面白かったところ
大形の孤独感の描写や表現。特に1話の、ぬいぐるみと会話する箇所でそれが現れていたような気がします。たとえば、10ページに以下のような箇所があります。
「こんな大きなもの、忘れる?だねぇ。それに不思議な模様がついてるねぇ」
ぬいぐるみのいうとおり、木のふたには、線を組み合わせた記号とも模様ともつかないものが、いくつも彫ってある。
黒魔女さん本編の描写によれば、ぬいぐるみの声も大形が当てているのであり、二人一役を演じています。でも、スピンオフでは特にその辺の解説はなく、「ぬいぐるみの言うとおり〜」など、大形くんが本当にぬいぐるみと話しているように描かれていました。
これが、孤独で病んでいる感じというか、可哀想だけど周りから見たら不気味、みたいなところが出ていて、しょっぱなかわくわくしました。
大形がぬいぐるみと話しているように錯覚しているのは、寂しいとか、本当は友達が欲しいという本心の表れだと思います。でも、そこを直接的に「ぼくはさびしくてクマのぬいぐるみと喋った」とか書いてないところがいいなと感じました。その方が孤独の根が深い感じがするから。
また、大形がそんな状態なのはぬいぐるみつけられてるからなんだけど、彼の寂しさを唯一和らげているのも封印のぬいぐるみとのおしゃべりである、というのも皮肉で良かったです。
他のシーンでいうと、ミニョンヌを三月うさぎの時計店においていくシーン。大形くんが「ただし、大切にかわいがってくださる方にだけ。それだけはくれぐれもお願いします。」と書いた張り紙を用意します。「それだけはお願いします」という言葉が、単に優しいのではなく「自分も大事にされたかった」という気持ちの表れのような気がして、グッときました。
このように、「原因のわからない孤独感に苦しむ大形」が丁寧に描写されていたので、「友達になれるかもしれない」というところからチョコへ憧れを持ち始めるのも、切実で胸を打つ感じでした。友達になりたくて、ずれてるなりに、サイクリング事件や灯子ちゃんの事件でチョコを助けようとするのも健気で、等身大の小学生感がありました。
一方で、ろくに人間関係を築いてこれなかったため、距離感をつかむ力などが年の割に幼く、ところどころで言動にキモさがあるのもらしいなと思いました。ねこねこ騒動の時に、何も会話してないのに「まっすぐぼくを見てくれたから気持ちは伝わったと思うけど〜」と思い込んでいるところとか。ちょっとゆがんでいる感じが大形の魅力だと思うので、こういう部分は面白かったです。
個人的には、モアとの会話のシーンで大形がモアの唇に人差し指当てるのが萌えました! 「黒魔女さんのハロウィーン」で、チョコがギュービッドに同じ仕草をするシーンがあり、そのオマージュかなと思ったので。アクティルなど、20年近く登場していなかったキャラのまさかの活躍も、初期ファンとしては嬉しかったです。
微妙だったところ
ただ正直、初読時の感想は「思ったより内容薄いな……」というものでした。
このスピンオフでは、本編の内容をほぼ全部振り返っています。特に2話は「黒魔女さんのシンデレラ」〜「黒魔女さんと黒魔術の王」まで、数十巻分の内容が150ページにまとまっています。そのせいか、一つ一つの掘り下げはあまりされず、本編のダイジェスト版を見ている気持ちになりました。
本編で大形が活躍した話(シンデレラやホワイトデーなど)の裏側を、本編で語られなかった過去エピソードやチョコへの思いなどを挟みつつ、掘り下げていくようなストーリーかと思っていました。しかし、実際は、魔界復讐計画を説明する→失敗の事後報告の繰り返し。
「孤独な大形がチョコに影響を受けて変わっていく」的なのがこのスピンオフの大筋だと思いますが、各巻のあらすじ紹介+大形の一言感想ぐらいな感じに終始しているように見えて、大形がチョコに救われていく過程とか気持ちがいまいちわからなかったです。
例えば「黒魔女さんのホワイトデー」には、ぬいぐるみをつけられる直前に「黒鳥さん、優しいんだね」というシーンがあります。それまでは「魔界の王になるんだー」的なことを言っていた大形の本音がかいま見えるような、印象的なセリフでした。
しかし、スピンオフではこのシーンに一応触れられてはいるものの、「『黒鳥さん、優しいんだね』と言った。でもなんでそんなこと言ったのかはわからない」ぐらいで終わっていました。前後でどんなことがあったからこんな言葉が出てきたのか、などを詳しく知りたかったのですが……。
触れるだけというのはそれ以外でも同様。暗御留燃阿についても、本編でやや駆け足だった、和解の過程などが答え合わせされるかなと思っていました。直接的なシーンではなくても、「だから大形はモアを許したんだな」ということが想像できるような内面や過去エピソードなどがあるのかなと……。しかし、そういうものは特になく、2話の中盤になっていきなり「桃花より教え方は優しかったような……」「助けたいと言ったのは少しは本心だったような……」とかいってて面食らいました。
キャラの言動も無理があると思う箇所が多かったです。例えば、暗御留燃阿が大形をとめるため、自分の古い日記を送りつける、というシーンは、いくらなんでも不自然すぎると感じました。その後の会話シーンも、「魔女学校のギュービッド」であれほど立体感を持って書かれてたキャラとは思えず。
メリュジーヌ先生が大形の境遇を黙認していた件とかも、あえて触れるならもっとがっつり回収して欲しかったです。深い事情がありそうなエピソードを、簡単な説明で終わらせていると感じるものが多く、「ここもっと知りたいのになー」と何度も思いました。
あと、本編40巻分の大形くんの出番を全て振り返るのなら、もう少し魔力封印が解けて以降(「黒魔女さんのシンデレラ」以降)の配分を多くしてほしかったです。本作品の半分ぐらいを青龍編〜無印3巻の振り返りが占めているのは何でなんだろう? しかも、そのさらに半分ぐらいを青龍編と無印第一話という、大形くんが大して活躍しないエピソードに割いているのもなんだかな〜と思っちゃいました。
まとめ
石崎先生がすごい気合い入れて書いてるのは感じました。各話の冒頭に文学作品の引用入れるとか「世界の果ての魔女学校」っぽさを感じたし。お部屋でも、今作のイメージソングとしてボブディランの「Shelter from the Storm」を上げていました。
以前、石崎先生は「児童文芸」か何かの記事で、物語の雰囲気や世界観を作り上げることにこだわりがあるようなことを言っていました。だから、ちょいちょい差し込まれたおしゃれな要素を見て、きっと石崎先生の思い入れが強い作品なんだろうなと思いました。章タイトルもかっこよかったし。実際、1話冒頭の孤独の部分は引き込ました。
ただやっぱり、全体的な感想としてはあまり面白くなかったです。前2作のスピンオフ「魔ちがいだらけの恋バトル」「魔女学校のギュービッド」は、特定のキャラのファンではなくても、物語として楽しめる作品でしたが、これは大形のファン向けかなという感じがしました。
大形自体、暗い過去、京太郎の謎など、濃いエピソードがとても多いキャラだと思います。1巻で終わらせず、「黒魔女の騎士ギューバッド」や「魔女学校物語」のように、3巻ぐらいで読みたい内容でした。いろいろ事情もあるのでしょうが、ぜひ第二弾や第三弾が出てほしいです。人気もあるし、いろんな角度から掘り下げて欲しいキャラなのに、これで終わってしまうのはもったいないと思いました。