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青い鳥文庫『黒魔女さんが通る‼︎』 をだらだら語る  

【黒魔女さんが通る】作品の流れを変えた神巻!チョコにもギュービッドにもライバル現る!【無印3巻感想】

(2022/1/6)

暗御留燃阿さんお誕生日おめでとうございます。無印3巻感想です。

 

第1話

あらすじ

異常に運の悪いクラスメイト、須々木凛音ちゃんに厄払いを依頼されたチョコ。不運の原因を探るため、凛音ちゃんの様子をビデオカメラで撮影することに。そのさなかにもつぎつぎとふりかかる災難。ビデオを確認すると、そこに映っていたのはある人物の意外な姿だった。

感想

不運過ぎる凛音ちゃん

異常に運の悪いクラスメイト・須々木凛音ちゃん。前半は彼女の不運の原因を探るお話でした。

彼女の運の悪さは筋金入りです。授業中、こっそり手紙をまわす5-1女子。凛音ちゃんが手紙を持っていたときにたまたま見つかり、しかも学校ではなく塾で回していたキツめの内容の方を没収されて怒られるとか、公園でサッカーをしていた中学生にボールをぶつけられるとか。さらにその中学生に謝罪どころか「ぼーっとしてんじゃねえよ、タコ!」と罵倒されるとか……。

授業中回されている手紙がチョコには回ってこない(理由:まわってきても止めちゃうから)というの、陰キャあるあるで笑えます。ボールをぶつけられた時にチョコが、「こういう時のために本格的に人を呪える黒魔法が使えればなぁ」と言っているのも、何気に辛辣で草です。こういうブラックなことを平気で考える子なんですよね。黒魔女の才能があります。

入学したときから不幸エピソードに事欠かない凛音ちゃん。「4年生のとき、運が悪いことをおばあちゃんに相談したら、おばあちゃんが厄除けのツボを指圧してくれた。しかしそのせいでおばあちゃんの指が折れた」とか、はじめて読んだ時かなり笑いました。

また、不運エピソードに「5年間大形京と同じクラスで今年は席まで隣になった」というのがありましたね。同じクラスになること自体が不運扱いされてるって、一番可哀想なのは大形くんだろとつっこみをいれたくなりますが。チョコさんも普通に「それはたしかに同情する」みたいな反応なので、彼がいかに浮いていたのかがうかがえます。ちなみにこの箇所はその後の伏線です。

このお話は根元教頭先生の初登場回でもあります。不真面目な5-1には「ほんものの教育」が必要だとのたまう教頭。教育を建前にする大人が、実際は目の前の生徒そっちのけで自分の世界に浸ってるだけでうざい、というの、子供のころ一度は経験することだと思います。こういうところ、石崎先生の逆張り精神がでている気がする(笑)。

ぬいぐるみをはずせ

凛音ちゃんの不運っぷりを撮影したビデオを確認するギュービッド&チョコ。途中、画面に見切れた大形の左手に、トレードマークのぬいぐるみがないことに気づきます。そこから、ぬいぐるみは魔除けなのではないかと推測するギュービッド。ぬいぐるみが跳ね返した悪い運気が隣の席の凛音ちゃんに流れ、結果的に彼女の運が悪くなっているのではないかというのです。

この時、大形くんも黒魔女修行をしてるのかなとか、魔除けを作ったのは多分黒魔女じゃないかとか話していますが、めちゃくちゃ伏線です。この巻はシリーズ全体で見ても伏線のはりかたが丁寧な気がします。

魔除けをはめられてるとチョコたちの呪文まではね返してしまう。なので、大形のぬいぐるみを外すことに。まずチョコが醜いガーゴイルに変身。悪魔は自分の醜い姿を怖がるという原理を利用し、ぬいぐるみの中の悪魔を怖がらせ、追いはらおうという作戦です。このへんの仕組みとか本格的ですよね。黒魔女さんは基本ポップで親しみやすい作品だと思うのですが、黒魔法関連はオカルト知識でしっかり支えられてるからこそ、軽くなりすぎず、ダークで怪しげな雰囲気もただよってるのだと思います。

