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青い鳥文庫『黒魔女さんが通る‼︎』 をだらだら語る  

【6-1黒魔女さん】師弟の対比がアツい&チョコの運命の相手も明らかに?『黒魔女さんのチョコレート戦争』【16巻感想】

この記事の続き

 

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第1話

あらすじ

呪験直前に姿を消した暗御留燃阿をさがす大形。一方チョコは、魔界のものに騙されそうな灯子ちゃんたちを助けるため、インボルグのサバトの生贄になってしまいます。助けに来てくれた大形と、「はいからさんが通る」コスプレで暗御留燃阿の捜索をすることに。聞きこみを行ううち、手がかりを手に入れますが……

 

感想

前回、サバトの生贄にされそうな灯子ちゃんたち救うため、呪リア学園の入試を抜け出したチョコ。彼女たちを助け出すのは序盤で終わったので、第1話は実質、暗御留燃阿捜索のお話でした。

暗御留燃阿と大形の師弟関係がいままでよりもふみこんで書かれていたのと、暗御留燃阿・大形師弟とギュービッド・チョコ師弟の対比が強調されていたのが印象的でした。

 

暗御留燃阿と大形の師弟関係

大形と一緒に暗御留燃阿の捜索をおこなうことにしたギューチョコ桃花。聞きこみのため訪れた縁日で、暗御留燃阿が学生時代の因縁の相手にとらわれていることが判明し、救出にむかいます。

暗御留燃阿をみつけ、かけよる大形。なにをしにきたのかと聞かれると、「決まってるだろ! 助けに来たんだよ!」と答え、サバトのいけにえになるため帰らないといわれると「いけにえになるってことは、命をうばわれるってことだよ?」ととりすがります。

まず、大形くんと暗御留燃阿の、師弟としての「素」のやりとりが見れたのがうれしかったです。とくに、大形くんの言動がチョコや桃花にみせているそれより幼い気がしたのが新鮮でした。

彼らのやりとりは実はいままでほとんど書かれておらず、普段どんなふうに会話しているのか想像できないところがありました。数巻前まで大形は暗御留燃阿を非常に憎んでいたのでなおさらです。

なので、今巻の「〜だよ?」という言葉づかいや、とりすがるなどの行動は子どもらしい甘えすら感じて、すこし意外でした。ですが決して違和感があるわけではなく、大形くんの新たな一面を知れた喜びの方が大きかったです。

暗御留燃阿と大形が師弟だったのは幼稚園児の頃。魔力を封印されたのもそのころなので、精神年齢は実年齢よりもまだ幼いはず。暗御留燃阿と対面した時の彼は、いつもの虚勢を張っているような雰囲気が消え、押さえつけられていた子どもの部分が自然と出ているように見えました。もともと、師弟関係を結んだ当初も幼かったですし、大人でずっと年上の暗御留燃阿には親のようなイメージを持っていたのかもしれませんね。

暗御留燃阿の描かれ方もよかったです。セリフが多かったわけではないですが、とりすがってきた大形の手を「そっと」はずすなど、普段の二人の関係性が垣間見えそうな描写がありました。無印13巻以降一番好みです。

わたしは長年彼女の扱いに疑問があり、改心後「暗御留燃阿さんは反省している」みたいなシーンがあるわりには気持ちやキャラクターが見えづらいなと思っていたのですが、それも当然といえば当然だったのかなという気にもなりました。

暗御留燃阿はチョコ目線だと、インストラクターの親友というまあまあ遠い立ち位置です。それにプライドが高い性格なので、チョコぐらいの関係の相手に大形やギュービッドへの思いを喋ったり弱さを含めた本心をみせたら不自然だと思います。なのでチョコの視点では、彼女の一番魅力的な部分が書かれづらかったのかな? と思ったのです。大形とのことも、学生時代のギュービッドへの友情と嫉妬も、暗御留燃阿が一番掘り下げられそうなエピソードはチョコのいないところで起きていますし。

今巻、暗御留燃阿は罪悪感を利用した黒魔法をかけられ、大形への過去の行いはもちろん、前巻サウジーネ塾長にだまされたことにまで、死をもって償わなくてはならないと言い張っていました。このいろいろと混乱してる様子からは、プライドで隠されていない生の心情が比較的ダイレクトに伝わってきた気がして、オタクは嬉しかったです。大形相手だとこういう一面が見れるんですねぇ。

罪悪感の問題が結局魔界グッズで片付けられてしまったのは残念でしたが、あきらかにページ数の制限があるんだろうし仕方ないのかなとも思います。大形が「おしゃべりしよう」と言ってましたが、これからゆっくり、わだかまりを解消したり絆を深めていく過程が読めたらいいなと期待しています。

第1話を読んで、つくづく、大形と暗御留燃阿はお互いにしか引き出せない魅力があるなぁ〜と感じました。『黒魔女さん』ではたびたび、ギュービッドがチョコを守るためにピンチになったり黒魔女生命を危険にさらすシーンがありますが、個人的には暗御留燃阿と大形のそういうお話とかすごく読んでみたい……。今後が楽しみです!

 

師弟関係の対比

第1話はギュービッド・チョコ師弟と暗御留燃阿・大形師弟の対比が強調されていたのも印象的でした。

暗御留燃阿とは似た者どうしだからこそ、自分のインストラクターは彼女だと思うと語る大形。機転をはたらかせて問題を解決させていくチョコやギュービッドを見て、「ぼくには、そういう<ひらめき>がない」「ぼくも暗御留燃阿も黒魔法の知識には自信があるけど、そんなことを思いつけるとは思えない」と落ち込んだり感嘆したりします。

実は約10年前、『黒魔女さんのお正月』で似たようなセリフが出てきています。大形がチョコに対して、「黒鳥さんには、なにか、ほかの黒魔女とちがったところがあるような気がする。そういうところ、ギュービッドに似ている」「成績は悪いけど実力はある。(略)ぼくと黒鳥さんの関係も、暗御留燃阿とギュービッドの関係に、似ているのかも。」と言っているのです。

この4人の関係、個人的にすごくツボです。天才タイプと秀才タイプの対立。師匠と弟子は似ており、師匠どうし、弟子どうしの関係も似ているという……。石崎先生がそれを大事に書いてくれたのがすごく嬉しかったです。

暗御留燃阿・大形師弟は、二人とも自分には足りないものがあると感じており、劣等感をもっています。ですがギューチョコ師弟は優等生たちのそんな気持ちが理解できず、自分たちが嫉妬されているとは夢にも思っていない気がします。基本的にはおたがいに尊敬しあっており、強い絆も感じていますが、秀才側はひそかに悔しさもつのらせている。複雑な関係です。

大形が「最後に負けるのはいつもぼくなんだ……」と悔しがってましたが、暗御留燃阿もギュービッドに対して同じようなことを思っていたのだと思います。

今巻、大形がしばしば暗御留燃阿を遠回しに讃えていましたが、彼が師匠に持っている気持ちのベースには、単なる能力面での尊敬というだけでなく、そういう意味での連帯感もあるのかもしれないですね。この記事でもちょっと書きましたが。

 

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せっかく強調されたので、今後、4人の構図がクローズアップされるようなお話があるといいなあとも思います。

 

第2話

あらすじ

バレンタインにチョコレートを持ってくるかどうかで今年も対立する6-1。一方、大形とチョコは、バレンタインの時期に現れるという魔物を退治すべく、一緒にパトロールすることに。偽の本命チョコレート作戦でそいつを倒したのもつかの間、ラブラブだったカップルたちの赤い糸が次々と切れる事態に。そしてついにチョコの糸も……。

 

大活躍ショウくん

バレンタインにチョコレートを持ってくるかどうかで対立する6-1。舞ちゃん率いる「ことしこそチョコを禁止にさせよう委員会」と百合ちゃん率いる「チョコレート守護隊」に二分され、女子が男子にチョコを贈るのは日本と韓国だけだとか、チョコレートを贈る風習は1958年からある文化だから大事にするべきだとか、はげしく論争します。

そんななか、なんと三条ショウくんまで意見を表明。「5年1組がはじまって以来、口を開く時は『みんな、好きだよ』と、あいまいなことしかいわず、そのせいか、ダントツのイケメンもて男くんにもかかわらず、登場シーンすら少なくなっていった」彼の発言に教室は悲鳴に包まれます。ここのメタ的な人物紹介笑いました。

