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青い鳥文庫『黒魔女さんが通る‼︎』 をだらだら語る  

【黒魔女さんが通る‼︎】大形くんの過去判明の超重要巻!『黒魔女さんのシンデレラ』【感想】

*2021年12月1日リライト

あらすじ

前巻「画面に入れる魔法」をとなえわすれ、黒魔女さん4級になりそこねたチョコ。

一方、5-1は移動教室に行くことに。目的地に向かうバスの中で『シンデレラ』のDVDを見ていると、突然バスが揺れ出し、橋の上から墜落しそうになってしまいます。

みんなをたすけるため、チョコがとっさに唱えたのは画面に入れる魔法で……

 

 

感想

初めての魔界&シンデレラワールド

5-1のみんなを助けるため、画面に入れる魔法をとなえたチョコ。実はそれが魔界への入り口でした。

現在は3巻に1回ぐらいのペースで魔界舞台回がありますが、それもこの巻が初めて。魔界に飛ばされたのが黒魔女さん4級のテストのためだと明かされたチョコは、近くのお屋敷でホームステイをしろと命じられます。

画面に入れる魔法を使ったため、テストもバスで上映されていたシンデレラのストーリーに沿って進んでいくことに。なので当然、ホームステイ先で待っているのは意地悪な継母とお姉さまたち。暗御留燃阿が継母、舞ちゃん百合ちゃんがお姉さまになり、チョコをねちねちと痛めつけてきます。

彼女たちは黒魔法で夢を見ているような状態になっているのですが、ギュービッドによればそれは「心の奥底にひそんでいる願望をかなえてあげている」のだそうです。それを聞いたチョコは「ということは、舞ちゃんと百合ちゃんは、心の中では、あたしをいじめたがってるってことか……」とつぶやきます。さりげない一文ですが、ここすごく好きです。

学校などの狭い人間関係では、「お互いいろんな気持ちをかかえているものの、クラス内の立ち位置などの絶妙なバランスによってそれが表面化しないですんでいる」、みたいなことがまあまああると思います。この一文はその感じが超リアルで、しかもさらっと入れてくるところにぐっときました。黒魔女さんは登場人物などもキャラっぽく、基本的にライトな雰囲気の作品ですが、初期はその中に時々ひやっとするようなリアルさがありました。

暗御留燃阿が意地悪な継母役なのも適任すぎて草です。いまでこそ改心していい黒魔女みたいな雰囲気ですが、当時は悪役といえば暗御留燃阿、という感じでした。今の子たちがどんなイメージを持っているのかわかりませんが、このころの彼女はプライドが高い王道の悪役。チョコを鼻で笑ったりムチで脅すのがほんと様になりますね。

本文によれば、暗御留燃阿お母さまは、元夫のネモトスル伯爵(根本教頭のこと?)が亡くなり、マツオカル侯爵と結婚したとのこと。伯爵より侯爵の方が立場が上なので、再婚によって出世したことになります。特に言及はされてませんが、このへんも彼女の「出世の鬼」という設定が活かされていて細かいなぁと思いました。

また、藤田先生による侯爵夫人姿のイラストも非常に気高く性格が悪そうで美しいです。わたしは暗御留燃阿オタなのでドレス&アップヘア姿が見れて嬉しかったです。妻として夫に文句つけたりしている姿も新鮮でした。

 

激情の黒鳥千代子

シンデレラの物語と同じなんだ! と気づくやいなや、よりそれっぽく振舞おうと、率先していじめられに行くチョコ。しかし予想外の事態が。物語の展開的には、魔女がシンデレラをたすけにきてくれるはずなのですが、なんとギュービッドがインストラクターを外されたという知らせが届くのです。チョコは怒りに任せ、侯爵家の畑のかぼちゃを踏み潰します。

魔界じゃなくても、人間界でも、どこでだって、あたしはギュービッドなしでは、なんにもできないんだよ。

だって、あたしは、ほんとの友だちもいない、ただのオカルト好きの、オタク少女。

ギュービッドさまだけがたよりだったのに。

(略)

なんだか、悲しいを通りこして、むかついてきた。

『黒魔女さんのシンデレラ』p100

このあたりの言動は、『黒魔女さんの修学旅行』で、ギュービッドに魔界を捨てて一緒に暮らすことをせまったシーンを彷彿とさせます。

初期はかなりひねくれていたチョコさんも、シリーズが進むにつれて思いやりのある一面が描かれるようになり、師匠に似て熱血だみたいに評される場面もでてきます。しかし、「ギュービッドなしではなにもできない」「ギュービッドさまが魔界を追放されちゃったら、どうかなって」など、追いつめられると結構極端な発言や行動に出るあたりは、熱血・優しいというよりも愛が重いと言ったほうがいいような。そしてこのシーンを読むと、その部分が実は初期から変わっていないことがわかる気がします。