大形を体育館に呼び出し、作戦を実行するチョコ。呼び出すときのセリフがまるで告白みたいですが、チョコから大形への恋心が確定した今読み返すと感慨深いものがあります。

手元がすべって顔だけ人間の奇妙なガーゴイルになってしまうチョコ。しかし作戦は成功。ぬいぐるみは外れ、大形くんはショックを受けた様子でその場を去ります。実は彼は黒魔法使いで、師匠によって魔力と意識を封印されていたことがのちのち明らかになります。それらが一気によみがえり、衝撃を受けている様子がショックを受けているように見えたのかもしれないですね。大形くんの外伝とか書かれたら読みたい。

いつものドタバタ回のような雰囲気のお話ですが、この時チョコはとんでもないものを解き放っていたんですね。2022年1月現在、大形問題は恋愛や師弟問題とも絡み、作品の太い筋のひとつといってもいいほど大きくなった気がします。それも全部この時から始まったんですねぇ。

第2話

あらすじ

テレビ番組「魔女っこクラブ」に出演することになった5-1。出演メンバーに選ばれたチョコは、収録のリハーサル中に黒死呪文を唱えてしまう。帰宅後、撮影の様子をおさめたビデオを見ることになったチョコたち。そこに映り込んでいたある人物に、ギュービッドは驚く。

感想

5-1、TVに出る

クラブで美女にナンパされたという松岡先生。しかもその美女はテレビ局のプロデューサーらしい。それをきっかけにテレビ番組「魔女っこクラブ」に出演することになった5-1は、投票で出演メンバーを決めることになります。

あきらかにあやしい出会いを訝しがるみんな。TVに出るチャンスを逃したくないメグは、偶然の出来事がデビューにつながった芸能人がいかに多いかを熱弁します。ここの雰囲気、ちょっとなつかしいですね〜。youtuberとかネット発の有名人が出てくる前の話なので、もしかしたら今の小学生とは感覚が違うかもしれませんが、2000年代半ばごろはTVに出るってかなりキラキラした憧れだったんですよ……。

いつになく真剣に出演メンバーを決める5-1。そんななか投票用紙を白紙で出し、黒魔女ドリルの内職をしているチョコ、彼女らしいです。

開票され、出演メンバーが決まっていきます。ここのワクワク感好き。一票入っただけで大げさに喜ぶメグや百合ちゃん、無表情を保っていても喜びを隠しきれない舞ちゃん。誰もが認める華やかな子が票を集めたり、そうかと思えば意外な子に票がはいっておどろいたり。「誰が入るんだろう」という緊張感と「もしかしたらあたしも……」という期待に満ちた空気が伝わってくる気がします。

投票の結果、なんと出演メンバーに選ばれてしまったチョコ。収録当日、気合入りまくりのクラスメイトに気圧されます。いやほんとに、芸能活動経験のあるショウくんはともかく、マリアちゃんや百合ちゃんもいきなりきめポーズしたり、なんで5-1はこんなにテレビ慣れしてるんだ? セットはテレビに映るところは派手だけど裏側はベニヤ板丸出しでしょぼいとか、スタッフさんも意外と地味とか、リアルで面白いです。

暗御留燃阿初登場

この巻の目玉の一つ、暗御留燃阿の初登場。今でこそ味方ですが、当時はバリバリの悪役で、松岡先生を誘ったプロデューサーとして怪しさ満点で登場してきます。

初登場シーンの外見描写の詳細さと目をハートにしてる男子たち&松岡のイラスト、彼女の美しさを感じられるので暗御留燃阿オタとして大好きです。スタイルの良さにも言及されてますね。頭が良くてプライドが高く色気がある、王道の大人の女悪役でした。たぶん石崎先生の中でもそうだったんじゃないかと思います。クラブで松岡先生をナンパとかいう、今では考えられないようなこともやってますし。

暗御留燃阿はギュービッドの元同級生。リハーサルでチョコが黒死呪文を唱えた時の映像が欲しいギュービッドは、彼女経由でそれをゲットしようとします。実はこれも、チョコの素質を見抜いた暗御留燃阿による計画。ギュービッドからチョコを取りあげて自分の弟子にし、出世しようというと考えていたのです。

学生時代の話をする暗御留燃阿。ギュービッドは昔不良だった! 劣等生の彼女を、優等生の暗御留燃阿がいつも助けていたそうな。でも成績は悪くても才能は抜群で、難しい呪文を一発で成功させたこともあったとか。

