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青い鳥文庫『黒魔女さんが通る‼︎』 をだらだら語る  

【6-1黒魔女さん】この上なく美しい最終回!!チョコさん18年間ありがとう【最終巻感想】

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【6-1黒魔女さん】激エモ師弟愛と激強ライバル、ほろ苦いラストの神巻『黒魔女さんの卒業試験』【19巻感想】 -

あらすじ

6-1を救うため、そしてギュービッドとエクソノーム様の結婚を叶えるため、大形くんと恋に落ちて魔界を追放になったチョコ。しかし魔力を失ったはずなのに、なぜか黒魔法が使える。さらには、エクソノーム様とギュービッドの結婚を阻止しようとする勢力も現れて……

 

感想

束縛彼氏風?の大形くんと腐れ縁のメグ、死の国の陰謀

魔プリによって魔力を失い、大形くんと恋に落ちたチョコ。大形は黒魔法使いだった記憶を完全に失っているらしく、チョコを強引にデートに誘います。

麻倉&東海寺に高圧的だったり、デート中にスマホを見るのはマナー違反だと一方的に告げたり、「束縛系彼氏」っぽい言動をする大形くん。この部分は試し読みで公開されていたのですが、今までの”憧れのきみ”ムーブと違いすぎて、「大形くんって恋人相手だとこうなっちゃうの!?」とびっくりしました(伏線でした)。p47の、チョコのスマホを笑顔でとりあげるイラスト、真面目に怖いよ……笑。

そんなモラハラ風大形に「なにをいってるの、大形くん」と毅然と言い返すメグ。最終巻はメグの、「なんだかんだ腐れ縁でいちばんの友達」という部分がずっと強調されていて、けっこういい役回りをもらってた気がします。「おもしろい話が読みたい! 青龍編」に入っている第1話はいじめにあっているメグを助けるお話ですし、原点回帰感がありました。

大形から逃げるようにかけこんだトイレで、ギュービッドと再会するチョコ。なんとギュービッドはメグの姿になっていました! 聞けば、ギュービッドの想い人・エクソノームが皇太子になることに反対の兄・エマリノームが、因縁をつけて二人の結婚を阻もうとしているというのです。なので身を隠しているのだとか。

メグの姿のギュービッド、新鮮でした。見た目はハデハデ小学生のメグなのに、口調が乱暴だったり目を黄色く光らせたり。このシーン挿絵見たかったです〜。

そしてエマリノーム。無印1巻の第3話では「エクラノーム」という名前で登場しています。ギュービッドがエクソノームとよく似た父の写真をみてうっとりしているシーンに名前だけ出てきましたよね。この兄弟もけっこう複雑です。

 

クリスマスメンバーとの再会

最終巻は「黒魔女さんのクリスマス」で登場したキャラクターがたくさん出てくるのも印象的でした。

たとえば「あ、くま」。「黒魔女さんのクリスマス」では悪役のロベ・ル・プティに熊の姿に変えられ、魔界で寂しい生活を送っていた元人間でした。今はチョコたちの奮闘により元の姿「岩田特大五郎」に戻り、パンケーキ屋をしているようです。

さらっと語られましたが、「あ、くま」は横綱の親戚だったという事実にびっくりです。横綱自身も記念すべき無印第1話で生き霊になっていましたが、地味に何かと魔界に縁のある一族ですね。

また、人気が高そうと私が勝手に思ってる「日芳向日葵」さんも再登場しました。

彼女もロベ・ル・プティの被害者の一人。ロベの弟子として魔界に連れてこられたものの見捨てられ、復讐として魔界の大草原で旅人たちを苦しめてきました。

「クリスマス」でロベが倒されたあとも、人間界に戻らず魔界で暮らし続けている日芳向日葵。チョコと同じく友達づきあいや人間関係が苦手なので、魔界の草原でたまにやってくる旅人にお茶を出すぐらいが性にあってるよう。