ショウくんはバレンタインチョコ賛成派。「好きな人のために、ドキドキしながらチョコを選んだり、いっしょうけんめいにチョコを手作りする、その心が好きだから」と熱く語ります。「チョコをもらえて嬉しいから」とかではなく、渡す側の視点に立って「その心が好きだ」とナチュラルに言えるあたり、さすがもて男はちがいます。

対立するショウくんと舞ちゃん。ついに学級会へもつれこむことに。一歩も譲らない攻防が続きます。

ショウくんがそこそこ議論に強いのが驚きでした。「女子から男子にプレゼントするのは古い」という意見に対し「今は友チョコもファミチョコもある」と反論したり、「なぜチョコレートじゃなきゃダメなのか」と言われて「あまさはいろいろな愛の象徴だから」と優男らしい返しをしたり。こんなにキレッキレの頭脳を持っていたんですね。

舞百合メグがショウくんをめぐってこっくりさんしたことが『黒魔女さん』の始まりだと思うと、舞ちゃんとショウくんの対立は熱いです。この4人の関係もずいぶん変わりましたね。

 

チョコの赤い糸はどうなるのか

平和なバレンタインを守るため、町内をパトロールするチョコと大形くん。本命チョコを「本冥チョコ」にすりかえて人間を魔界送りにする魔物、フラレタインを退治すべく、次のような計画を立てます。

フラレタインがチョコレートをすり替えるのは、告白してチョコを渡すその瞬間。なので、てきとうな男子に告白してフラレタインをおびきよせ、捕らえる。偽告白の相手には、過度の心配性の小三男子、鳥越九郎をえらぶ。

いやあ、目的のためとはいえ、毎年1ヶ月以上前からバレンタインチョコをもらえるかどうかで悩んでる子に偽の本命チョコを渡すとか、なかなか残酷なことをしますね。まあ黒魔女さんらしくて好きですが。

鳥越くんに告白しながら、顔が真っ赤になってしまうチョコさん。口調のせいか、いつもよりおとなっぽくて新鮮でした。「これはただのチョコレートじゃないの。本命チョコなの。おねえちゃんね、鳥越九郎くんのこと、好きなの。だから、受けとって」。……うーん、異界チックな服きたお姉さんに急にこんなこと言われたら、本気で好きになってしまうかもしれん。子どものうぶな初恋を悪気なく利用できるあたり、ほんとうに魔性の女ですねぇ。

鳥越くんもそれに無邪気な残酷さでこたえました。「もらった本命チョコは偽物だ」と聞かされた彼は、魔物の指示に従い、恋心を断ち切る魔界グッズでチョコさんと運命の人を結ぶ赤い糸をチョキン! チョコの右手小指からぶら下がる、誰とも繋がってない赤い糸。そしてむこうからやってきた大形くんの指にも、同じく途中で切られた糸が垂れ下がっていたのでした。

チョコさんの運命の相手が大形くんだったことが明らかに! まあそうだろうなとも思いましたが、はっきり書かれるとけっこう「おお……」って感じです。

赤い糸が切れたまま終わるとも思えませんし、最終的にはチョコと大形は結ばれると思います。でも麻倉と東海寺がどうなるのかは気になるところですね。

無印のころだったら、そこまで恋愛メインのお話でもありませんでしたし、誰ともくっつかない全員友情ルートもありえたと思います。しかし、『恋におちた黒魔女さん!?』からはチョコ→大形の気持ちが繰り返し描かれてきましたし、ギュービッドなど周りの人間もその気持ちが「恋」だと認めています。それなのに大形との恋愛が描かれなかったら、それはそれで肩透かし感がある気がします。

ここまでがっつり恋愛が描かれたら、結ばれるキャラと結ばれないキャラが出てきてしまうのはしょうがないと思います。ですが、結ばれないキャラにも見せ場というか、気持ちに区切りをつけるシーンなどがさりげなくてもあると報われる気がします。麻倉&東海寺はチョコが私立中学を呪験したときも「黒鳥の選択ならなんでも応援するぜ!」みたいな感じでしたが、大形とチョコの恋についてもそのスタンスだったらちょっと悲しくないですか……?

 

終わりに

全体的に、メタ発言やパロディが多い巻でした。「はいからさん」ネタはいつかやると思ってたので見れて嬉しかったです。また、亜沙美先生が描いたおっこを黒魔女さんで見ることになるとは思いませんでした(笑)。

過去のシリーズからの引用も多かったですね。バレンタイン論争する6-1とか。第1話の縁日のシーンでチョコが暗御留燃阿の外見を説明していましたが、あれも無印3巻第2話の描写とほぼ同じでした。

また、ギュービッドと大形のやりとりも、頭のいいもの同士の会話という感じでおもしろかったです。

次巻も楽しみです!

 

 

 

【黒魔女さんが通る】作品の流れを変えた神巻!チョコにもギュービッドにもライバル現る!【無印3巻感想】

(2022/1/6)

暗御留燃阿さんお誕生日おめでとうございます。無印3巻感想です。

 

第1話

あらすじ

異常に運の悪いクラスメイト、須々木凛音ちゃんに厄払いを依頼されたチョコ。不運の原因を探るため、凛音ちゃんの様子をビデオカメラで撮影することに。そのさなかにもつぎつぎとふりかかる災難。ビデオを確認すると、そこに映っていたのはある人物の意外な姿だった。

感想

不運過ぎる凛音ちゃん

異常に運の悪いクラスメイト・須々木凛音ちゃん。前半は彼女の不運の原因を探るお話でした。

彼女の運の悪さは筋金入りです。授業中、こっそり手紙をまわす5-1女子。凛音ちゃんが手紙を持っていたときにたまたま見つかり、しかも学校ではなく塾で回していたキツめの内容の方を没収されて怒られるとか、公園でサッカーをしていた中学生にボールをぶつけられるとか。さらにその中学生に謝罪どころか「ぼーっとしてんじゃねえよ、タコ!」と罵倒されるとか……。

授業中回されている手紙がチョコには回ってこない(理由:まわってきても止めちゃうから)というの、陰キャあるあるで笑えます。ボールをぶつけられた時にチョコが、「こういう時のために本格的に人を呪える黒魔法が使えればなぁ」と言っているのも、何気に辛辣で草です。こういうブラックなことを平気で考える子なんですよね。黒魔女の才能があります。

入学したときから不幸エピソードに事欠かない凛音ちゃん。「4年生のとき、運が悪いことをおばあちゃんに相談したら、おばあちゃんが厄除けのツボを指圧してくれた。しかしそのせいでおばあちゃんの指が折れた」とか、はじめて読んだ時かなり笑いました。

また、不運エピソードに「5年間大形京と同じクラスで今年は席まで隣になった」というのがありましたね。同じクラスになること自体が不運扱いされてるって、一番可哀想なのは大形くんだろとつっこみをいれたくなりますが。チョコさんも普通に「それはたしかに同情する」みたいな反応なので、彼がいかに浮いていたのかがうかがえます。ちなみにこの箇所はその後の伏線です。

このお話は根元教頭先生の初登場回でもあります。不真面目な5-1には「ほんものの教育」が必要だとのたまう教頭。教育を建前にする大人が、実際は目の前の生徒そっちのけで自分の世界に浸ってるだけでうざい、というの、子供のころ一度は経験することだと思います。こういうところ、石崎先生の逆張り精神がでている気がする(笑)。

ぬいぐるみをはずせ

凛音ちゃんの不運っぷりを撮影したビデオを確認するギュービッド&チョコ。途中、画面に見切れた大形の左手に、トレードマークのぬいぐるみがないことに気づきます。そこから、ぬいぐるみは魔除けなのではないかと推測するギュービッド。ぬいぐるみが跳ね返した悪い運気が隣の席の凛音ちゃんに流れ、結果的に彼女の運が悪くなっているのではないかというのです。

この時、大形くんも黒魔女修行をしてるのかなとか、魔除けを作ったのは多分黒魔女じゃないかとか話していますが、めちゃくちゃ伏線です。この巻はシリーズ全体で見ても伏線のはりかたが丁寧な気がします。

魔除けをはめられてるとチョコたちの呪文まではね返してしまう。なので、大形のぬいぐるみを外すことに。まずチョコが醜いガーゴイルに変身。悪魔は自分の醜い姿を怖がるという原理を利用し、ぬいぐるみの中の悪魔を怖がらせ、追いはらおうという作戦です。このへんの仕組みとか本格的ですよね。黒魔女さんは基本ポップで親しみやすい作品だと思うのですが、黒魔法関連はオカルト知識でしっかり支えられてるからこそ、軽くなりすぎず、ダークで怪しげな雰囲気もただよってるのだと思います。

