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青い鳥文庫『黒魔女さんが通る‼︎』 をだらだら語る  

【黒魔女さんが通る】黒魔女の騎士ギューバッド2巻を振り返る【ギューバッド編感想】

この記事の続き

 

krmjsnfan.hatenablog.jp

 

 第2巻あらすじ

サンタフスタ騎士団に入団し、国王軍を迎え撃つことになったギューバッドたち。メリュジーヌは早速、ビアヘロや騎士たちと一緒に、危険な「死招き池」まで食料をとりに行くことを命じられます。道中一休みしていると、近くの森からエグジリと名乗る老婆が現れ、「雪白カエル」という美味しいカエルをご馳走してくれることに。しかしそれは毒を持つ殺人カエル。知らずに食べたサンタフスタ騎士団のみんなは昏睡状態に陥ってしまいます。途方にくれるメリュジーヌの元にやってきたのはギューバッドとゴンサロ。黒騎士に囲まれ、観念したエグジリが語った話とは……

 

 

第2巻感想&みどころ

メリュジーヌ、ギューバッドとはなればなれに

気弱な性格で、学生時代はずっとギューバッドに守ってもらっていたメリュジーヌ。しかし今回、はじめて離れ離れになる機会がやってきます。

黒騎士叙任式を経て正式にサンタフスタ騎士団の一員となった二人。巨大な兵力を持つ国王軍に対抗するため、籠城戦を行うことにしたヴェルドレ団長は、ギューバッドに城門の警備を、メリュジーヌに食料集めを命じます。食料の調達池は「死招き池」。城からは丸1日かかる上に、騎士団ですらめったに足を踏み入れない、危険な場所です。

そんな所にメリュジーヌを向かわせることに大反対するギューバッド。「あたしが命をかけてるのは、メリュジーヌを守ることなんだよ!」と叫び、黒騎士のフレデラーとあやうく斬り合いになりかけます。まだ騎士団との信頼関係もできていないので当然といえば当然ですが、ちょっと過保護な気もします。メリュジーヌも「ギューバッド、助けて!」と相変わらずの他人頼り。

願いむなしく、ギューバッドなしで死招き池へ行くことになったメリュジーヌ。小隊長のフレデラーは見知らぬ黒魔女とビアヘロを快く思っていないようで、二人には特に厳しく接してきます。しかし同行していたちびっ子騎士、エルス&マリスは正反対で、メリュジーヌが魔女学校の話をしてあげると喜んだり、黒魔法にも興味津々だったり。悪霊の国には学校がないので、黒騎士といえどごく簡単な魔法しか使えないのです。好奇心旺盛な彼らは、のちのちメリュジーヌに教師としての最初の一歩を踏み出させることになります。

 

怪しげな老婆エグジリ

夜になり、野宿の準備をする一行。メリュジーヌも黒魔法で、焚き火を起こすのを手伝います。初めて目にする黒魔法に驚くマリス。フレデラーには内緒にするようにと、口に指を当てるp57のイラストかわいいです。ちょっと頼りになる面が出てきました。

戦闘食の粗末なアオガエルに文句をつける美食家のビアヘロ。ストイックなフレデラーはその図々しい態度を「ふん、また『男』の泣き言か」と蔑します。二人が険悪な雰囲気になりかけたとき、メリュジーヌは背後に何者かの気配を感じます。

そこにいたのはボロボロのマントをまとい、枯れ木を杖代わりにしたみずぼらしい老女、エグジリ。「老女」と書きましたが、初見ではみんなからおじいさんにまちがえられており、男女の区別も難しいほど年老いて、外見も荒れ放題なのがわかります。イラストでも、ぎょろりと見開いた目と長い爪がいかにも怪しげです。

魔剣を振りかざす騎士団をなだめた彼女は、自分は涙の国の出身であり、今は悪霊の国と涙の国との境にあるカンタレラの森に住んでいると話し、森の沼地に生息する貴重な「雪白カエル」を差し出します。不審に感じながらも食欲には勝てず、カエルを貪り食う一行。しかし、歩き続けて疲れ果てていたメリュジーヌは、一口も食べずに眠ってしまいました。

