みのしすぎだと思いますが、第1話は当たらずとも遠からずかと思うので、期待値も俄然高まります。

もう一点興味深かったのは「過去をやり直す」という事に焦点を当てたお話だった事です。前巻『黒魔女さんと黒魔術の王』にて、記憶を失う事にたいして、『思い出をうばうってことは、命をうばうのとおなじ』という地の文がありました。今回、西男は過去の発言を修正しようとして失敗し、チョコも大形のために過去をやり直そうとして体に負担をかけてしまいました。物語的に後者は慣れない高級魔法を連続して使ったからなのですが、前巻の文章と併せて考えると、やっぱり辛い過去を消す事でハッピーな人生を手に入れるみたいなエンドは今巻でも否定されているのかなと思います。

あとやっぱり暗御留燃阿オタとしては、彼女が大形問題にたいして具体的な発言をしたのがうれしかったですね。前巻大形くんがシャレにならない事態になり、もう登場するとしたらこのタイミングしかないと思っていたので、今巻冒頭から何度も名前が出てきてほんとうにドキドキしました。推しが物語的に活躍できるポテンシャルのあるキャラだと信じてきてよかった。次巻もよろしく頼みます。

 

 

第2話

あらすじ

クリスマスを控え、「サンタはいるかいないか論争」がヒートアップする6-1。一方ギュービッドたちは、ユールサバトのあとの人間界をパトロールして「魔界キャンペーンユール・プレゼント賞」をゲットすべく、チョコに黒魔法の猛特訓をしていた。チョコから「サンタはいるかいないか論争」のことを聞いたギュービッドは、賞の獲得と論争の決着を両立させる画期的なアイディアを思いつく。

 

暗御留燃阿の描き方、ここ10年で一番好き

新しく教わった黒魔法をなかなか成功出来ないチョコ。ギュービッドが協力を頼んだらしく、暗御留燃阿にアドバイスをしてもらう事に。

ギュービッドが「気合を入れながら丹田に力をこめる」という天才にしか許されない方法で呪文をかけるのに対し、暗御留燃阿が「まず口から息を吐いて、それから鼻で息を吸って……」と段階を分けて呪文をかけているの、両者の性質の違いがあらわれていておもしろかったです。

第1話では「学生時代、ギュービッドと暗御留燃阿は3段魔法の幻覚魔法と幻聴魔法を使って授業をサボっていた(*二人が卒業した王立魔女学校は通常、卒業時に1級or初段)」という記述がありましたね。この二人の、性格は対照的だけど実力は同じくらい高いところが好きな身としては嬉しかったです。

また、わなにかかったサンタを捕まえに行く際、自分にはいばるギュービッドが暗御留燃阿にはニコニコなのに対して、チョコさんが「あたしに対する態度とぜんぜんちがうんですけど」と突っ込んでるのも好きです。ギュービッドと暗御留燃阿が並んで歩いて行くところは、『魔女学校物語』2巻の第1話で二人が食堂から出て行くシーンを彷彿とさせました。チョコとの師弟関係のなかで見せるのとは微妙に違うギュービッドの表情、いいですねー。

暗御留燃阿の描かれ方については、無印13巻で改心して以降、一番好きです。改心後の彼女はちょくちょく「優しい人になりましたね!」と持ち上げられる割に、自分がやらかした行為についての具体的な言及がなく、どういう気持ちでチョコたちと接しているのかが想像しづらいところがありました。チョコのほうも、わたしからすれば些細な事で暗御留燃阿を持ち上げすぎているような気がしていました。

今回も教え上手な暗御留燃阿に対して、「王立魔女学校始まって以来の優秀な黒魔女と言われるだけのことはある」というセリフがありましたが、直前に暗御留燃阿のアドバイスによって呪文が成功する過程が3ページも割いて書かれていたのと、それに対するチョコの反応が妥当だと思ったので、ふつうに「燃阿たん優秀だなぁ😊」と感じました。p121のやや伏し目がちなイラストも相変わらず美しかったです。今巻はパンツスーツスタイルでしたが、次巻は生脚を拝みたいです!