大形を体育館に呼び出し、作戦を実行するチョコ。呼び出すときのセリフがまるで告白みたいですが、チョコから大形への恋心が確定した今読み返すと感慨深いものがあります。

手元がすべって顔だけ人間の奇妙なガーゴイルになってしまうチョコ。しかし作戦は成功。ぬいぐるみは外れ、大形くんはショックを受けた様子でその場を去ります。実は彼は黒魔法使いで、師匠によって魔力と意識を封印されていたことがのちのち明らかになります。それらが一気によみがえり、衝撃を受けている様子がショックを受けているように見えたのかもしれないですね。大形くんの外伝とか書かれたら読みたい。

いつものドタバタ回のような雰囲気のお話ですが、この時チョコはとんでもないものを解き放っていたんですね。2022年1月現在、大形問題は恋愛や師弟問題とも絡み、作品の太い筋のひとつといってもいいほど大きくなった気がします。それも全部この時から始まったんですねぇ。

第2話

あらすじ

テレビ番組「魔女っこクラブ」に出演することになった5-1。出演メンバーに選ばれたチョコは、収録のリハーサル中に黒死呪文を唱えてしまう。帰宅後、撮影の様子をおさめたビデオを見ることになったチョコたち。そこに映り込んでいたある人物に、ギュービッドは驚く。

感想

5-1、TVに出る

クラブで美女にナンパされたという松岡先生。しかもその美女はテレビ局のプロデューサーらしい。それをきっかけにテレビ番組「魔女っこクラブ」に出演することになった5-1は、投票で出演メンバーを決めることになります。

あきらかにあやしい出会いを訝しがるみんな。TVに出るチャンスを逃したくないメグは、偶然の出来事がデビューにつながった芸能人がいかに多いかを熱弁します。ここの雰囲気、ちょっとなつかしいですね〜。youtuberとかネット発の有名人が出てくる前の話なので、もしかしたら今の小学生とは感覚が違うかもしれませんが、2000年代半ばごろはTVに出るってかなりキラキラした憧れだったんですよ……。

いつになく真剣に出演メンバーを決める5-1。そんななか投票用紙を白紙で出し、黒魔女ドリルの内職をしているチョコ、彼女らしいです。

開票され、出演メンバーが決まっていきます。ここのワクワク感好き。一票入っただけで大げさに喜ぶメグや百合ちゃん、無表情を保っていても喜びを隠しきれない舞ちゃん。誰もが認める華やかな子が票を集めたり、そうかと思えば意外な子に票がはいっておどろいたり。「誰が入るんだろう」という緊張感と「もしかしたらあたしも……」という期待に満ちた空気が伝わってくる気がします。

投票の結果、なんと出演メンバーに選ばれてしまったチョコ。収録当日、気合入りまくりのクラスメイトに気圧されます。いやほんとに、芸能活動経験のあるショウくんはともかく、マリアちゃんや百合ちゃんもいきなりきめポーズしたり、なんで5-1はこんなにテレビ慣れしてるんだ? セットはテレビに映るところは派手だけど裏側はベニヤ板丸出しでしょぼいとか、スタッフさんも意外と地味とか、リアルで面白いです。

暗御留燃阿初登場

この巻の目玉の一つ、暗御留燃阿の初登場。今でこそ味方ですが、当時はバリバリの悪役で、松岡先生を誘ったプロデューサーとして怪しさ満点で登場してきます。

初登場シーンの外見描写の詳細さと目をハートにしてる男子たち&松岡のイラスト、彼女の美しさを感じられるので暗御留燃阿オタとして大好きです。スタイルの良さにも言及されてますね。頭が良くてプライドが高く色気がある、王道の大人の女悪役でした。たぶん石崎先生の中でもそうだったんじゃないかと思います。クラブで松岡先生をナンパとかいう、今では考えられないようなこともやってますし。

暗御留燃阿はギュービッドの元同級生。リハーサルでチョコが黒死呪文を唱えた時の映像が欲しいギュービッドは、彼女経由でそれをゲットしようとします。実はこれも、チョコの素質を見抜いた暗御留燃阿による計画。ギュービッドからチョコを取りあげて自分の弟子にし、出世しようというと考えていたのです。

学生時代の話をする暗御留燃阿。ギュービッドは昔不良だった! 劣等生の彼女を、優等生の暗御留燃阿がいつも助けていたそうな。でも成績は悪くても才能は抜群で、難しい呪文を一発で成功させたこともあったとか。

ギュービッドは不良だけど天才肌という、今では当たり前の設定も実はこのときはじめて出てきます。「黒魔女さんの小説教室」で石崎先生は「一人のキャラを細かく作り込むのではなく、まったくちがうタイプのキャラとからむときに、そのキャラらしさが出る」とおっしゃってましたが、まさにその通りのことが起きていますね。優等生で計算して動くタイプで、出世のためなら平気で悪事をはたらく暗御留燃阿とからむことで、不良だけど才能があり、情にもろくほだされやすいというギュービッドの一面がひきだされたと思います。暗御留燃阿についても、ギュービッドとの対比でどういうキャラなのかがわかりやすくなった気がします。

また、のちのち、ギュービッドの才能に対して暗御留燃阿がコンプレックスを抱いている、という設定も出てきますが、その片鱗もすでに見つけられる気がします。チョコをスカウトする決め手が「素質がある」ことだったり、最終的にギュービッドのもとを去るときのセリフも「わたしを選ばないなんて(チョコは)素質ゼロの女だ」だったり、彼女の素質や才能に対するこだわりがみてとれます。学生時代のギュービッドを振り返って「勉強なんかできなくても、すごい人はすごいとつくづく思った」と言ってたり。まあオタクの都合のいい読み方かもしれませんが。

ギュービッドと暗御留燃阿の関係、個人的にすごく好きなんですよね。王道の天才vs秀才の関係じゃないですか。自分にはない才能を持っていて、泥臭い努力をしなくても何もかも手に入れているように見える天才を、秀才が憎みつつ憧れているという。そういう一面もありつつ、かつては本物の友情を育んでいた面もあったというのがまたエモい。単にふたりともスタイリッシュでかっこよくて好きというのもあります。ギュービッドの学生時代の話も読んでみたいです。公式HPでも何度か書く予定だと言われてた気がしますが。

そして暗御留燃阿の「4年前に見つけた子はよかったけどね」というセリフは第3話への伏線です。この4年前の子はもちろん大形のこと。二人が出会ったのは大形くんが幼稚園の年中の時なので、実は微妙に時系列が合わないのですが、3話の大形の正体バレのタイミングでこのセリフを思い出してるので間違いないでしょう。

またこの話は、チョコ・ギュービッドの師弟の絆がはじめてはっきりと描かれた回でもあると思います。暗御留燃阿の策略に気づき、「どうせ黒魔女修行をしなくちゃいけないんなら、ギュービッドじゃなくちゃやだっ!」と走るチョコ。部屋に飛びこむとギュービッドに抱きつきます。

はじめて離れ離れになりそうになった二人。この後も師弟の絆が大きく深まるのは、二人が引き離されそうになって戦う、みたいなお話の時だと思います。

ギュービッドと暗御留燃阿のキャラの組み合わせの良さによるものか、喧嘩シーンのテンポがめちゃくちゃ良くて好きな回です。暗御留燃阿は改心以降すっかりしおらしくなっちゃったけど、やっぱりこの二人はライバル関係で映えると思うし、かけあいは本当に面白かったのでまたやってほしいですね。

第3話

あらすじ

お母さんを亡くし、3人の弟妹の面倒を見ている灯子ちゃん。その健気な姿を見たチョコはいたく感動し、温泉旅行をプレゼントしてあげることに。黒魔法で第一小を旅館に、クラスメイトをおかみさんに変え、準備は万端。しかし旅行当日、チョコたちしか入れないはずの旅館に、招かれざる客が……

感想

温泉スタッフの5-1

図書館で妹と弟に読み聞かせをしている灯子ちゃんを発見するチョコ。聞けば、亡くなったお母さんのかわりに、日頃から弟妹のお世話をしているらしい。読み聞かせだけではなく、ご飯の支度やしつけもしている様子。