ギュービッドは不良だけど天才肌という、今では当たり前の設定も実はこのときはじめて出てきます。「黒魔女さんの小説教室」で石崎先生は「一人のキャラを細かく作り込むのではなく、まったくちがうタイプのキャラとからむときに、そのキャラらしさが出る」とおっしゃってましたが、まさにその通りのことが起きていますね。優等生で計算して動くタイプで、出世のためなら平気で悪事をはたらく暗御留燃阿とからむことで、不良だけど才能があり、情にもろくほだされやすいというギュービッドの一面がひきだされたと思います。暗御留燃阿についても、ギュービッドとの対比でどういうキャラなのかがわかりやすくなった気がします。

また、のちのち、ギュービッドの才能に対して暗御留燃阿がコンプレックスを抱いている、という設定も出てきますが、その片鱗もすでに見つけられる気がします。チョコをスカウトする決め手が「素質がある」ことだったり、最終的にギュービッドのもとを去るときのセリフも「わたしを選ばないなんて(チョコは)素質ゼロの女だ」だったり、彼女の素質や才能に対するこだわりがみてとれます。学生時代のギュービッドを振り返って「勉強なんかできなくても、すごい人はすごいとつくづく思った」と言ってたり。まあオタクの都合のいい読み方かもしれませんが。

ギュービッドと暗御留燃阿の関係、個人的にすごく好きなんですよね。王道の天才vs秀才の関係じゃないですか。自分にはない才能を持っていて、泥臭い努力をしなくても何もかも手に入れているように見える天才を、秀才が憎みつつ憧れているという。そういう一面もありつつ、かつては本物の友情を育んでいた面もあったというのがまたエモい。単にふたりともスタイリッシュでかっこよくて好きというのもあります。ギュービッドの学生時代の話も読んでみたいです。公式HPでも何度か書く予定だと言われてた気がしますが。

そして暗御留燃阿の「4年前に見つけた子はよかったけどね」というセリフは第3話への伏線です。この4年前の子はもちろん大形のこと。二人が出会ったのは大形くんが幼稚園の年中の時なので、実は微妙に時系列が合わないのですが、3話の大形の正体バレのタイミングでこのセリフを思い出してるので間違いないでしょう。

またこの話は、チョコ・ギュービッドの師弟の絆がはじめてはっきりと描かれた回でもあると思います。暗御留燃阿の策略に気づき、「どうせ黒魔女修行をしなくちゃいけないんなら、ギュービッドじゃなくちゃやだっ!」と走るチョコ。部屋に飛びこむとギュービッドに抱きつきます。

はじめて離れ離れになりそうになった二人。この後も師弟の絆が大きく深まるのは、二人が引き離されそうになって戦う、みたいなお話の時だと思います。

ギュービッドと暗御留燃阿のキャラの組み合わせの良さによるものか、喧嘩シーンのテンポがめちゃくちゃ良くて好きな回です。暗御留燃阿は改心以降すっかりしおらしくなっちゃったけど、やっぱりこの二人はライバル関係で映えると思うし、かけあいは本当に面白かったのでまたやってほしいですね。

第3話

あらすじ

お母さんを亡くし、3人の弟妹の面倒を見ている灯子ちゃん。その健気な姿を見たチョコはいたく感動し、温泉旅行をプレゼントしてあげることに。黒魔法で第一小を旅館に、クラスメイトをおかみさんに変え、準備は万端。しかし旅行当日、チョコたちしか入れないはずの旅館に、招かれざる客が……

感想

温泉スタッフの5-1

図書館で妹と弟に読み聞かせをしている灯子ちゃんを発見するチョコ。聞けば、亡くなったお母さんのかわりに、日頃から弟妹のお世話をしているらしい。読み聞かせだけではなく、ご飯の支度やしつけもしている様子。

灯子ちゃんを見て日頃の態度をかえりみるチョコ、素直に反省するところもふくめて、そこそこ裕福な一人っ子感がなんかリアルです。しかし、灯子ちゃんの境遇(妹弟の世話に追われ子どもらしくすごせない)はいまなら社会問題ですね。

