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青い鳥文庫『黒魔女さんが通る‼︎』 をだらだら語る  

【6-1黒魔女さん】激エモ師弟愛と激強ライバル、ほろ苦いラストの神巻『黒魔女さんの卒業試験』【19巻感想】

前巻はこちら

 

krmjsnfan.hatenablog.jp

 

あらすじ

ついに迎えた黒魔女修行の卒業試験。その内容は「6-1の魂を抜き取り、エクソノーム様の立太子の礼に送り届ける」というもの。6-1を犠牲にしたくないが、不合格の場合はギュービッドとエクソノーム様の結婚が反故になってしまうかもしれない。その他の選択肢として白魔女になるというのと、誰かと恋に落ちて魔界追放になるというのがあるが、どちらも選びたくはない。板挟みになるチョコだったが、黒魔法で3日間の猶予を与えられる。果たして3日で解決策を見つける事ができるのか?

 

ギュービッドとチョコの師弟愛

久々の描写

ギュービッドの幸せをとるか、6年生みんなの命をとるかで板挟みになるチョコ。また、卒業式が近いことや黒魔女修行のおわりを匂わされることでセンチメンタルな気分が高まります。

全体的にギュービッドへのボディタッチやエモい文が多かったのが印象的でした。

 いままで二年間、ずっとふたりでがんばってきたんだもの。苦しいときは、ギュービッドさまにだけは、あまえたっていいはず……。

 気づいたときには、あたしは背中にしなだれかかっていた。

弟子を1日、ほったらかしたんです! その分、重みをたっぷり感じなさい!

最近は恋愛パートが多く、ギュービッドへの思いがじっくり描かれることは少なくなっていたので、「おっ」と思いました。初期のファン的に嬉しかったです。卒業試験が実際に始まり、ギュービッドと別れることが現実味を帯びてきて寂しい気持ちとか、不安で頼りたいけど口に出せない気持ちが伝わってきました。

 スマホの使い方練習シーンなどもありましたが、このシリーズで繰り返し描かれてきた二人の何気ない日常やバカバカしいやりとりも最後だと思うと切ない気持ちになりますね。

激エモ師弟愛

エクソノーム様についてうっとり語ったり、ラインのアイコンをエクソノーム様にしているギュービッドを見て、想いを遂げさせてあげたいと改めて思うチョコ。また、6年1組のメンバーと黒板アートをしたり、給食を食べたりして「ずっといっしょだったらいいのに。中学生になんか、ならなくてもいいのに」と心が揺れます。

そんななか卒業式前最後の黒魔女修行が行われます。チョコは謎にモテるので、卒業式で告白されるかもしれない。その時に男子が本心を言ってなかったら困る。なので本心を見抜くス魔ホアプリ「チート」を使う練習をすることになります。

練習台としてミニチュアサイズの大形人形(ギュービッド作)を使うことに。彼女の裁縫得意設定がでてくるのもひさしぶりですかね? 初期ファンへのサービスっぽいの多くてうれしいです。

笑い転げながら大形人形にスマホを向けるチョコとギュービッド。最後の修行が、修行というよりはじゃれあいみあいで楽しい、という描写が切な美しいです。見習い黒魔女のまま、いつまでも一緒にいたいという思いがますます強くなるチョコ。でもそれはエクソノームとの結婚を諦めさせるということだし、わがままだ……と落ち込みます。

そんな弟子にギュービッドは、卒業試験の心得を語ります。

「不合格になってもいいんだぜ 。(省略)合格できなかったら、あたしに悪い、って思ってるのかもしれない。けど、そんなこと、考える必要はないからな」

「だって、あたしが根っからの劣等生だから。あたしはそんなの(注:試験に落ちること)『フツー』だから。むかしからずっと。」

ここで、「黄色い瞳が、あたしをやさしく見下ろしていた」という一文が入るのが沁みました。いつもどおりふざけてばかりだけど、チョコがずっと抱えてた不安や、師匠に迷惑をかけたくない気持ちを、ギュービッドはわかってくれていたんだ、というのでじーんときました。「自分は劣等生だから、落ちるのが『フツー』だから」という、ちょっと自虐がはいった言葉で励ましてくれるのも不良っぽい哀愁があってギュービッドらしいです。