灯子ちゃんを見て日頃の態度をかえりみるチョコ、素直に反省するところもふくめて、そこそこ裕福な一人っ子感がなんかリアルです。しかし、灯子ちゃんの境遇(妹弟の世話に追われ子どもらしくすごせない)はいまなら社会問題ですね。

灯子ちゃんの健気さに感銘を受けたチョコは、ギュービッドの黒魔法で温泉旅行をプレゼントしてあげることに。第一小を旅館に変え、クラスメイトをそのスタッフにします。事前準備として、5-1のメンバーに「若おかみは小学生!」を渡して女将の心得を学ばせたり、麻倉&東海寺に灯子ちゃんの弟妹のベビーシッターを頼んだりいそがしく動くチョコ。

子どもたちの世話を頼まれたときの麻倉&東海寺の反応、可愛いです。東海寺に「黒鳥を呼び出す呪文をとなえてた」と言われて間髪入れずに「アホか、こいつは」とつっこむチョコ、初期だなあという感じがします。麻倉も話しかけられただけで顔を赤らめてて、うぶ。「子どもたちの面倒はじいちゃん(ヤクザ)の屋敷でみる、若い衆に見張らせておくから安全面も大丈夫」というところで笑いました。いまほどシンクロ率は高くないですが、二人で似たような反応するのはこの時から変わりませんね。

事前準備の甲斐あって、女将さん・仲居さんになりきる舞百合メグ。みんな着物姿かわいい。特に舞ちゃん似合ってます。しかし、メグと百合ちゃんの足の引っ張り合い、お客様への料理をつまみ食いする横綱、彼らを叱るのに忙しそうな舞ちゃんなど、職場環境に問題がありそうな……。ショウくんはイケメン社長の役に。このとき初めてセリフがありました。

大形の正体

温泉旅行を楽しむチョコたち。その耳に、ショウくんたちが「団体のお客さんの対応をしなくてはいけない」と話しているのが聞こえてきます。しかし黒魔女か、黒魔女に招待された人間しか旅館に入れないはず。団体客がいるという宴会場に行ってみると、そこに広がっていたのは衝撃の光景。なんと、何十体ものぬいぐるみがずらーっと並び、しかも「おなかがすいたねぇ」などと話し合っていたのです。

言うまでもなくこいつらは大形くんがいつも身につけているパペット。さらに会話の内容から、温泉につかりにいったはずの灯子ちゃんが、なにかしらピンチにあっているらしいことがわかります。

このシーン不気味でめっちゃ好きです。かわいらしいぬいぐるみが並んでるというのがここまで不気味だとは。無表情のぬいぐるみが笑ったり、全員大形の声で喋るというのが怖いのでしょうか。

第2話のテレビ局での会話から、大形が暗御留燃阿の弟子で、ギュービッド師弟を邪魔するために旅館に潜りこんだのではないかと推測するチョコ。さらに旅館にかけた魔法が解けかかっていることに気づき、灯子ちゃんを救出しようと焦ります。

そんなチョコの目の前にあらわれた大形くん。しかしぬいぐるみは外れ、いつもの子どもっぽい表情も消え、少女漫画の王子様系のイケメンに。藤田先生のイラスト、おめめがキラキラで気合が入っている気がします。

衝撃の事実を語り始める大形くん。実は彼は暗御留燃阿の元弟子。弟子をコントロールできなくなった彼女はぬいぐるみをつかって大形の魔力を封印し、見捨てました。しかし凛音ちゃんの件でぬいぐるみが外れたことで、強大な魔力を取り戻すことに。現在、大形くんは、魔力を封印されたことから黒魔女たちへ強い憎しみを抱いており、魔界を支配しようと考えているというのです。

このあとシリーズ全体を通して大形との対決が描かれていくわけですが、ここがその始まりかと思うと感慨深いです。シリーズを通して敵対するキャラが出てきたので、あとからみればここで物語に一本骨が通ったというか、作品の流れが変わった感がわたしはあります。

黒魔女さんは基本的に1話完結で、この3巻3話にいたるまで、解決のために数巻かける必要のある大きなエピソードがありませんでした。しかし、「魔界の支配」という壮大な目標を持っていて、今まで登場した敵よりずっと強く、暗御留燃阿との過去などの背景も複雑な大形くんが登場したことで、いろんなステップを踏まないと解決できない問題がはじめて生まれたんだと思います。

またこのシーンで、大形とギュービッドがバトルを開始しそうな雰囲気がありました。地味にこの二人の対決シーン好きです。独特の緊張感があってドキドキします。『黒魔女さんの修学旅行』も好きでした。

 

 

【6-1黒魔女さん】恋バトルに収束の兆し?ラストは衝撃展開!『黒魔女さんと受験の神様』【15巻感想】

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あらすじ

呪リア学園を受験する大形くんと同じ中学校に行くべく、呪験勉強を開始したチョコ。ギュービッド様の勧めで、黒魔女のための進学塾「ノアルソルシエール学校」に通うことになります。

一方、6-1は3学期も大忙し。受験を間近に控えたみんなから委員会活動を押しつけられたチョコは、自分の勉強との両立に四苦八苦。

また、大形くんへのほのかな恋心(?)にも進展が……

 

チョコをめぐる恋のバトル、決着がつきそう

15年にわたり続いてきたチョコをめぐる恋のバトル。その主な登場人物は麻倉良太郎、東海寺阿修羅、大形京の3人。まず麻倉と東海寺がライバルになり、その後『黒魔女さんのシンデレラ』で、大形が一方的にチョコは自分のお妃だと宣言。その後もことあるごとにバトルが繰り返されてきました。

『恋に落ちた黒魔女さん⁈』からはチョコが大形を気にしているようなシーンも増え、彼が一歩リードしているような印象に。また、巻を追うごとに、大形を魔界への恨みから救おう! という描写が濃くなっていき、大形もそんなチョコに少しずつ心を開いてきました。

そして今巻は、チョコの大形への恋愛的な気持ちが、今までになくがっつりと書かれた巻でした。

大形くんと一緒の中学に進学したいチョコは呪験を決意。宿題のために部屋の窓越しに会話を楽しむなど、王道の甘酸っぱいシーンが続きます(ここ、挿絵もロマンチックでしたね)。

大形と同じ中学に通うのは運命かも、と思う箇所や、「(大形の笑顔が)手をのばせばとどきそうなところにあるかと思ったら、また胸がきゅっ」という地の文など、明らかに心惹かれていることがわかる描写も多かったです。前巻のきみえに続き、まわりからも「ほのかな恋心を抱いている」などと言われているので、もうチョコ→大形は確定なのでしょう。

なかでも、8章は繊細な気持ちが伝わる神章でした。

一緒に模擬試験を受けに行った二人。全く歯が立たなかったと落ち込むチョコのために、大形くんが復習につきあってくれることに。夕日がさしこむ教室で二人きり、オレンジ色に照らされた横顔に見とれるチョコ。

夕暮れのひんやりとした空気をふるわせる、おだやかな声。

それに、じっと耳をかたむけているうち、ふと思った。

ずっと、こうだったら、いいのに……。

あしたも、あさっても、しあさっても、こうだったら、いいのに……。

(中略)

毎日が、ずっと、ずっと、いまのくりかえしだったら、いいのに。

ゆっくりと、うすやみに沈んでいく六年一組の教室。

あたしは心のなかで、なんどもなんども、そうくりかえした。

『黒魔女さんと受験の神様』p141~p142

卒業を目前にした1月末、どんどん日が暮れていく教室。それをバックに、静かで幸せな、でもすぐに失われてしまうであろう情景を惜しむチョコ。

いや〜、映画のワンシーンのような美しさですね〜。石崎先生の気合が伝わってくる。わたしが麻倉や東海寺のファンだったらショックで寝込むかもしれないです。

彼らはコンビ感がありすぎて、どちらか一方だけが恋愛成就する光景は、初期から想像できなかったです。また、魔界や元師匠への恨みなど、大形の背負っているものが重すぎるので、麻倉or東海寺ルートはないだろうなと正直思っていました。でも大形も恋の相手というよりはライバルという印象が強かったし、無印はそこまで恋愛中心の作品ではなかったので、特定のだれかとつきあったりはしないのだろうと予想していました。