『修学旅行』でもナイスな師匠っぷりを発揮したギュービッド様。この時も自作のシンデレラドレスをプレゼントしたりしてチョコを励まします。裾が大きな三角形だったり、ゴスロリとプリンセスっぽさを融合させたデザインがかわいいです。文章とイラストを見比べると、藤田先生がいかに忠実に石崎先生のデザインを再現しているかがよくわかりますね。

ちなみにこの巻で、魔界グッズ専門店「モリカワ」店主・森川瑞姫が初めて登場します。ギュービッドは今と違い、彼女を「瑞姫」とよんでいました。悪魔情もギュービッドを呼び捨てで呼んでいます。再読するとこういう小さい変化に気づいたりして楽しいですね。

 

大形くんの重すぎる過去

この巻の最大の目玉。大形くんの過去が明らかに。

前巻、いつもパペットとおしゃべりしている不思議少年・大形京が、実は暗御留燃阿の元弟子で、邪悪な黒魔法使いであることが判明しました。今巻はその詳細が述べられます。

生まれつき魔力があった大形くん。幼稚園児の時、いじめられていたところを暗御留燃阿にみつかり、弟子になります。最初は楽しんで修行をしていた大形くんですが、友だちを呪ってしまったことをきっかけに修行を辞めたいと思うように。しかしそれを師匠に訴えると逆に両親を人質に取られ、修行は続行。彼女への恨みを原動力にみるみる強くなっていきますが、弟子の魔力が自分の手に負えなくなっていくことを恐れた暗御留燃阿によって魔力を封印され、見捨てられます。魔法使いにとって魔力を封印されるのは眠りに落ちるのと同じ。その後ずっと、体は普通に動いていても意識がおぼろな状態が続いていたのでした。

かなり重く、インパクトのある過去です。重すぎて作品から浮くぐらい……。ものすごく過激だったり暴力的だったりだったりするわけではないですが、その残酷さをなぜか子供心に想像しやすくて、妙なリアルさがありました。意識がおぼろだから、自分なりになにかを感じたり、経験することができない、自分の人生なのに……というのはまさに生きながら死んでいるようなもので、ショッキングでした。そうなのにもかかわらず、一見普通に過ごしているように見えてしまう、というのがまた救いがないですよね。

暗御留燃阿の描かれ方も好きです。人間を対等な存在だとか、思いやるべき存在だとか思ってないのが、まさに黒魔女。

彼女はどんどん強くなっていく大形に恐れをなして逃げたわけですが、頭が良いエリート黒魔女にしては微妙に詰めが甘い気がします。両親を人質に取ったり、意識を封印したら恨まれるだろうし、復讐される可能性があることぐらいわかるだろうと思いますが、彼女にはわからなかった。

なぜか。弟子を感情を持つ個人というより、出世の道具としてとらえているから。だから、その道具が、自分に抵抗したり思い通りにならないこと自体が想定外だったのだと思います。多分大形が友だちを呪ってしまったのも、それによって修行を嫌がるのも予想外だったのでしょう。なので、大形が自分に復讐心を抱いている可能性すらさほど深刻に考えることもなく、気づいたときには手遅れになっていた。

あくまで黒魔女は人間を呪うもの。人間のことを呪いの対象としか思っていない、冷酷で残虐な黒魔女という感じ。それがよかったです。

現在、暗御留燃阿は改心していますが、最新刊で上記の経緯の振り返りなどがあり、大形と暗御留燃阿の関係が再び掘り下げられそうな展開になっています。また、『黒魔女さんと黒魔術の王』では「記憶をうばうのは命をうばうのと同じ」という一文もあり、暗御留燃阿が弟子にした行為が作中トップクラスに非人道的なものとして描かれているのであろうことが察せられます。大形問題の解決に二人の因縁の決着と掘り下げは欠かせませんが、今後どのように描かれていくのかがとても楽しみです。

個人的には暗御留燃阿の内面をもっと描いてほしい……。以前、出世の道具にあえて大形のような天才を選んだことからは、ギュービッドへの劣等感を読み取ることもできるのでは? ということを書きました。まあそれは私の勝手な解釈に過ぎないのですが、大形問題は作品の柱の一つと言ってもいいテーマなのだから、その超重要キャラである彼女はどんな人物なのか、どんな背景があるのかを書いてくれるとオタクは喜びます。

 

 

終わりに

無印3〜4巻は、大形問題が本格的に動きだす、シリーズ全体で見ても超重要な巻です。やっぱりこの件はかなり重いし、この問題が描かれたことによって『黒魔女さん』という物語自体が大きく広がったと思ってます。ラストまで駆け抜けてほしいです!