「ただし! 失敗するときは、かっこよく失敗しろ」

「グダグダしたり、メソメソしたりは禁止。それから、みんなから笑われたり、うらまれたり、だれかを悲しませたり、そんな失敗のしかたも許さないぜ。」

チョコの指を握りしめて語るギュービッド。最後まで読んでから振り返ると、この時点でチョコとの別れをある程度覚悟していたんでしょうね。計画のすべてをこの時点で伝えることはできないけど、気持ちだけは伝えたい、みたいのが、この指の描写から感じ取れる気がします。このシーン挿絵がついているのですが、まっすぐにチョコを見つめるギュービッドの横顔が美しいです。

眠りに落ちるまで横にいてほしいと頼むチョコ。それに「いい夢を見させてやるぜ。ただし、黒魔女のいい夢は悪夢だけどな」と笑い返すギュービッド。いっしょの布団に入り、黒革コートにほっぺをこすりつけます。魔界長編でもないのにこんなにわかりやすく甘えるのはまあまあめずらしい気がします。できるかぎり一緒にいたいというのと、今この瞬間一緒にいられて幸せというのをお互いに思ってる気がしてグッときました。

ギュービッドの寝顔にあらためて「なんて幸せそうな顔……」としみじみするチョコさん。それを見ながら「ギュービッドの言葉どおり明日は不合格になろう!」と決意します。

ギュービッドの顔見るだけで、ギュービッドの弟子だからというだけで勇気が湧いてくるの、この2年の積み重ねのおかげで説得力あってすごいエモいです……。師弟を越えて家族のような存在感というか。心の中にはいつもギュービッドがいて、そのこと自体がチョコの力になってるという感じがしました。

 

アツい頭脳バトル

3日間で色々怪しい事が起こります。例えば、卒業式の練習中にチョコのス魔ホの通知音が鳴り続けたり、謝恩会の記念品が次々に変わったり。

結論から言うとそれは暗御留燃阿とギュービッドの仕業。実は「6年生の魂を抜き取れ」はチョコではなく大形の卒業試験内容でした。正しくは「チョコを操って6年生の魂を抜き取らせろ」なのですが、ホワイト大形にはそんなひどいことできないだろうと判断した暗御留燃阿が問題を書き換え、弟子が自分の手を一切よござすに合格できるように細工したのです。

まず問題を書き換え、魔プリをつかって大形ごとあやつる。でも時間が巻き戻ったことによって計画が狂ったので、謝恩会の記念品として魔力が低下する「成績ダウン」のジャケットをチョコに送ったりして当初の計画がうまくいくようにはかりました。

それに気づいたギュービッドも反撃に出ます。相手の本音を知れる「チート」魔プリをつかわせることでチョコに策略の全貌を気づかせ、6年生の犠牲を阻止しようとしたのです。そのために必要な「チートテック」を大形に送ったりもしました。

チョコが卒業式や卒業試験でセンチメンタルになってる裏で、暗御留燃阿とギュービッドがいろんな思惑が絡んだ頭脳バトルをしていた、というのが”大人”という感じです。メリュジーヌ校長から届いたメッセージのなかにも「弟子の卒業をめぐってインストラクター黒魔女同士が戦う、そんなことは前代未聞の不祥事」という一文がありました。タイプは正反対だけど頭がいいのは共通してて、お互いの策略を見抜けるのはお互いだけ、という王道のライバル関係がアツいです。

「チート」魔プリで大形のス魔ホをのぞいたチョコさんは、その使用履歴から真相に気づきます。大形のス魔ホは師匠のお下がり。しかも魔プリによって操られている人の中に大形も入っていた。ということは、自分とギュービッドを騙したのは暗御留燃阿であると。

悪役の暗御留燃阿ではなく、しっかり更生した暗御留燃阿が昔のようにチョコやギュービッドを罠にかける、というのもよかったです。弟子のために6年生の魂を犠牲にする、その役目をチョコにすべて押しつけるというのは冷酷な選択です。だけどそれは「反省しきれていないから」「悪に支配されているから」の行動ではないと思います。善悪の話ではなく、もともと目的のために他を切り捨てる判断ができる人なんだと。すごく彼女らしくて、黒魔女の”性”というものも感じられて、オタクは嬉しかったです。

実際、暗御留燃阿は改心しましたし「いい人になった」ともいわれてきました。でも全貌を知ったチョコが「なんて頭が良くてひきょうなやり方なんだ」と反応していたように、それは必ずしも「チョコが考えるようないい人になった」ということではない、ということがわかる気がします。

