この記事の続き
第1話
あらすじ
呪験直前に姿を消した暗御留燃阿をさがす大形。一方チョコは、魔界のものに騙されそうな灯子ちゃんたちを助けるため、インボルグのサバトの生贄になってしまいます。助けに来てくれた大形と、「はいからさんが通る」コスプレで暗御留燃阿の捜索をすることに。聞きこみを行ううち、手がかりを手に入れますが……
感想
前回、サバトの生贄にされそうな灯子ちゃんたち救うため、呪リア学園の入試を抜け出したチョコ。彼女たちを助け出すのは序盤で終わったので、第1話は実質、暗御留燃阿捜索のお話でした。
暗御留燃阿と大形の師弟関係がいままでよりもふみこんで書かれていたのと、暗御留燃阿・大形師弟とギュービッド・チョコ師弟の対比が強調されていたのが印象的でした。
暗御留燃阿と大形の師弟関係
大形と一緒に暗御留燃阿の捜索をおこなうことにしたギューチョコ桃花。聞きこみのため訪れた縁日で、暗御留燃阿が学生時代の因縁の相手にとらわれていることが判明し、救出にむかいます。
暗御留燃阿をみつけ、かけよる大形。なにをしにきたのかと聞かれると、「決まってるだろ! 助けに来たんだよ!」と答え、サバトのいけにえになるため帰らないといわれると「いけにえになるってことは、命をうばわれるってことだよ?」ととりすがります。
まず、大形くんと暗御留燃阿の、師弟としての「素」のやりとりが見れたのがうれしかったです。とくに、大形くんの言動がチョコや桃花にみせているそれより幼い気がしたのが新鮮でした。
彼らのやりとりは実はいままでほとんど書かれておらず、普段どんなふうに会話しているのか想像できないところがありました。数巻前まで大形は暗御留燃阿を非常に憎んでいたのでなおさらです。
なので、今巻の「〜だよ?」という言葉づかいや、とりすがるなどの行動は子どもらしい甘えすら感じて、すこし意外でした。ですが決して違和感があるわけではなく、大形くんの新たな一面を知れた喜びの方が大きかったです。
暗御留燃阿と大形が師弟だったのは幼稚園児の頃。魔力を封印されたのもそのころなので、精神年齢は実年齢よりもまだ幼いはず。暗御留燃阿と対面した時の彼は、いつもの虚勢を張っているような雰囲気が消え、押さえつけられていた子どもの部分が自然と出ているように見えました。もともと、師弟関係を結んだ当初も幼かったですし、大人でずっと年上の暗御留燃阿には親のようなイメージを持っていたのかもしれませんね。
暗御留燃阿の描かれ方もよかったです。セリフが多かったわけではないですが、とりすがってきた大形の手を「そっと」はずすなど、普段の二人の関係性が垣間見えそうな描写がありました。無印13巻以降一番好みです。
わたしは長年彼女の扱いに疑問があり、改心後「暗御留燃阿さんは反省している」みたいなシーンがあるわりには気持ちやキャラクターが見えづらいなと思っていたのですが、それも当然といえば当然だったのかなという気にもなりました。
暗御留燃阿はチョコ目線だと、インストラクターの親友というまあまあ遠い立ち位置です。それにプライドが高い性格なので、チョコぐらいの関係の相手に大形やギュービッドへの思いを喋ったり弱さを含めた本心をみせたら不自然だと思います。なのでチョコの視点では、彼女の一番魅力的な部分が書かれづらかったのかな? と思ったのです。大形とのことも、学生時代のギュービッドへの友情と嫉妬も、暗御留燃阿が一番掘り下げられそうなエピソードはチョコのいないところで起きていますし。
今巻、暗御留燃阿は罪悪感を利用した黒魔法をかけられ、大形への過去の行いはもちろん、前巻サウジーネ塾長にだまされたことにまで、死をもって償わなくてはならないと言い張っていました。このいろいろと混乱してる様子からは、プライドで隠されていない生の心情が比較的ダイレクトに伝わってきた気がして、オタクは嬉しかったです。大形相手だとこういう一面が見れるんですねぇ。
罪悪感の問題が結局魔界グッズで片付けられてしまったのは残念でしたが、あきらかにページ数の制限があるんだろうし仕方ないのかなとも思います。大形が「おしゃべりしよう」と言ってましたが、これからゆっくり、わだかまりを解消したり絆を深めていく過程が読めたらいいなと期待しています。
第1話を読んで、つくづく、大形と暗御留燃阿はお互いにしか引き出せない魅力があるなぁ〜と感じました。『黒魔女さん』ではたびたび、ギュービッドがチョコを守るためにピンチになったり黒魔女生命を危険にさらすシーンがありますが、個人的には暗御留燃阿と大形のそういうお話とかすごく読んでみたい……。今後が楽しみです!