灯子ちゃんの健気さに感銘を受けたチョコは、ギュービッドの黒魔法で温泉旅行をプレゼントしてあげることに。第一小を旅館に変え、クラスメイトをそのスタッフにします。事前準備として、5-1のメンバーに「若おかみは小学生!」を渡して女将の心得を学ばせたり、麻倉&東海寺に灯子ちゃんの弟妹のベビーシッターを頼んだりいそがしく動くチョコ。

子どもたちの世話を頼まれたときの麻倉&東海寺の反応、可愛いです。東海寺に「黒鳥を呼び出す呪文をとなえてた」と言われて間髪入れずに「アホか、こいつは」とつっこむチョコ、初期だなあという感じがします。麻倉も話しかけられただけで顔を赤らめてて、うぶ。「子どもたちの面倒はじいちゃん(ヤクザ)の屋敷でみる、若い衆に見張らせておくから安全面も大丈夫」というところで笑いました。いまほどシンクロ率は高くないですが、二人で似たような反応するのはこの時から変わりませんね。

事前準備の甲斐あって、女将さん・仲居さんになりきる舞百合メグ。みんな着物姿かわいい。特に舞ちゃん似合ってます。しかし、メグと百合ちゃんの足の引っ張り合い、お客様への料理をつまみ食いする横綱、彼らを叱るのに忙しそうな舞ちゃんなど、職場環境に問題がありそうな……。ショウくんはイケメン社長の役に。このとき初めてセリフがありました。

大形の正体

温泉旅行を楽しむチョコたち。その耳に、ショウくんたちが「団体のお客さんの対応をしなくてはいけない」と話しているのが聞こえてきます。しかし黒魔女か、黒魔女に招待された人間しか旅館に入れないはず。団体客がいるという宴会場に行ってみると、そこに広がっていたのは衝撃の光景。なんと、何十体ものぬいぐるみがずらーっと並び、しかも「おなかがすいたねぇ」などと話し合っていたのです。

言うまでもなくこいつらは大形くんがいつも身につけているパペット。さらに会話の内容から、温泉につかりにいったはずの灯子ちゃんが、なにかしらピンチにあっているらしいことがわかります。

このシーン不気味でめっちゃ好きです。かわいらしいぬいぐるみが並んでるというのがここまで不気味だとは。無表情のぬいぐるみが笑ったり、全員大形の声で喋るというのが怖いのでしょうか。

第2話のテレビ局での会話から、大形が暗御留燃阿の弟子で、ギュービッド師弟を邪魔するために旅館に潜りこんだのではないかと推測するチョコ。さらに旅館にかけた魔法が解けかかっていることに気づき、灯子ちゃんを救出しようと焦ります。

そんなチョコの目の前にあらわれた大形くん。しかしぬいぐるみは外れ、いつもの子どもっぽい表情も消え、少女漫画の王子様系のイケメンに。藤田先生のイラスト、おめめがキラキラで気合が入っている気がします。

衝撃の事実を語り始める大形くん。実は彼は暗御留燃阿の元弟子。弟子をコントロールできなくなった彼女はぬいぐるみをつかって大形の魔力を封印し、見捨てました。しかし凛音ちゃんの件でぬいぐるみが外れたことで、強大な魔力を取り戻すことに。現在、大形くんは、魔力を封印されたことから黒魔女たちへ強い憎しみを抱いており、魔界を支配しようと考えているというのです。

このあとシリーズ全体を通して大形との対決が描かれていくわけですが、ここがその始まりかと思うと感慨深いです。シリーズを通して敵対するキャラが出てきたので、あとからみればここで物語に一本骨が通ったというか、作品の流れが変わった感がわたしはあります。

黒魔女さんは基本的に1話完結で、この3巻3話にいたるまで、解決のために数巻かける必要のある大きなエピソードがありませんでした。しかし、「魔界の支配」という壮大な目標を持っていて、今まで登場した敵よりずっと強く、暗御留燃阿との過去などの背景も複雑な大形くんが登場したことで、いろんなステップを踏まないと解決できない問題がはじめて生まれたんだと思います。

またこのシーンで、大形とギュービッドがバトルを開始しそうな雰囲気がありました。地味にこの二人の対決シーン好きです。独特の緊張感があってドキドキします。『黒魔女さんの修学旅行』も好きでした。