翌朝目覚めた彼女の目に飛び込んできたのは、死んだように眠り続けるフレデラーたちの姿。実は、昨晩食べた雪白カエルは強力な毒を持っており、口にすると丸一日昏睡状態になって死んでしまうのです。自らが盛った毒の被害者の様子を見に来たエグジリと鉢合わせになり、大ピンチに陥るメリュジーヌ。毒と同じ効き目のある黒魔法をかけられて殺されかけますが、すんでのところでギューバッドが駆けつけます。結構距離があるはずですが、頑張りましたね。

 

エグジリの過去

二人が悪霊の国の騎士ではなく火の国出身の黒魔女であると知ると、とたんに殺意を失うエグジリ。解毒剤を作りながら、騎士団を殺そうとした理由をポツリポツリと打ち明けてくれました。

50年以上前、6歳になるやんちゃ息子の母だったエグジリ。しかしある日、息子が悪霊の国の黒魔道士にさらわれてしまいます。 愛するわが子を奪われたエグジリは、すぐさま黒魔道士が姿を消したというカンタレラの森に飛び込みました。しかし森は想像以上に深く、道に迷ってしまったため、涙の国に戻ることも悪霊の国に向かうこともできないまま日々を過ごします。そのまま長い年月が経ち、既に息子を奪い返すことは諦めていたエグジリ。しかし、悪霊の国への恨みを忘れたわけではありませんでした。他国の子供をさらいに行くために森を通る黒魔道士を、雪白カエルで毒殺しはじめたのです。

彼女は『黒魔女さん』シリーズのキャラの中でもトップクラスに悲惨な過去の持ち主だと思います。とくに殺人にまで手を染めているところが取り返しのつかなさに拍車をかけていて痛ましいです。メリュジーヌたちは、魔法のコンパス「魔コンパス」を渡して涙の国に帰国させようとしますが、エグジリは拒否します。悪霊の国の内実や騎士団の秘密を聞いた今、悪いのはラムエルテ国王ただ一人とわかった、自分も騎士団に入って共に戦うというのです。

ヨボヨボ老女の突然の騎士宣言に戸惑う二人。しかし、ギューバッドの後を追ってやってきたゴンサロがそれを許可します。物陰にかくれて三人の話を聞いていた彼女は、エグジリたちの黒魔法の力が打倒ラムエルテに使えないかと考えたのです。

悪霊の国で魔力を持っているのは国王と黒魔道士だけ。あとはサンタフスタ騎士団ですらごく簡単な呪文しか使えません。悪霊の国が女嫌いなのは、黒魔女を排除することで黒魔法の力を独占するためではないかと推測したゴンサロ。もしサンタフスタ騎士団が黒魔術を使えるようになれば、ラムエルテに衝撃をあたえ、国王軍との無駄な戦いを避けられるかもしれないと語ります。穏やかながらも頭が回る人物です。

 

謎の墓石

かくしてエグジリを仲間に加えた騎士団は、ゴンサロ、ギュービッドと共に死招き池に向かいます。道中、メリュジーヌのために休憩を取ってくれるゴンサロが優しいです。彼女は騎士が小競り合いおこすと仲裁したり、メリュジーヌのことも最初から「さん」付けで呼んでくれるなど、他の黒騎士と比べても穏やかで気品のある人物です。

休憩中、ビアヘロから、死の国へ続く秘密の抜け道の情報を聞くギューバッド&メリュジーヌ。なんでも死招き池への道のりに粗末な小屋があり、そのなかに秘密の通路があるという伝説を聞いたそうです。信じられないというメリュジーヌに、「伝説っていうのは(略)話の内容はうそでも、かならず事実と結びついているんだよ」と語るギューバッド。このセリフ、オカルトっぽさを感じて好きです。

しばらくするとくだんの小屋らしき建物を発見する騎士団。しかし、その手前には「R・I・P」、つまり「Rest in Peace」と刻まれた墓石の群れがありました。死招き池付近に足を踏み入れる人はめったにいないはず。ですが、墓があるということは誰かがここにやってきたことを意味します。いったい誰が作ったのだろうと考えていると、墓石から霧が立ちのぼり始めます。

霧は死霊に変身し、次々と騎士団に襲いかかりました。わけがわからないまま、体を張って死霊たちに斬りかかるエルス・マリスやギューバッド。ちびっ子騎士たちは飛び上がって敵を斬り伏せたり、戦闘が体に染み付いてる感じ。ギューバッドは戦闘経験はないはずですが、それなりに戦えており、センスを感じます。このシーン躍動感があって好きです。