師弟関係の対比
第1話はギュービッド・チョコ師弟と暗御留燃阿・大形師弟の対比が強調されていたのも印象的でした。
暗御留燃阿とは似た者どうしだからこそ、自分のインストラクターは彼女だと思うと語る大形。機転をはたらかせて問題を解決させていくチョコやギュービッドを見て、「ぼくには、そういう<ひらめき>がない」「ぼくも暗御留燃阿も黒魔法の知識には自信があるけど、そんなことを思いつけるとは思えない」と落ち込んだり感嘆したりします。
実は約10年前、『黒魔女さんのお正月』で似たようなセリフが出てきています。大形がチョコに対して、「黒鳥さんには、なにか、ほかの黒魔女とちがったところがあるような気がする。そういうところ、ギュービッドに似ている」「成績は悪いけど実力はある。(略)ぼくと黒鳥さんの関係も、暗御留燃阿とギュービッドの関係に、似ているのかも。」と言っているのです。
この4人の関係、個人的にすごくツボです。天才タイプと秀才タイプの対立。師匠と弟子は似ており、師匠どうし、弟子どうしの関係も似ているという……。石崎先生がそれを大事に書いてくれたのがすごく嬉しかったです。
暗御留燃阿・大形師弟は、二人とも自分には足りないものがあると感じており、劣等感をもっています。ですがギューチョコ師弟は優等生たちのそんな気持ちが理解できず、自分たちが嫉妬されているとは夢にも思っていない気がします。基本的にはおたがいに尊敬しあっており、強い絆も感じていますが、秀才側はひそかに悔しさもつのらせている。複雑な関係です。
大形が「最後に負けるのはいつもぼくなんだ……」と悔しがってましたが、暗御留燃阿もギュービッドに対して同じようなことを思っていたのだと思います。
今巻、大形がしばしば暗御留燃阿を遠回しに讃えていましたが、彼が師匠に持っている気持ちのベースには、単なる能力面での尊敬というだけでなく、そういう意味での連帯感もあるのかもしれないですね。この記事でもちょっと書きましたが。
せっかく強調されたので、今後、4人の構図がクローズアップされるようなお話があるといいなあとも思います。
第2話
あらすじ
バレンタインにチョコレートを持ってくるかどうかで今年も対立する6-1。一方、大形とチョコは、バレンタインの時期に現れるという魔物を退治すべく、一緒にパトロールすることに。偽の本命チョコレート作戦でそいつを倒したのもつかの間、ラブラブだったカップルたちの赤い糸が次々と切れる事態に。そしてついにチョコの糸も……。
大活躍ショウくん
バレンタインにチョコレートを持ってくるかどうかで対立する6-1。舞ちゃん率いる「ことしこそチョコを禁止にさせよう委員会」と百合ちゃん率いる「チョコレート守護隊」に二分され、女子が男子にチョコを贈るのは日本と韓国だけだとか、チョコレートを贈る風習は1958年からある文化だから大事にするべきだとか、はげしく論争します。
そんななか、なんと三条ショウくんまで意見を表明。「5年1組がはじまって以来、口を開く時は『みんな、好きだよ』と、あいまいなことしかいわず、そのせいか、ダントツのイケメンもて男くんにもかかわらず、登場シーンすら少なくなっていった」彼の発言に教室は悲鳴に包まれます。ここのメタ的な人物紹介笑いました。
ショウくんはバレンタインチョコ賛成派。「好きな人のために、ドキドキしながらチョコを選んだり、いっしょうけんめいにチョコを手作りする、その心が好きだから」と熱く語ります。「チョコをもらえて嬉しいから」とかではなく、渡す側の視点に立って「その心が好きだ」とナチュラルに言えるあたり、さすがもて男はちがいます。
対立するショウくんと舞ちゃん。ついに学級会へもつれこむことに。一歩も譲らない攻防が続きます。