 

大形復活? しかし……

 黒魔女しつけ協会のグラシュティグ会長がひらくユールサバトに出席することになったチョコ・ギュービッド・暗御留燃阿。実はチョコを密かにテストしていた会長は、試験に突破したご褒美として、「超ウルトラスーパーハイパーミラクルロイヤルデラックス魔法」を使ってくれます。立ち尽くすチョコの前に現れたのは、なんと記憶と魔力を失って桃花の看病を受けているはずの大形くん。会長によれば、なんとか体力は戻ったものの、彼自身が拒否するので記憶を取り戻せないのだそうです。

大形が現れるシーンの描写、とても好きです。

人の形になった。まっすぐに立つ、ひとりの人間の形に。

ふだんだったら、気味のわるさに悲鳴をあげていたと思う。飛びのいていたかもしれない。

でも、あたしはどちらもしなかった。

それどころか、となりにあらわれた人の形をしたものに、あたしは目をうばわれていた。

『黒魔女さんと秘密のサバト』p191

 ふだんの『黒魔女さん』は、チョコさんの目から見えたものをリアルタイムで読者に伝えている感じがします。でもこのシーンは、「あたしはどちらもしなかった」「あたしは目をうばわれていた」と、すこし引いた視点から自分自身を観察している気がするんですね。

このシーンのチョコは、大形くんを前にして、信じられない気持ちや嬉しい気持ちがまざって頭の中が真っ白になってたと思います。でもどこかではっきり目の前の事態を認識している部分もあって……というのが、この描写にあらわれているのではないかと思いました。

それからなんといっても暗御留燃阿の描かれ方がよかったです。元弟子の現状を知り、罪悪感で泣き崩れる暗御留燃阿。グラシュティグに「大形には彼の過去を作ったお前が必要だ」「改心を行動で表せ」と言われ、こくこくっとうなずきます。

ボロ泣きしてちょっと希望になるような言葉をかけられてこくこくうなずくというのは、どちらかといえば子どもっぽい行動で、ふだんの暗御留燃阿のイメージとは違うのですが、それが逆に罪の重さと無力さに打ちのめされるしかない感じが出ていて素晴らしかったです。こういうのを10年求めていたんですよ……。これから大形との関係もかなり掘り下げられるでしょうし、彼女の心情の揺れもさらに踏み込んで描かれると良いですね。

次巻はチョコ・ギュービッド・桃花・大形・暗御留燃阿の5人で「死者の世界」に行くそうです。おそらく京太郎関連の回収があるんだと思いますが、これまで「人は死んだら灰になってはいさようなら」という設定だった『黒魔女さん』で死者の世界がどのように描かれるのか楽しみです。

それから、グラシュティグの「ギュービッドが犠牲と屈辱を味わうかもしれない」という予言めいたセリフも気になります。今から発売が待ちきれないですね!

 

 

終わりに

暗御留燃阿オタとしては、推しがようやく大形問題に本格的に関わってくれて良かった……という気持ちです。

悪役時代に好きになったのもあって、私は彼女に真人間になって欲しいとか大形がかわいそうだから罰を受けて欲しいとか思ってるわけじゃないんですよ。改心した、良い人になったというのなら、そこに至るまでに何が起きてどのように心情が変化したのかを知りたいんです。

「すっかり許されてみんなとも仲直り」というのは物語の中の暗御留燃阿としては幸せかもしれないけど、わたしは悪役だったときの彼女も好きなので、そこからの変化の過程があまり描かれないというのは、暗御留燃阿自身が描かれない・キャラとして軽く扱われているのとおなじだと思ってしまうんです。

だから次巻は、大形との感情のやり取りがしっかり描かれて欲しいです。幼少期をうばわれ、人生をめちゃくちゃにされたことを簡単に許せるわけがないと思うので、大形には怒りやら悲しみやらをきちんと暗御留燃阿にぶつけて欲しいなと思っています。

次巻も楽しみです!

 

 

 

次巻はこちら

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