 

メリュジーヌ、先生になる

やっとのことで小屋にたどり着くも、扉は何者かの魔力で守られておりびくともしません。敵はすぐ背後まで迫っており、絶望的な状況に。しかし、メリュジーヌが苦肉の策として唱えた解錠呪文で扉が開き、一団は中に逃げ込みます。そのことで彼女を見直したのか、いままでずっとぶっきらぼうだったフレデラーの態度も少し軟化します。カンテラ魔法で指先に火を灯すメリュジーヌに、「いつまでもそのままじゃ熱いだろう」と火を移すための木の枝を差し出してくれたのです。無表情のまま松明をかざすフレデラー。しかしそれが彼女にとって精一杯の優しさの表現だと、メリュジーヌはわかっていました。不器用さが可愛いです。

小屋の片隅に井戸らしきものを発見するビアヘロたち。その中には梯子が降ろされていました。ひとまずそれを下り、死霊たちから逃げようと考える騎士団。エルス・マリスは、自分たちも明かり係として貢献したいから、カンテラ魔法を教えて欲しいとメリュジーヌに頼みます。

かくして、初めて「先生」として魔法を教えることになったメリュジーヌ。おでこから魔力を出すことに苦労する二人に「難しい問題を考えるときのことをイメージして」とアドバイスするなど、教え方も上手です。その様子を見たビアヘロは、「メリュジーヌ、おまえ、いい先生になりそうだな」と感心します。前巻ではギューバッドがいないと不安げでしたが、先生になると別人のように堂々としてますね。ちょっと今のメリュジーヌ校長の面影が見えてきます。

 

「R・I・P」の謎

梯子を下りた先はトンネルでした。 しばらく歩くと、かべに「R」の文字が描かれているのを発見します。墓石に刻まれていた「R・I・P」の「R」のことでないかと推測するエグジリ。文字の先の道は二股に分かれていますが、正しいルートを選べば「I」や「P」も現れ、順にたどっていけば出口に到達できると考えます。

脱出の希望を胸に意気揚々と先を急ぐギューバッドたち。しかしエグジリは、文字の下に描かれた絵が気になっていました。「R」の下には骸骨の絵が、続く「I」の下には瞳の絵が描かれているのです。しかも瞳の絵は目を閉じている状態でした。そのことから、「R・I・P」には「Rest in Peace」つまり「安らかに眠れ」以外の意味があるのではと感じるエグジリ。この直感の鋭さ、さすがベテラン黒魔女ですね。

ついに「P」の文字を見つけ出す一行。その下に描かれていたのはドクロをまいた蛇の絵。蛇は呪い、ドクロは死者の象徴です。つまりこの絵は、「呪われた死者」を意味します。「呪われた死者」は「Posedee」。エグジリは、「R・I・P」の「P」は「Posedee」の頭文字ではないかと考えます。そして「I」の下の閉じた瞳の絵は「見えない」つまり「Invisible」であることを表しており、「I」はその頭文字。「R」の下の歩く骸骨は「歩く死者」だととらえれば、「R」は「Revenant」の頭文字です。

それらをつなげると、「Revenant Invisible Posedee」。つまり「呪われし不可視の歩く死者」になります。これこそが「R・I・P」の真の意味。このネーミングめっちゃ不気味でかっこいいです。とっさに、先に進もうとするギューバッドたちを止めるエグジリですが、時すでに遅し。騎士団はまばゆい光に包まれ、気絶させられてしまったのでした。

 

魔妖精と悪霊の国

意識を取り戻した彼らが目にしたのは、大理石でできた真っ白な神殿と巨大な二つの女神像、そして、緑色の肌をした赤マントの男でした。のちにゴドフリという名が判明するこの男は、縛り上げられた騎士団たちに、彼らをとらえた理由や小屋の前で戦った死霊たちの正体について語ります。

ゴドフリたちはサポス族という魔妖精の一族。悪霊の国でつかわれている黒魔法は、もともと彼らのものでした。しかし666年前、サポス族の王宮だったここ、「呪われし不可視の歩く死者の神殿」に悪霊の国が攻め込み、サポス族を追い出しました。悪霊の国の目的は、涙の国まで張り巡らされた一族の地下通路と、透明マント的な効果がある秘宝「闇騎士の鎧」を奪うこと。そのことによって、安全にニーニョ・ネグロを確保できる仕組みを作ろうとしたのです。さらに悪霊の国は、異端審問でサポス族と周辺の魔妖精をほぼ絶滅させました。