ショウくんがそこそこ議論に強いのが驚きでした。「女子から男子にプレゼントするのは古い」という意見に対し「今は友チョコもファミチョコもある」と反論したり、「なぜチョコレートじゃなきゃダメなのか」と言われて「あまさはいろいろな愛の象徴だから」と優男らしい返しをしたり。こんなにキレッキレの頭脳を持っていたんですね。
舞百合メグがショウくんをめぐってこっくりさんしたことが『黒魔女さん』の始まりだと思うと、舞ちゃんとショウくんの対立は熱いです。この4人の関係もずいぶん変わりましたね。
チョコの赤い糸はどうなるのか
平和なバレンタインを守るため、町内をパトロールするチョコと大形くん。本命チョコを「本冥チョコ」にすりかえて人間を魔界送りにする魔物、フラレタインを退治すべく、次のような計画を立てます。
フラレタインがチョコレートをすり替えるのは、告白してチョコを渡すその瞬間。なので、てきとうな男子に告白してフラレタインをおびきよせ、捕らえる。偽告白の相手には、過度の心配性の小三男子、鳥越九郎をえらぶ。
いやあ、目的のためとはいえ、毎年1ヶ月以上前からバレンタインチョコをもらえるかどうかで悩んでる子に偽の本命チョコを渡すとか、なかなか残酷なことをしますね。まあ黒魔女さんらしくて好きですが。
鳥越くんに告白しながら、顔が真っ赤になってしまうチョコさん。口調のせいか、いつもよりおとなっぽくて新鮮でした。「これはただのチョコレートじゃないの。本命チョコなの。おねえちゃんね、鳥越九郎くんのこと、好きなの。だから、受けとって」。……うーん、異界チックな服きたお姉さんに急にこんなこと言われたら、本気で好きになってしまうかもしれん。子どものうぶな初恋を悪気なく利用できるあたり、ほんとうに魔性の女ですねぇ。
鳥越くんもそれに無邪気な残酷さでこたえました。「もらった本命チョコは偽物だ」と聞かされた彼は、魔物の指示に従い、恋心を断ち切る魔界グッズでチョコさんと運命の人を結ぶ赤い糸をチョキン! チョコの右手小指からぶら下がる、誰とも繋がってない赤い糸。そしてむこうからやってきた大形くんの指にも、同じく途中で切られた糸が垂れ下がっていたのでした。
チョコさんの運命の相手が大形くんだったことが明らかに! まあそうだろうなとも思いましたが、はっきり書かれるとけっこう「おお……」って感じです。
赤い糸が切れたまま終わるとも思えませんし、最終的にはチョコと大形は結ばれると思います。でも麻倉と東海寺がどうなるのかは気になるところですね。
無印のころだったら、そこまで恋愛メインのお話でもありませんでしたし、誰ともくっつかない全員友情ルートもありえたと思います。しかし、『恋におちた黒魔女さん!?』からはチョコ→大形の気持ちが繰り返し描かれてきましたし、ギュービッドなど周りの人間もその気持ちが「恋」だと認めています。それなのに大形との恋愛が描かれなかったら、それはそれで肩透かし感がある気がします。
ここまでがっつり恋愛が描かれたら、結ばれるキャラと結ばれないキャラが出てきてしまうのはしょうがないと思います。ですが、結ばれないキャラにも見せ場というか、気持ちに区切りをつけるシーンなどがさりげなくてもあると報われる気がします。麻倉&東海寺はチョコが私立中学を呪験したときも「黒鳥の選択ならなんでも応援するぜ!」みたいな感じでしたが、大形とチョコの恋についてもそのスタンスだったらちょっと悲しくないですか……?
終わりに
全体的に、メタ発言やパロディが多い巻でした。「はいからさん」ネタはいつかやると思ってたので見れて嬉しかったです。また、亜沙美先生が描いたおっこを黒魔女さんで見ることになるとは思いませんでした(笑)。
過去のシリーズからの引用も多かったですね。バレンタイン論争する6-1とか。第1話の縁日のシーンでチョコが暗御留燃阿の外見を説明していましたが、あれも無印3巻第2話の描写とほぼ同じでした。
また、ギュービッドと大形のやりとりも、頭のいいもの同士の会話という感じでおもしろかったです。
次巻も楽しみです!