「クリスマス」では「夜ごとに生まれ、夜明けとともに死ぬ、虹色に輝く幻は?」というなぞなぞにチョコが答えられたことで、心を開いてくれた向日葵さん。魔界長編でチョコに協力してくれた人たちって、王立魔女学校の関係者だったり、わりとギュービッドやティカの人脈がベースにあった人たちが多い気がします。でも彼女はギュービッドや桃花では絶対に仲良くなれなかった、完全にチョコの魅力だけで味方になってくれた人物ではないでしょうか。人嫌いで似た者同士のふたりの独特な絆も好きなので、再登場してくれてうれしかったです。

「見れば見るほど、見えないもの。なんでもよく見えるときには、ぜんぜん見えないものは、なぁに?」と、深遠ななぞなぞを出す向日葵。これ、かっこいいですよね〜。答えは「闇」で最終巻のテーマにもなっているのですが、それをこういうさりげないけど何か心に残る言葉でお出ししてくるところ……。

ちょっと気になったのが、「エクソノームは束縛系でなんでも自分の思い通りにしないと気がすまないという噂がある」という箇所です。いままで「優柔不断で情けない」というキャラではあっても「束縛系」ではなかったと思うのですが。神経質だとはわかりつつ、最終回でそんな設定追加する必要ある……? というのは引っかかってしまいました。

そしてロベ被害者の会の最後のひとり、ソンセミーシャさんも登場しましたね! 彼女はロベの口車にのせられて恋心を寄せていた相手に呪いをかけてしまい、それを悲嘆して死んでしまったという過去を持つ死霊。旅人に可愛い服をせがみ、気に入らないと殺していましたが、チョコによって自分らしさを思い出し、今はオーバーオール姿です。

彼女もチョコの力で仲間になってくれた人だと思います。昔のキャラクターが最終巻ででてくるのだけでも嬉しいけど、それが「あ、くま」、日芳向日葵、ソンセミーシャであること。ただ「懐かしいね」というだけでなく、チョコが一人一人と作ってきた関係を感じられてうれしかったです。

あと、ソンセミーシャの仲間の「微少女」が面白かったです。

 

チョコの心の闇

とうとうティカを発見するチョコ。祖母が「両思いも」を育てるため、単身魔界にのりこんだのだと思ったチョコは芋作りを引き継ごうとします。

しかしなんだかティカの様子がおかしい。そうこうしているうちに死の国の和菓子店「たちば魔」の鬼奈子&暗子もあらわれ、6-1を犠牲にしたくなかったら両思いもをよこせと言ってきます。

悪ギューレという魔物に連れられた6-1。悪ギューレの元ネタは戦場で生きる者と死ぬ者を決める「ワルキューレ」だそう。ギャグっぽい名前ですが、由来も見た目も話し方も底知れない感じがあってかっこいいです。

6-1を助けるためには両思いもを渡さないといけない。でもそうしたらギュービッドはエクソノームと結婚できなくなる。迷うチョコに、鬼奈子&暗子は「お前は心の奥底では最初からエクソノームとギュービッドの結婚を望んでないはずだ」と言います。「このまま全てがかわらなければいいと思っているのだろう」と。

二人の言葉にはっとするチョコ。ギュービッドの幸せを望むようなそぶりをしながらも、本心では結婚なんてせず、今までと変わらず自分といてほしいとおもっていた「心の闇」に気づくのです。そしてその闇がエマリノーム一味に力を与えていたことにも。ティカも、孫が自身の思いと行動の矛盾に気づいて苦しむ姿を見たくなかったからこそ、一人で魔界に向かったのでした。

たちば魔の二人、最終巻で出番があるとは思わなかったうえ、美味しい役回りをもらってて笑いました。主人公に自分の問題と向き合わせるという……。

チョコの目標は「一番の成績で修行を終え、普通の女の子にもどる」。修行を始めた当初こそ本心だったのでしょうが、「黒魔女さんの修学旅行」でギュービッドに魔界を捨てて一緒に暮らさないかと提案するシーンなどからは、今も同じことを望んでいるとは思えません。