それがここまでがっつり「恋」を書いてくるんだから、オバちゃんはもうびっくりです。10巻くらいから、麻倉&東海寺の顔を合わせれば即ケンカ、みたいなノリがなりをひそめ、共闘シーンが作られたりしていたので、そういうことなのかなとは思っていましたが……。

あとはチョコが、大形を目の前にしたときの喜びや胸の高まりを「恋」だと自覚するだけで、二人の仲は一気に進展する気がします。多分、次巻はバレンタインのお話でしょうし、チョコが「この気持ちは『恋』というやつなんだ!」と気づくストーリーになりそう。

だけど『黒魔女さん』が当初かなりダークな雰囲気もあったこと、最近原点回帰していることなども踏まえると、石崎先生がそう簡単にくっつけてくれるかな? と感じたり。それに、まわりからもこれだけ恋だ恋だと言われてまだ自分の気持ちに気づかないチョコが、どうやったら動くんだろうとも思います。

大形くんが他の女子と親しげにしているのを見て嫉妬に苦しむとかですかね。同作者で、雰囲気的にも『黒魔女さん』に近い作品『世界の果ての魔女学校』には、恋人の昔の彼女が気になって仕方ない女の子が登場しました。あんなふうに、恋の苦しみみたいなものが書かかれるかもしれないなあと、ちょっと思っています。

それから、他の子に流されるようにして私立中学を受験するというのも、少し黒魔女さんらしくない気がするんですよねぇ。たしかにチョコさんは愛が重いところがありますが、やっぱり本来クールな一匹狼だと思うんですよ。どんな進路にせよ、自分の意思で決めたほうが「らしい」というか。

今巻ラスト、墓魔にされそうな灯子ちゃんたちを救うべく、呪験会場から抜け出していましたが、やっぱりそういうことを考えても、私立には行かないんじゃないかと思いますね。

 

大形問題はつづくよどこまでも

そしてそしてそして! 今巻最大のサプライズ展開、暗御留燃阿の失踪について。

大形を悪の道に落とした彼女が味方になったのが無印13巻、大形問題に本格的に関わりだしたのは6年生編12巻。6年生編13巻では記憶を失った大形を救うため、チョコたちと一緒に死者の世界に行ったりもしましたが、超重要キャラのわりにはほとんど掘り下げがないな、というのが前々巻までの印象でした。

前巻ではすでに大形とも和解済みで、彼が師匠のために奔走する様子が描かれました。わたしは暗御留燃阿オタなので、それを読んだときはとても嬉しかったのですが、やはりどこかすっきりしない感じが残っていました。

大形と暗御留燃阿の因縁の決着というのは、この問題の最もたいせつな要素と言っても過言ではないはずです。それが数行程度の事後報告で済んでしまうというのは、いくらその他が素晴らしくても受けいれづらかったです。また、和解の過程がないのもあり、被害者の大形が加害者の暗御留燃阿のために奔走する展開には素直に感動できないところもありました。

ただ、大形くんの心から彼女への恨みが消え、今はものすごく慕っているのもわかるのでなんとなく大団円な雰囲気もあり、てっきり前巻でこの問題は終わったものだと思っていました。

しかし今巻、思いもよらぬ出来事が。大形の呪験勉強を手伝っていたはずの暗御留燃阿が突然、手紙を残して失踪したのです。

どうやら、「罰を2回うけたお前がインストラクターをしているせいで、弟子は志望校に合格できないだろう」と言われた模様。ギュービッドたちも捜索しますが、結局いどころはつかめず、行方不明のまま受験当日をむかえます。

まさか暗御留燃阿を失踪させたまま今巻が終わるとは。この二人がここまで真正面から書かれるとは思っていなかったので、本当に嬉しいです。

それだけでも衝撃だったのに、彼女の内面にまで踏み込んでいる手紙を読んだときは、夢でも見ているのかと思いました。

それによれば暗御留燃阿は、大形がもう一度やりなおせるように助けるのがつぐないになる、と気付いたとのこと。しかし、綺麗な心を取りもどしてあげることはできない。なぜなら、そもそも自分は彼を闇に落とした張本人だし、チョコや桃花のような汚れのない心の持ち主ではないから。だからせめて魔力を健全な方向に伸ばそう、それなら能力的にもできるし、その資格ならあるだろうと思ったそうです。

けれど実際には、魔力を伸ばすどころか、自分がいることで大形が不合格になる可能性があるとわかった。だから身を引くことにする、という内容でした。

まず、「綺麗な心は与えられないが、強大な魔力を正しい方向に伸ばす自信ならあった」という箇所が、自責の念の陰にプライドを感じて、本当に暗御留燃阿らしいなぁと思いました。

またこの場面は、彼女にとって学力とはどんなものなのかを考えて読むと、一層味わい深いです。

無印14巻で、彼女には小学校受験失敗の過去があることがあきらかになっています。学生時代成績トップだったのは、それをバネに猛勉強し続けたからです。出世の鬼になったのも、王立魔女学校の卒業試験でギュービッドに負けることをおそれたのがきっかけでした。暗御留燃阿にとって、その高い学力というのは、生涯全てを注いで手にしてきた誇りそのものでもあり、つねに自分をおいこみ、破滅へとみちびいた業でもあるはずです。

そうして得てきた能力を使って、かつて自分が人生を狂わせた弟子に望みの進路を与えようとしたわけですが、現実は望みをかなえるどころか、ふたたび人生を狂わせてしまう可能性があることがわかった。それを突きつけられ、自ら姿を消そうというところまで追い詰められるのは、相当よいものがありました。

また、そこに至るまでの背景や理由は違うとはいえ、今回の暗御留燃阿の失踪は、かつて幼稚園児の大形を見捨てていなくなったできごとと少し重なる気がします。石崎先生が意識しているのかはわかりませんが、あえて当時と似た状況に置いているのかなぁとも思いました。

『黒魔女さん』自体がおそらくあと数巻で完結なのでしょうし、残り書かないといけないことが大形問題だけではないこともわかっているのですが、暗御留燃阿サイドはさらにほりさげてほしいですね。かつて弟子にしたひとつひとつの具体的な行為についてどう思っているのか、また当時はどういう気持ちだったのか、などを知りたいです。

石崎先生は『黒魔女さんの小説教室』で「物語というのは『変化』を語るものだ」とおっしゃっています。「どうして気持ちが変化したのか、それには、具体的なできごとがあったはず。それを語っていくのが『小説』だと、ぼくは思う」とも。

いままで、大形と暗御留燃阿に関してはずいぶん駆け足な印象でしたが、とうとうこの「変化にいたるまでの過程」が描かれる時が来たんだと思います。

暗御留燃阿は長らく大形問題に関わってなかったのもあり、12巻で大形問題に参戦したあとも期待が半分不安が半分みたいな状態でしたが、次巻は100%期待してまっていようと思います!

 

おわりに

全体的に、シリーズの完結が近いことが感じられる巻でした。

今巻の大きなエピソードは麻倉vs東海寺vs大形のチョコをめぐるバトルと、大形問題の掘り下げだったと思いますが、長年にわたって描かれてきたエピソードが収束に向かっているのをみると、読み始めたころをおもいだしてしみじみしますね。

また、チョコが将来、魔力を捨てるのか、それともギュービッドたちと一緒にいることを選ぶのか、という問題にも触れられました。これも無印1巻から出てきていましたね。おそらく次巻か次々巻くらいで恋バトル&大形問題が終わると思うので、ラスト2巻ぐらいはギュービッドとチョコが中心のお話になりそうです。

 

次巻も楽しみです!