しかし512年前、一族の生き残りたちは神殿を奪い返し、再び攻められないように迷宮を作り上げます。騎士団が小屋の前で戦った死霊たちは、神殿や闇騎士の鎧をもとめて派遣された悪霊の国の兵士の成れの果て。迷宮にはまって命を落とした彼らを呪いで死霊化し、新たに送り込まれた兵士と同士討ちをさせるのです。悪霊の国がしたことはひどいですが、サポス族もなかなかエグい罠を考えましたねぇ。

 

 メリュジーヌの覚醒

ですが、騎士団は小屋の扉の封印を解き、迷宮をくぐり抜けてしまいました。そんなことができるのは、彼らの中に未知の黒魔法の使い手、すなわち悪魔がいるからに違いないというゴトフリ。かつてサポス族への異端審問に使われた「呪いのスープ」の湯気を吸わせることで”悪魔”を炙り出そうとします。

ゴトフリは湯気の毒を避けるためにその場を去り、神殿には騎士団だけが残されます。死を待つばかりになったエルス・マリスに、せめて黒騎士としての誇りを胸に最期をむかえようと声をかけるフレデラー。その言葉を聞いたメリュジーヌは思わずブチ切れます。

黒騎士の厳しい訓練に耐えてきたサンタフスタ騎士団。ラムエルテを倒すために今日まで頑張ってきたはずなのに、ここで死を受け入れていいのかと叱咤激励します。「どんな小さなことでもいいから、自分になにができるのか、考えなさい!」と叫ぶメリュジーヌ。誰かに頼ってばかりだった一巻とはえらい違いです。守らなくてはいけない生徒ができたことで少し強くなったようです。

その発言を受けて、ゴンサロはギューバッドとメリュジーヌの黒魔法を利用する方法を提案しました。悪霊の国の黒魔法は火の国のそれには効かないはず。だから、二人が瞬間移動魔法を唱えて神殿の外に出ることはできるはずです。

ゴンサロの言う通り、神殿から脱出する二人。呪いのスープが入っている大鍋を遠ざけ、少しでも時間を稼ごうとしますが、スープの毒が充満するまでに残された時間はあとわずか。もうダメかと思われた時、神殿から黒騎士たちが次々に飛び出してきました。

驚く二人に事情を説明してくれるエルス・マリス。彼らを助けたのは、メリュジーヌが教えた「カンテラ魔法」でした。指先に灯した火で自らを縛っていた縄を焼き、逃げ出したというのです。「すっごく、えらいわ! 先生の何百倍も、えらい!」とふたりの無事を喜ぶメリュジーヌ。もうすっかり教師の顔ですねぇ。

 

 いよいよラムエルテの元へ

神殿に戻ってきたゴドフリたちは、呪いのスープで殺したはずのサンタフスタ騎士団が無事なのを見て驚愕します。騎士団は全員女であること、今はラムエルテを倒すために篭城作戦の準備をしていることを語るゴンサロ。事情を飲み込んだゴドフリは、512年前、悪霊の国から王宮を取りもどした時のことを話してくれます。

王宮が悪霊の国の手にあった期間に、黒魔道士たちは王宮のなかに「魔戸」というどこでもドア的な扉を作っていました。すでに封印されていますが、今でも迷宮の奥にあるそうです。さらに奪還の際、黒魔道士たちは歴代のニーニョ・ネグロの記録も王宮に置き去りにしました。そこには連れ去られた子供の頭髪も共に保管されています。それを使って、ラムエルテ国王に拘束魔法をかけられないかと考える一行。その時、ニーニョ・ネグロの記録を読み込んでいたエグジリが「自分がラムエルテを説得する」と言い出します。急な発言に戸惑うギューバッドたち。あわてて記録を覗き込むと、そこには「即位名 ラムエルテ 母 エグジリ」と書いてあったのです……。このシーンのエグジリは、ギューバッドをもビビらせるような気迫があります。緑の瞳が光るのも覚悟が決まった感があって最高です!