故郷を捨てさせてでも一緒にいたかったのに、簡単に「あなたの幸せが自分の幸せ」とは割りきれませんよね。石崎先生の作品って、一対一の関係の中で相手を思う強い気持ちが描かれることが多い気がします。しかも綺麗なところだけでなくエゴとか相手を振り回したりしてしまう部分も描かれていて好きなのですが、チョコさんのその部分をテーマにしてくれて嬉しいです。

さらに大形も登場し、もっと衝撃的な事実を告げます。チョコが心の闇に苦しむのは、大形の卒業試験の再試験を認めさせるため、彼のインストラクターである暗御留燃阿がしくんだことだったのです。

「魔プリ」をつかって魔界を追放されたチョコに「またギュービッドと絆をとりもどせるかもしれない」という希望を与えます。本心ではギュービッドとの生活を望みながら、彼女とエクソノームの結婚のために「両思いも」を探すという矛盾した言動をとることになるチョコ。すると次第に心に闇が生まれていき、苦しむことになる。その様子をしつけ協会に見せれば、大形の黒魔法使いとしての実力が認められる……という作戦でした。

つまりこの巻で起きたことって、死の国のお家騒動をぬかせば、全て暗御留燃阿の計画のうちだったということですよね。しゅごい。チョコの気持ちをいくらなんでも読めすぎです(笑)。実は自身もギュービッドへの友情とエゴの板挟みになったことがあり*1、だからこそこの作戦を思いつけたのかもしれないですね。

しかしここまで主人公を追いつめる役割を与えたからこそ、暗御留燃阿の出番がほしかったです。チョコたちからしたら敵のような行為をしても弟子を合格させたかったということ。他人を苦しめてでも大形のために行動するのは、ギューチョコ桃花とはちがうかもしれないけど、これが自分の考え方なんだということ。大形が一応説明してくれましたが、暗御留燃阿自身の口からききたかった……(涙)。でもスピンオフがありますし、そこで「もういいよ」ってぐらい活躍してくれると、彼女のオタクとしては信じています!

「再試験をみとめてもらう」という目的を達成した大形は、葛藤するみんなを置いてその場から立ち去ろうとします。「6-1を助けてあげて」とせがむチョコに「ぼくと黒鳥さんは立場が逆。きみに協力はできないよ」と告げる大形。「好きなカノジョとは対等の関係でいたいほう」だそう。

大形くんの人間らしい(?)一面がみれてよかったです。チョコ目線で描かれるのもあり、とくに13巻で改心してからはずっと「あこがれのきみ」という感じで、王子様フィルターがかかってない素の彼ってどんな人なのかなという気持ちがありました。

卒業試験のためにチョコを苦しめるというのは暗御留燃阿が決めたことですが、大形自身も納得した上の行為だと思います。微笑みを絶やさず恋人に甘々の「理想の彼氏」では決してなく、利害がぶつかった時は自分を優先させることもあり、相手を尊重するからこそ突き放すこともあり……。そういう人間らしいキャラクターなんだなということが、最終巻を読んでわかりました。望んでなったわけではないけど、黒魔法使いをやめることを考えていないのも”らしい”。中学生編はありませんが、もし書かれるなら彼を主人公にしたシリーズを読んでみたかったです。

 

あまりにも美しすぎるエピローグ

真の敵が自分自身だと気付いたチョコは、ある決断をします。それは、自分の意思で黒魔法使いをやめ、ギュービッドや魔界のみんなとの思い出も忘れ去ること。

最終章。中学生になり、黒魔女だった頃の記憶の一切を失っているチョコ。花咲桜里さんのことをちょっと気持ち悪い変わったおばあちゃんとしか思えなくなっているのは、胸がきゅっとしますね。

花粉症に苦しむチョコのもとにあらわれたのは、中学で同じクラスになった、第一小、第二小、幸小出身の女子たち。気になる男子が彼女たちの誰が好きなのかを占ってほしいというのです。