 

次巻はこちら

 

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【6-1黒魔女さん】大形くんから暗御留燃阿への思いの掘り下げ巻『黒魔女さんと魔法博士』【14巻感想】

この記事の続き。暗御留燃阿オタです。

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大形と師匠・暗御留燃阿の今の関係について、まるまる1巻かけてほりさげられた巻でした 。

 

 あらすじ

亡き祖父・京太郎の呪文によって記憶を取り戻し、暗御留燃阿と再び師弟関係になった大形くん。

一級黒魔女同士になったチョコ・大形とそのインストラクターのギュービッド・暗御留燃阿は、魔法の三博士からもらえるというクリスマスプレゼントをめぐって対決することに。

仲良く修行したいのに、ライバル心むき出しの大形を見てショックを受けるチョコ。しかしギスギスした態度の裏にあったのは、ある人物への意外な思いだった。

 

大形くんと暗御留燃阿、意外な方向から掘り下げられる

前巻、京太郎の呪文で記憶を取り戻した大形くん。しかし、暗御留燃阿との和解の過程や、それによって綺麗な心を取り戻したという京太郎との修行の詳細、京太郎の正体については一切触れられず、どこか消化不良感が残っていました。

今巻はそれらが重点的に描かれるのかなと思っていたのですが、1話の冒頭で早々に京太郎が消滅してしまい、修行の詳細もノータッチのままでした。ですが、大形と暗御留燃阿の関係に関しては、和解の過程こそほぼ書かれなかったものの、和解後の大形→暗御留燃阿の気持ちについては説得力のある描かれ方をしていたのではないかなと思います。

クリスマスプレゼントバトルの最中、やたらとげとげしい態度だった大形くん。実は勝負に勝てば師匠の暗御留燃阿を2段に昇格させることができると聞き、そのために必死に努力していたのです。惜しくもチョコに敗れた彼は、ひざからくずれおちて悔しがります。

大形くんからの暗御留燃阿に対する気持ちが予想以上に大きく&重く、ビビりました(笑)。「ぼくはこの手で、暗御留燃阿に勝利を、黒魔女2段を、とどけたかったんだ……」、「ギュービッドもいいインストラクター黒魔女だろうけど、ぼくは暗御留燃阿のほうが上だと思う」など、おお……と思わせるセリフがたくさんありましたね。

チョコに手加減してもらうのではなく、あくまで正々堂々と戦った上で勝ちたい、価値のある勝利をとどけたい、というのはストイックな彼らしいし、プライドの高い師匠を本当に喜ばせるにはそうしないといけないんだ、という思いも読みとれる気がして、大形の暗御留燃阿への理解度の高さを感じました。この誰かを思う気持ちの重さ、非常に『黒魔女さん』ですね。

大形くんは記憶を取りもどす過程で暗御留燃阿が本当に反省していることを知ったそうです。実際、師弟関係を結びなおしてからの指導はやさしかったらしく、それゆえ上のような心境になったのだろうな、ということがさらっと描かれます。

ですがこの辺の詳細はこれで終わりにせず、今後、回想などで絶対に掘り下げてほしいです!! 大形問題にとって、とっても大事なシーンのはずなので……。今回は大形くんから暗御留燃阿への気持ちがメインでしたが、暗御留燃阿から大形くんへの気持ちも、おなじくらい掘り下げて書いて欲しいです。

……。

ただ、自分をひどい目にあわせた相手にたいしてもこういう気持ちをもつ、というのはある意味彼らしい気もしました。

これは暗御留燃阿オタにとって都合のいい解釈にすぎないかもしれないのですが、大形くんは暗御留燃阿に対して憎しみだけではなく、同じ秀才型としてのシンパシーのようなものもずっとあったように感じられるのですよ。

無印12巻で、さらしものの刑にされかかっている暗御留燃阿を助けたい、と大形くんが話すシーンがありました。そこで、「あの、美しく、誇り高い黒魔女が、(略)バカにされるなんて、たえられない。まるで、ぼくまでさらしものにされたような気分になる」というセリフがあります。

大形はここで、暗御留燃阿がギュービッドに対して劣等感を抱いていることに注目しています。さらにそれが、才能コンプレックスに基づいていることも理解しています。

この時の暗御留燃阿は出世命の悪役で、かつての弟子のことを気にかけている描写などは一切ないのですが、大形くんは彼女を憎みつつも、その根本にあるコンプレックスを理解していることがうかがえます。

それがなぜかというと、彼自身が「ぼくと黒鳥さんの関係も、暗御留燃阿とギュービッドの関係に似ているかも」と言っているように、自分たちの性質の一部が似ていると感じていたからだと思います。

元師匠を仇として憎みつつも、秀才型で自分と気質が似ていることをわかっており、それゆえひらめき型に対する恐れや焦りなどを理解できてしまうところもあったのではないかなと。だからこそ暗御留燃阿がさらし者の刑にされると「ぼくまでさらしものにされたような気分になる」のではないかと思いました。

結局、この時の彼はチョコを自分の計画にまきこむために演技をしていたことが後々明らかになるのですが、桃花ちゃんがつうしんぼに「暗御留燃阿を助けたいという言葉にうそはなかったと信じている」と書いていたように、このセリフのすべてがうそだったわけではないでしょう。

もともと感受性が強く、性質的にも暗御留燃阿と共鳴する部分もあったからこそ、記憶をとり戻してからたった数日で「ギュービッドとおなじ2段黒魔女にしてあげたかった!」とまで言うような気持ちになったのだと思います。

そしてクリスマスプレゼントバトルの決着がついた1月6日って暗御留燃阿の誕生日なんですよね。石崎先生が意識していたのかはわかりませんが、それをふまえると、ますます大形の「2段黒魔女にしてあげたい」というセリフの重みが増す気がします。

また、今巻のストーリーの運びかたも大形くんの暗御留燃阿への気持ちの重さを際立てていたように思いました。修行シーンなどはちょくちょく挟まれるものの、「大形と暗御留燃阿は今どういう関係なのか」「和解できているのか」という、読者にとって最も気になることに対する明確なアンサーがないまま物語が進み、ラスト付近で大形の今までの行動が全て暗御留燃阿のためだったと明かされる……というのは、かなりインパクトがありました。

改心後の大形くんの性格も、改心前と全く別人になってしまうのではなく、純粋でストイックゆえに独りよがりになりやすいところなど、以前との連続性も感じさせてよかったです。

ただやっぱり、和解過程が描かれていないこともあり、被害者のはずの大形くんが加害者の暗御留燃阿のために奔走する、という展開には素直に「感動した!」と言えないところはあります。今後、暗御留燃阿サイドの掘り下げなどで、その辺のもやもやが払拭されることを期待しています。

おわりに

今巻で大形問題はおおむね終了だと思います。長年この問題を追ってきた身からするとひとまずほっとするラストでした。暗御留燃阿と大形の和解過程など、まだまだ絶対にほりさげて欲しい箇所はありますが、しみじみとしたいい巻だったと思います。

また、感想にはあまり書けませんでしたが、ギュービッドと暗御留燃阿の描かれ方もよかったです! 二人の緊張感ある関係が好きなので、大形vsチョコが暗御留燃阿vsギュービッドの師匠対決でもあるのは大変萌えたし、「勉強できすぎの出木杉さん、意識高すぎの高杉くん」という暗御留燃阿評や、「つまり、あたしが暗御留燃阿に負けたってことさ」というギュービッドのセリフもぐっときました。

迦楼羅編の要素が入っていたのも、ファンとしてはうれしかったですね。

とはいえ大形問題全体を通してみると、やっぱり暗御留燃阿が改心してから問題に関わるまで長かったよなとか、桃花ちゃんがインストラクターとして活躍する話をもっと見たかったなぁとか、京太郎って結局何だったんだろうみたいな疑問は残っています。そのあたりは今後の巻や外伝で描かれたらうれしいな〜と思います。

次巻も楽しみです!

 

 

 

次巻の感想はこちら

 

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【6-1黒魔女さん】大形問題解決巻かと思ったらチョコの自分探し巻だった『黒魔女さんと死霊の宮殿』【13巻感想】

これの続き。書いている人は暗御留燃阿オタ。

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あらすじ

第1話

卒業までに進化した小学生になるべく、世界遺産をまなぶ遠足に行くことになった6-1。ところが実際に目にしたのは、「白”紙”山地」や「”バンビ”の長城」など、どこかおかしいものばかり。さらにはチョコの「明るく、フレンドリー」なそっくりさんまで現れて……。

第2話

大形くんの記憶を取り戻すべく、死者の世界に向かったチョコ・ギュービッド・桃花・大形・暗御留燃阿。道中で出会った予言者の言葉に従い、記憶を拾っては売っているという「記憶屋」のもとを訪れる。大形の記憶を返してもらおうとするチョコだったが、そうすんなりといくわけはなく……。

 

感想

前巻、大形自身が幼少期の出来事を思い出すのを拒否しているために記憶が戻らないということ、しかしチョコとの新しい思い出を作ることでその気持ちが変わるかもしれない、ということが判明しました。

ここから私は、今巻では

①大形と、彼の不幸の元凶である暗御留燃阿が過去に向き合い、因縁を解消するまでの過程

②大形自身が辛い記憶を含めて「思い出す」という決断をするまでの心の動き

が描かれると思っていました。そういう人の感想なんだと思って読んでください。

 

