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青い鳥文庫『黒魔女さんが通る‼︎』 をだらだら語る  

【黒魔女さん外伝】こういうのを待っていた!「魔ちがいだらけの初恋バトル」【東海寺&麻倉】

あらすじ

無印1巻〜無印3巻の裏側を麻倉&東海寺の視点から描く。スピンオフ企画第一弾。

 

感想

一言で言うなら、「そうそう、こういうのを読みたかったんだよ!」という感じのスピンオフでした!

外伝企画が発表された時点で、「無印1〜3巻の裏側で麻倉&東海寺がどのように行動していたのか」という内容になることはわかっていました。なのでストーリー展開よりは麻倉・東海寺というキャラクターの掘り下げに期待していたのですが、想像以上にその”質”が良かったです。本編では描かれなかった意外な一面を見せつつも「え、そんな設定知らないんだけど」となってしまうような後づけ感のあるキャラの広げ方ではなく、立体感が増すというか。二人をさらに知れて、好きになれるお話だったと思います! 

 

麻倉くんパート

麻倉くんパートで思ったのは、「この子、かなりいい子だな……」ということです。

たとえば冒頭、チョコを意識し始める場面。

チョコと同じクラスになった麻倉は、さりげなく彼女を観察します。見れば見るほど「究極の陰キャ女子」で、親しい子もいなさそうな様子。

彼は講談組組長・麻倉豪太郎の孫であることに誇りを持っていて、「極道としてかたぎの友達は作るな」という祖父のいいつけにも従っています。なので学校でも人を寄せ付けないオーラを放っているのですが、チョコがあまりにも一人でいるのを見て密かに心配しているのです。

まさか、全員からハブられてる? 新学期が始まったばかりなのに?

みんなの気にさわるようなことでも口にしたのか、やらかしたのか……。

極道としてのプライドや「クラスのやつとなんてつるまない」という態度は麻倉のモットーというか、かなり大切にしている部分だと思います。そうでありつつ、ぽつんとしてる子を見て心配とかしちゃうところに、生まれ持った性質の良さみたいのを感じました。

また、相手の意思を尊重したい気持ちと恋心で揺れ動く様子も可愛かったです。

麻倉がチョコを好きになったのは、周りに流されず「一人でいることが好き」な自分を大切にできるところに惹かれたからでした。想いを伝えたい、気づいてほしい気持ちはありつつも、それが望まれていないことも分かっている。なので恋心をおしこめ、チョコの領域に土足で入ってくるやつと戦うことで相手を守ることにするのです。それは東海寺と喧嘩するときの言葉えらびにも表れています。

黒鳥が迷惑しているだろ、とはいわなかった。これからはそういわないようにしようと、心に決めたからだ。

名前を出せば、黒鳥が巻き込まれたことになる。これはあくまで東海寺とおれのあいだのもめごとで、黒鳥には関係ない。そうすることで、黒鳥の「ひとり」を守れる。それこそが、東海寺とおれのちがいだってこと!

小5にして、自分の気持ちを伝えることではなく相手の生き方を尊重することを選べるのが、まずいい子すぎるなと思いました。そして直接話したわけではないのに、チョコが何を大事にしているのかを分かっていて、さりげなく守る。察しがいいし、気遣いも上手すぎて……。

でもやっぱりそこまでわりきれない部分もあるのも人間らしくて、初恋を知ったばかりの小学生らしくもありよかったです。

黒鳥のために戦っているのに……。

そんな、恩着せがましいことを言うつもりはない。

ただ、ちょっとでもいい。おれの本心をわかってくれたらなぁ。

でも、そんなことを思うことがすでに、恩着せがましいのか。

毎日、黒鳥と机を並べられることを、すなおに感謝すればいいのか……

 

「くれたらな『ぁ』」が切ない。そう思った直後に「そんなことを思うことがすでに恩着せがましい」と考え直すのも真面目な麻倉らしいです。

無印2巻のサイクリングの話も載っていたのですが、そこでもサイクリング企画が発表された際の表情の変化から「黒鳥は運動神経悪いし本当は行きたくないのかな」と察してたりとか、らしいシーンがたくさんあってよかったです。

 