ここで好きなのが、3人が「メグに『チョコに頼むといい』と教えられたので来た」と言っているところ。無印1巻と同じシチュエーションでエモいのはもちろん、少し変化している部分もあって……というのが作中で流れた2年という月日を感じさせますし、メグとも相変わらず仲良いんだというのもわかってじーんときます。

何かに憑かれたかのように「キューピットさん」を始めるチョコ。「ギュービッドざん、ギュービッドざん、南の窓がらおはいりぐだざい」。そしてふとベッドを見ると、そこに黒い人影がすわっているように見えたのでした。

あまりにも美しい〆すぎてびっくりしました。最終ページのギュービッドのイラスト、これは事実上の第1話「おもしろい話が読みたい! 青龍編」に描かれたものですよね。18年間続いたシリーズの最後の挿絵が、主人公のチョコでも全員集合絵でもなく、不敵に笑うギュービッドであること……。

この良さ、わかりますか? 初期の頃のギュービッドの、まだ得体の知れない恐ろしい雰囲気がある絵。コメディタッチだけどダークなところもある作風は、2000年代に小学校生活を送った多くの児童の心をつかみましたが、その時の感覚を甦らせてくれる一枚です。また、わたしたちは二人の物語をずっと読んできたので、この顔が半分以上隠れて表情がわからないギュービッドを見て、当時は感じられなかったような温かい気持ちにもなれるんですよね。

最後の挿絵や「つうしんぼ」の内容からすると、チョコとギュービッドはふたたび黒魔女修行をはじめるのかなという予感もします。でもそこまで書ききらず、想像の余地を残して終わるところに石崎先生らしいおしゃれさを感じます。

個人的には、本当にギュービッドが現れたわけではないのかな〜とも思ってるんですよね。あの挿絵は青龍編のもので、今のものではないです。だから、チョコの思いが何かに反応して、出会った日の記憶が一瞬だけ形になったのかなとも。

いずれにせよ、大形くんが言っていたように「生まれては死に、死んでは生まれる。おわりはおわりじゃない。おわるからはじまる。失うから出会うんだ」です。もう一度修行をしたとしても、いままでのギューチョコではない、別の関係として再スタートを切るんじゃないでしょうか。

そしてこの大形の言葉は、われわれ読者にむけた石崎先生の餞別でもある気がします。長年追ってきたものが終わるというのは寂しいですが、キャラクターたちといいお別れができて本当に良かったです。

 

最後に

黒魔女さんの第1巻がでたのが2005年。そこから18年も経ちました。現役読者はもちろん、「昔読んでた。なつかしい」と言っている人たちの中にも、刊行当初は生まれてもいなかった人がいっぱいいるんじゃないでしょうか。

時代も変わりましたね。後半になるにつれエロエースがスカートあおがなくなったり(笑)。また、「他人はどうでもいい」という初期チョコさんの性格も、SNSによる有名人への誹謗中傷が話題になる昨今、かえって長所かもしれないですよね。私含めみんな赤の他人の人生に興味持ちすぎなんですよ。

私がこの作品に出会ったのは2006年。まさかこれほど長く読み続けることになるとは全く思っていませんでした。他にも追っていた物語などはあったのですが、一度も途切れることなく大人になるまで読み続けたのは黒魔女さんだけです。

黒魔女さんの、ベースはコメディでポップな雰囲気ながら、ときどきダークさや生々しさが顔をのぞかせる……という作風が本当に好きです。そしてギュービッドのキャラ設定や「黒魔女の騎士ギューバッド」の登場人物などからかいま見える石崎先生の美学。好きなキャラがいるとかももちろんなのですが、数多くの物語のなかで私がここまで黒魔女さんに心を惹かれたのは、そうした作品の空気感によるものも大きいです。

この作品は私の子供時代そのものです。「これが好き」という感覚に形を与えてくれました。長い間、本当にありがとうございました。

 

 

 

*1:「黒魔女さんのハロウィーン」、無印14巻あとがき参照