大形問題解決巻かと思ったらチョコの自分探し巻だった

今巻ラスト、チョコの活躍によって大形の祖父・京太郎が姿を現しました。そして暗御留燃阿を孫のインストラクターに再任してほしい旨を告げ、大形の記憶を取り戻すための呪文とおもわれるものを唱えました。そこに至るまでの過程は以下のとおりです。

死者の世界で、記憶をあつめて売っているという「記憶屋」のジョニーの元をおとずれたチョコたち。彼の罠にかかったチョコと大形は、「五重塔」ならぬ「魔獣の塔」に閉じ込められ、魔獣「魔ねきねこ」におそわれます。

絶体絶命のそのとき、道中で会った予言者に、「まんじゅうの塔に住む魔ねきねこが、ダサい石器を手にするとき、そこに、万妖集があるだろう」と言われたことを思い出すチョコ。さらに、自分の魔界誕生石・黒曜石が縄文時代は打製石器の材料として使われていたこと、世界遺産を学ぶ遠足で、エロエースが打製石器を「ダセー石器」と言っていたことも思い出します。

これらのことから、予言の「ダサい石器」とは黒曜石の黒魔女である自分のことだとひらめくチョコ。魔ねきねこに突進するとみごと「万妖集」があらわれ、そこに書いてあった呪文を唱えると、京太郎を復活させることができたのでした。

「恋に落ちた黒魔女さん⁉︎」から伏線が張られてきた「チョコが黒曜石の黒魔女である」というなぞの一部が回収されたのはとてもどきどきしました。また、魔ねきねこに突進するときの「あたしはオブシディアン。あたしはダサい石器。」という一文もアツかったです。この記事にも書きましたが、私は『黒魔女さんが通る!!』という作品の1番の魅力はチョコに主人公属性がないことだと思っているので、あらためて彼女が自身を「ダサい石器」と言ってくれたのが嬉しかったです!

だけど正直今巻に期待していたのはこういう展開じゃなかったんだよなぁ……

前述したように、大形の記憶が戻らないのは幼少期の暗御留燃阿との出来事を思い出したくないせい。死者の世界への旅も、チョコとの思い出作りを通じて記憶を取り戻すことに前向きになってもらうためです。

だから、今巻は大形が過去を思い出そうという気持ちになるまでの葛藤や、その過程でおこるであろう暗御留燃阿との対話、チョコへの思いの深化等に期待していました。大形自身の心情の変化が結構詳しく書かれるのかなぁなんて思ってたのです。

ですが、実際は大形が記憶を取り戻すことについてどう思っているのかもはっきり書かれないうちに、チョコが黒曜石の黒魔女としての能力に目覚め、京太郎を呼び戻してしまいました。暗御留燃阿の件に関しては二人の会話シーンすらナシ。

もともと、大形に思い出を取り返したいと思わせることが旅の目的だったはずなのに、京太郎の復活・暗御留燃阿のインストラクター再任と彼自身の気持ちに何の関係もなく、チョコが黒曜石の黒魔女として活躍したから記憶を取り戻す流れになっているように思えて、すこし違和感を感じました。

第1話では明るくフレンドリーなそっくりさんに対し、本当の自分はネクラなオカルト大好き少女なのに……と思うチョコの様子が描かれていました。また、最終的に黒曜石=ダサい石器であったことや、「へちゃむくれで、(略)鈍足で、黒曜石の黒魔女、黒鳥千代子。大形くんのために、はしります!」などという地の文があったことも考えると、今巻は大形の気持ち云々というより、チョコがネクラでオカルトオタクな「本当の自分」的ななにかをみつける巻だったのかな、と思います。

それはそれで面白かったのですが、個人的には大形問題は大形を中心に据えてやってほしかったなぁ……。なんだかチョコの自分探しのついでに大形問題が解決してしまいつつあるような印象を受けて少し不安です。まあ本当の解決は次巻以降になるみたいなので、そこに期待ですね。

 

とはいえ、このまま終わるとも思えない

と、初読時はけっこう肩透かし感をくらってしまったのですが、あらためて読み返すと、回収されていない謎や今後の伏線なのでは? と思うような点が結構ありました。たとえば……

①記憶を失っているはずの大形が、なぜか火の国をのっとったときのことを覚えている

→『黒魔女さんと黒魔術の王』で未完呪ースを飲み、記憶を失っているはずの大形くん。しかし、まんじゅうの塔に閉じ込められた時に、『黒魔女さんのシンデレラ』で火の国の王子になりすましていた頃の出来事について語り出します。五重塔などにくわしかったのは病院で桃花の話を聞いていたからにしても、『シンデレラ』で桃花は未登場なので、大形が言及していた場面のことを彼女が知っているわけがなく、つじつまがあいません。

②記憶屋のジョニーに対して、暗御留燃阿が「自分たちは黒魔女しつけ協会から送られてきた短期留学生だ」と嘘をついた理由

→大形問題解決パートであること、暗御留燃阿が大形の不幸の元凶であることを考えると、次巻彼女の活躍シーンはきっとつくられるはず(そうであってくれ!)。さらにこの台詞の後にわざわざ地の文で「なんで、そんなうそをつくんだろ?」とだめおししていることを考えると、ほぼ確実に伏線でしょう。

③グラシュティグの「ギュービッドが犠牲や屈辱を味わうかもしれない」という言葉の意味

→前巻、5人を死者の世界に送り出そうとした際、グラシュティグ会長がギュービッドに対し、「弟子を助けるといっても、ときには犠牲を、そして、屈辱的な思いをともなうことさえあるかもしれない」と言いました。印象的なセリフでしたが、今巻それらしいシーンがなかったので今後の展開が気になりますね。

③大形の修行内容と京太郎の正体
→『黒魔女さんと黒魔術の王』にて、きれいな心を取り戻したいと思った大形が、自ら京太郎の元で修行していたことが明らかになりました。しかしその修行内容と京太郎の正体は未だにほとんどあきらかになっていません。これが描かれないと、読者の知らないところで、読者がほぼ知らない新キャラによって大形が改心したことになってしまうので、たぶん掘り下げがあるでしょう。

 

次巻も楽しみです!

 

 

 

 次巻の感想はこちら

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【6-1黒魔女さん】ついにあの人が大形問題に参戦!『黒魔女さんと秘密のサバト』【12巻感想】

これのつづき。前回に引き続き暗御留燃阿オタ視点の感想です。

 

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第1話

あらすじ

未完呪ースを飲んで記憶と魔力を失ってしまった大形くん。桃花とともに魔界に残った彼を心配しつつ、チョコ自身も慣れないリモート授業&修行にてんやわんや。そんな中、リモート授業に大形らしき人物が参加しているのを発見するチョコ。「過去をやり直して自分を変えたい」という彼のために、チョコがとった行動とは……

 

メタ的な意味がありそうな第1話

大形らしき人物から「いままで口にしてきたうらみの言葉を消して人生をやり直したい」と頼まれたチョコ。大形の魔力が流れ込んだおかげで高級魔法が使えるようになっていた彼女は、覚えたての呪文と過去をやり直せる魔界グッズを使い、望みを叶えてあげようとします。

しかし実はチョコに頼み事をしたのは大形のふりをした青菜西男という少年。大形に憧れて黒魔法使いになったはいいものの、「どうせ自分にはできない」とネガティブな言葉を繰り返しているうちに自信をなくし、修行を始めて5年経っても黒魔女4級レベルという少年です。そんな弟子に自信をつけさせたいと思った西男のインストラクターが考えたのが、チョコの魔力を利用して過去に戻り、「自分にはできない」という発言を修正させる事でした。

生徒を「○人」ではなく「○個」で数える松岡先生、「スーパージャイアントみなしごハッチ」と呼ばれる悪魔情など、日常回としてもおもしろかったですが、大形問題的に考えてもなかなか興味深いお話でした(大形自身は登場してないけど)。

まず西男と彼のインストラクター・ソリスの関係が、大形と暗御留燃阿の関係と対になっているのではないかと思いました。師弟ともに優秀だけど心が全く通じていない大形と暗御留燃阿に対して、師弟ともにあまり強くなさそうだけど弟子の事を真剣に考えているソリス。