東海寺くんパート

「一見ぶっきらぼうだけど実はシャイで一途」という、本編でも書かれていた魅力をさらに深掘りした感のある麻倉と比べると、東海寺は意外な一面が新たに書かれたという第一印象でした。

驚いたのは、以外と冷静で策士っぽい部分があったこと。本編では「まっすぐ元気な小学生」という印象だったのですが。

一番印象に残ったのは幼馴染の海音寺美珠亜ちゃんとのシーン。麻倉と「当面の間チョコにアタックしない」と休戦協定を結んだ東海寺。そこに美珠亜ちゃんがあらわれ、麻倉の協定破りを伝えてくれるのですが、そのときの対応が、なんか冷たくない……? というか(笑)。

美珠亜ちゃんは「魔性の女や麻倉くんとの勝負なんかにこだわる必要ないのよ」と言いたくて伝えているのですが、本人は半分ぐらい聞いておらず、「じゃあ対抗するために自分はこうしなきゃ」とほぼ逆の考えに。なのに計画のために美珠亜ちゃんに色々用意させたり……(泣)。

でもそれが「彼らしいな」と腑に落ちた感じもあります。

なぜかというと、「まっすぐな小学生」という部分は実は本編と変わってないからだと思います。一見策士っぽいけど、実は一直線に目的にむかって進んでるだけなんですよね。

たとえば、実家の『東海寺』についてのシーン。すっかり衰退してしまった寺を見て、自分が再興させるんだと心に決めています。そんな時お父さんに美珠亜ちゃんとの仲をからかわれ、ふざけるなと思いつつも、「東海寺を立て直すには、ほんとに海音寺の力を借りた方がいいのかも……」とナチュラルに政略結婚ぽいことに触れてたりするんです。

それだけ抜き出すとぱっと見、計略家みたいかもしれないんですが、たぶん緻密な計算をしているわけではなくて、「東海寺の再建」という目標に向けてNGなしでまっすぐ考えたらこうなった、という感じだと思うんです。上記の美珠亜ちゃんとのシーンも、「謎の霊力の持ち主を倒す! 黒鳥をめぐる決勝戦にも勝つ!」ということだけにストレートに取り組むから、逆に策士っぽい印象になるのかなと思いました。

チョコ視点で見るより冷静ではあるけど、単純なところとかは意外とそのままなのかなと。

実家についても、「東海寺のお父さんは自分に霊力がないことが受け入れられず、何かに封印されているだけと思い込んでいる」とかけっこう重い設定が明かされましたが、一人称の語り口に湿っぽい雰囲気があまりないように思いました。

麻倉がけっこう繊細な感じだったので、対比が面白かったです!

あと、本編では「ちょっとだけ霊力がある」という描かれ方をしていましたが、ギュービッドやエクソノームなど魔界のものにも気づかれないで結界を張ることができるなど、かなり強くない? と思いました。少なくともこの時点ではチョコさんより実力がありそうです。

全体的に

本編はチョコさんの目線で進んでいきます。なので20年近く麻倉・東海寺を見ていても、実は彼女から見た二人でしかなく。生の二人って実は全然知らなかったんだなぁと改めて思いました。

それは新情報や本編では描かれなかったシーンが読めたからというだけではなく、二人の視点で書かれた地の文を通じて「麻倉くん・東海寺くんはまわりの子や状況をこういう風に見てたんだ」と、それぞれの「世界」に触れられたような気がしたからでもあります。

また、本編1〜3巻と比べて、同じ出来事でもどこが違って語られているかに注目して読むことで、チョコさんのことも別の角度からみれたと思います。

それから、あとがきで石崎先生が「サブキャラの『人生』に光をあてる」とおっしゃってたのが印象的でした。二人のかっこいいシーン、可愛いシーンが並んでいるだけではなく、それぞれ「このキャラはどういうひとなのか?」がじっくり書かれていたからこそ、特別二人のオタクでもない私にも届くぐらい面白く感じられたんだと思います。

残る2外伝でもぜひ、「このキャラはどんな信念や価値基準を持っているのか」「なぜそれを持っているのか」「その信念がどんな出来事を通じてどのように変化していくのか」などを掘り下げて、心に響く人間ドラマを見せていただきたいなと思っています!

そして「恋バト」もぜひ続編を! 既存の外伝と同様に3巻はやってほしいです!

 

続きも楽しみです!