改心しようとしまいと、暗御留燃阿にもチョコたちとは違う独自の思考回路や価値観があるはずです。特にギュービッドとは明らかに対照的なキャラですし、仲間になってもその「違う」部分は持ちつづけてほしかったので、今回の展開は嬉しいです。

卒業試験直前も、ギュービッドはチョコに「不合格になってもいいんだぜ」と言い、暗御留燃阿は大形に「絶対に合格するわ!」と言いました。どちらも弟子を思ってることは同じでも、言動が正反対になるのがこの二人らしくて萌えました。

前巻「インストラクターはなにをおいても弟子を助けるもの」というセリフがありました。ギュービッドにとって「なにをおいても」というのは「自分がどんなつらい目にあっても」みたいな自己犠牲系を指すのでしょうが、暗御留燃阿にとっては「どんな非情な手段をつかっても」という意味だ、というのも示されておもしろかったです。

 

ほろ苦いラストシーン

6年生の魂が抜かれるのを阻止したいチョコ。そのために選んだのは、自分と大形が恋に落ちることで魔界を追放され、卒業試験自体を止めることでした。それはつまり、ギュービッドたちともう会えなくなることを意味します。

ス魔ホに入っている「カップリング」魔プリ。これで好きな人の写真をとるとたちまち両思いになれる、というLOVEな代物です。6-1を救うため、魔プリを起動して大形に向けるチョコ。画面に映った大形の美しい顔を見て、泣きながらシャッターを切ります。

そのとき、ス魔ホにメッセージが。「5110(=ファイト)」。ギュービッドからでした。

京チョコが結ばれるという、ドラマチックでロマンチックなファン待望のシーンを、ギュービッドとの別れと引きかえにもってくる、という石崎先生のセンスに痺れました。ここで大形の美形描写が入ってくるのもキュッとなりますね。ほろ苦くて黒魔女さんらしくてすごい好きです。

また、ギュービッドとチョコの絆も感じて、それが逆に切なかったです。

最後の「5110」メッセージからすると、ギュービッドは弟子の行動が全て分かっていたんじゃないかと思います。直前に「試験に失敗してもいいが、誰かを悲しませるようなことはするな」と言ってました。魔界から追放されて別れることになってでも、チョコが6-1を救うのがギュービッドにとって本望だったんじゃないかと。

ギュービッドはチョコが「カッコ良く失敗しろ」という言葉を受け止めて行動してくれると信じてたし、チョコもその意図を全て理解して「カップリング」を使った。お互いに対する信頼を感じます。その結果別れることになる、というのが胸が締め付けられますね。

「5110」メッセージに対して「おまえのやってることは、全部お見通しだ!」と叫ぶチョコ。このセリフは巻の前半、ギュービッドがチョコに対していつものおふざけシーンのような軽いノリで言っていました。それをラストシーンでこんなに切ない形で回収するというのにも感動しました。

「5510」が別れの台詞っていうのも重々しくなくてギュービッドっぽいです。

巻全体を通して卒業試験に対する迷いを散々書いて、楽しい修行シーンを通してチョコのギュービッドへの思いも書いて、最後はチョコの決断でギュービッドと別れる。すごい美しい流れで、ぐさっときました……。

 

次巻のなぞ

気になるのは、暗御留燃阿の思惑とは別に、大形が何か考えているのではないか、ということです。いくつか意味深な描写がありました。

・桜里おばあさんの「大形の心に鬼が住み着いている」という発言

・6-1のスマホ講習のシーンで、チョコがスマホ持ってることを知ってたのはなぜか

・卒業式練習のシーンで意味ありげな表情で見てきたのはなぜか

・告板アートを提案したのは思い出作り以外の意図があるのか

・チョコと大形は告板アートに何をかいたのか

また、卒業式で慣用校長が大形に送った「死んじゃったものは、しかたないわ。このりすは、そのうち土になるでしょ。やがて、そこから木が生えて、あらたなりすたちがはねまわるのよ。それでもあんたは、かなしいことだと思う?」という言葉も意味深です。

私は、実は校長を暗御留燃阿が操っていて、「6-1は犠牲になるけどその分大形が黒魔法使いとして強くなれる」というメッセージを伝えている(死んじゃったもの=6年生の魂、そこから木が生えて〜=大形の未来、と読み替えて)のかと思ったんですが……

それから、左端さんはまた関わってくるのか? ギュービッドが春休みもチョコをしごかないと、のような発言をしていたのは何か意味あるのか? なども気になります。

次巻も楽しみです!