暗御留燃阿の「あたしにソリスのような心があったら、大形もあんなことにならなかったと思うの」というセリフもありましたが、大形問題が佳境に入り、とうとう暗御留燃阿がこの問題に本格参戦した今巻にこういうお話が書かれるという事は、次巻の大形・暗御留燃阿の掘り下げにも相当期待していいのでは? と思っちゃいました。

第2話でも暗御留燃阿がチョコに黒魔法を教えるシーンがありましたが、「大形にはどんな感じで教えてたのかな」とか妄想が膨らんで楽しかったです。まあ第2話のシーンを次巻の伏線と捉えるのはさすがに深読みのしすぎだと思いますが、第1話は当たらずとも遠からずかと思うので、期待値も俄然高まります。

もう一点興味深かったのは「過去をやり直す」という事に焦点を当てたお話だった事です。前巻『黒魔女さんと黒魔術の王』にて、記憶を失う事にたいして、『思い出をうばうってことは、命をうばうのとおなじ』という地の文がありました。今回、西男は過去の発言を修正しようとして失敗し、チョコも大形のために過去をやり直そうとして体に負担をかけてしまいました。物語的に後者は慣れない高級魔法を連続して使ったからなのですが、前巻の文章と併せて考えると、やっぱり辛い過去を消す事でハッピーな人生を手に入れるみたいなエンドは今巻でも否定されているのかなと思います。

あとやっぱり暗御留燃阿オタとしては、彼女が大形問題にたいして具体的な発言をしたのがうれしかったですね。前巻大形くんがシャレにならない事態になり、もう登場するとしたらこのタイミングしかないと思っていたので、今巻冒頭から何度も名前が出てきてほんとうにドキドキしました。推しが物語的に活躍できるポテンシャルのあるキャラだと信じてきてよかった。次巻もよろしく頼みます。

 

 

第2話

あらすじ

クリスマスを控え、「サンタはいるかいないか論争」がヒートアップする6-1。一方ギュービッドたちは、ユールサバトのあとの人間界をパトロールして「魔界キャンペーンユール・プレゼント賞」をゲットすべく、チョコに黒魔法の猛特訓をしていた。チョコから「サンタはいるかいないか論争」のことを聞いたギュービッドは、賞の獲得と論争の決着を両立させる画期的なアイディアを思いつく。

 

暗御留燃阿の描き方、ここ10年で一番好き

新しく教わった黒魔法をなかなか成功出来ないチョコ。ギュービッドが協力を頼んだらしく、暗御留燃阿にアドバイスをしてもらう事に。

ギュービッドが「気合を入れながら丹田に力をこめる」という天才にしか許されない方法で呪文をかけるのに対し、暗御留燃阿が「まず口から息を吐いて、それから鼻で息を吸って……」と段階を分けて呪文をかけているの、両者の性質の違いがあらわれていておもしろかったです。

第1話では「学生時代、ギュービッドと暗御留燃阿は3段魔法の幻覚魔法と幻聴魔法を使って授業をサボっていた(*二人が卒業した王立魔女学校は通常、卒業時に1級or初段)」という記述がありましたね。この二人の、性格は対照的だけど実力は同じくらい高いところが好きな身としては嬉しかったです。

また、わなにかかったサンタを捕まえに行く際、自分にはいばるギュービッドが暗御留燃阿にはニコニコなのに対して、チョコさんが「あたしに対する態度とぜんぜんちがうんですけど」と突っ込んでるのも好きです。ギュービッドと暗御留燃阿が並んで歩いて行くところは、『魔女学校物語』2巻の第1話で二人が食堂から出て行くシーンを彷彿とさせました。チョコとの師弟関係のなかで見せるのとは微妙に違うギュービッドの表情、いいですねー。

暗御留燃阿の描かれ方については、無印13巻で改心して以降、一番好きです。改心後の彼女はちょくちょく「優しい人になりましたね!」と持ち上げられる割に、自分がやらかした行為についての具体的な言及がなく、どういう気持ちでチョコたちと接しているのかが想像しづらいところがありました。チョコのほうも、わたしからすれば些細な事で暗御留燃阿を持ち上げすぎているような気がしていました。

今回も教え上手な暗御留燃阿に対して、「王立魔女学校始まって以来の優秀な黒魔女と言われるだけのことはある」というセリフがありましたが、直前に暗御留燃阿のアドバイスによって呪文が成功する過程が3ページも割いて書かれていたのと、それに対するチョコの反応が妥当だと思ったので、ふつうに「燃阿たん優秀だなぁ😊」と感じました。p121のやや伏し目がちなイラストも相変わらず美しかったです。今巻はパンツスーツスタイルでしたが、次巻は生脚を拝みたいです!

 

大形復活? しかし……

 黒魔女しつけ協会のグラシュティグ会長がひらくユールサバトに出席することになったチョコ・ギュービッド・暗御留燃阿。実はチョコを密かにテストしていた会長は、試験に突破したご褒美として、「超ウルトラスーパーハイパーミラクルロイヤルデラックス魔法」を使ってくれます。立ち尽くすチョコの前に現れたのは、なんと記憶と魔力を失って桃花の看病を受けているはずの大形くん。会長によれば、なんとか体力は戻ったものの、彼自身が拒否するので記憶を取り戻せないのだそうです。

大形が現れるシーンの描写、とても好きです。

人の形になった。まっすぐに立つ、ひとりの人間の形に。

ふだんだったら、気味のわるさに悲鳴をあげていたと思う。飛びのいていたかもしれない。

でも、あたしはどちらもしなかった。

それどころか、となりにあらわれた人の形をしたものに、あたしは目をうばわれていた。

『黒魔女さんと秘密のサバト』p191

 ふだんの『黒魔女さん』は、チョコさんの目から見えたものをリアルタイムで読者に伝えている感じがします。でもこのシーンは、「あたしはどちらもしなかった」「あたしは目をうばわれていた」と、すこし引いた視点から自分自身を観察している気がするんですね。

このシーンのチョコは、大形くんを前にして、信じられない気持ちや嬉しい気持ちがまざって頭の中が真っ白になってたと思います。でもどこかではっきり目の前の事態を認識している部分もあって……というのが、この描写にあらわれているのではないかと思いました。

それからなんといっても暗御留燃阿の描かれ方がよかったです。元弟子の現状を知り、罪悪感で泣き崩れる暗御留燃阿。グラシュティグに「大形には彼の過去を作ったお前が必要だ」「改心を行動で表せ」と言われ、こくこくっとうなずきます。

ボロ泣きしてちょっと希望になるような言葉をかけられてこくこくうなずくというのは、どちらかといえば子どもっぽい行動で、ふだんの暗御留燃阿のイメージとは違うのですが、それが逆に罪の重さと無力さに打ちのめされるしかない感じが出ていて素晴らしかったです。こういうのを10年求めていたんですよ……。これから大形との関係もかなり掘り下げられるでしょうし、彼女の心情の揺れもさらに踏み込んで描かれると良いですね。

次巻はチョコ・ギュービッド・桃花・大形・暗御留燃阿の5人で「死者の世界」に行くそうです。おそらく京太郎関連の回収があるんだと思いますが、これまで「人は死んだら灰になってはいさようなら」という設定だった『黒魔女さん』で死者の世界がどのように描かれるのか楽しみです。

それから、グラシュティグの「ギュービッドが犠牲と屈辱を味わうかもしれない」という予言めいたセリフも気になります。今から発売が待ちきれないですね!

 

 

終わりに

暗御留燃阿オタとしては、推しがようやく大形問題に本格的に関わってくれて良かった……という気持ちです。

悪役時代に好きになったのもあって、私は彼女に真人間になって欲しいとか大形がかわいそうだから罰を受けて欲しいとか思ってるわけじゃないんですよ。改心した、良い人になったというのなら、そこに至るまでに何が起きてどのように心情が変化したのかを知りたいんです。

「すっかり許されてみんなとも仲直り」というのは物語の中の暗御留燃阿としては幸せかもしれないけど、わたしは悪役だったときの彼女も好きなので、そこからの変化の過程があまり描かれないというのは、暗御留燃阿自身が描かれない・キャラとして軽く扱われているのとおなじだと思ってしまうんです。

だから次巻は、大形との感情のやり取りがしっかり描かれて欲しいです。幼少期をうばわれ、人生をめちゃくちゃにされたことを簡単に許せるわけがないと思うので、大形には怒りやら悲しみやらをきちんと暗御留燃阿にぶつけて欲しいなと思っています。

次巻も楽しみです!

 

 

 

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