 

 

全体を通して

 本編では優しくも厳しい校長先生として生徒たちから慕われたり恐れられたりしているメリュジーヌ。第2巻は、彼女の教師としての最初の一歩を知ることができる感でした。そのほかにもエグジリ、ゴドフリなどの濃いキャラも登場し、さらに悪霊の国の歴史なども絡んできて非常に内容が濃いです。
 
 
 
次巻の感想はこちら

【黒魔女さんが通る】『黒魔女の騎士ギューバッド』1巻を振り返る【ギューバッド編】

『黒魔女の騎士ギューバッド』とは

 ギュービッドの大叔母さん・ギューバッドと、火の国王立魔女学校校長・メリュジーヌの魔女学校時代のお話です! 

ギュービッドそっくりの問題児・ギューバッドと、今の姿からは想像がつかないぐらい気弱なメリュジーヌが、悪霊の国の王位継承問題に巻き込まれ大冒険します。

超王道ファンタジーでオカルト要素が大爆発。本編の魔界編でもオカルトモチーフがたくさん出てきますが、ギューバッド編はそれをさらに煮詰めた感じ。本編や桃花編に比べると読者キャラも少なく、その分石崎先生のこだわりをビシバシ感じられます。なので『黒魔女さんが通る‼︎』を本質の本質まで理解しようと思ったら絶対に避けては通れないお話です‼︎

 

 

第1巻あらすじ

卒業を5日後に控えた王立魔女学校。最後の外出日を楽しみにしていた生徒たちの元に、悪霊の国の黒魔道師が火の国に侵入したという報告がはいります。悪霊の国は霧に包まれた謎の国。国王の代がわりごとに他国に黒魔道師を派遣して、国王候補の男の子を誘拐していくといううわさがあり、とても恐れられています。当然外出禁止になる魔女学校。しかしギューバッドは、ルームメイトのメリュジーヌを連れて街へ遊びに行きます。

街で怪しげな旅人に絡まれていた男の子を助けた二人。逆に不審者と間違えられ、魔界警察に捕らえられてしまいます。なんとか牢獄から脱出しようとするギューバッドたちの元に現れたのは、同じく捕らえられていた先ほどの怪しげな旅人・ビアヘロ。彼の助言に従って外に出た二人は、思いもよらぬ人物に出会い……。

 

 

第1巻の感想・みどころ

本編で出てきたキャラの昔の姿が楽しめる

外伝の大きな魅力の一つは、本編で登場したキャラが違った角度から描かれること。『黒魔女の騎士ギューバッド』では、ギューバッドとメリュジーヌが深く掘り下げられます。

今では涙の国の女王になっているギューバッド。その物怖じしない性格は昔から変わっていないようです。しかもただのかみつき野郎ではなく、「黒魔道師がうろついていて危ないので外に出るな」という王立魔女学校のデスカ先生に対して、「自分たちはあと五日で卒業するんだから、実質一人前の黒魔女だ。そして一人前の黒魔女は黒騎士をとらえるために街中探し回っている。だから自分たちが宿舎に閉じこもっているのはおかしい」と、理路整然と意見を主張できるだけのクレバーさも持っていました。すでに一国の女王の素質があります。

街で魔界警察に捕らえられ、投獄される二人。そこには同じく黒魔道士の疑いをかけられていた旅人・ビアヘロがいました。彼は、メリュジーヌの魔妖精の力を利用した脱獄計画を提案します。

魔妖精とは魔物の一種。普段は人の姿をしているものの、週に一度蛇に変身しなくてはならず、変身時の姿は誰にも見せてはいけないと決められています。計画を聞いてパニックになるメリュジーヌを落ち着かせて代わりに反論し、一人で逃げさせようとするギューバッド。彼女は、出自をコンプレックスに感じているメリュジーヌを3年間をずっとかばい続けてきたのでした。ギュービッドもそうですが、この家系は守らなくてはいけない存在がいると本領を発揮するタイプのようです。

反論を遮り、「いつもギューバッドに助けてもらってる。そう自覚してるんなら、一度ぐらい、助ける側にまわってみたらどうだ」とメリュジーヌに決断を迫るビアヘロ。彼はその名の通り、自由気ままに生きる”旅人”で、現実主義で合理的な考え方の持ち主。キャラクターデザインのクールで大人っぽい感じが好みです。『黒魔女さんのホワイトデー』にも子孫が出てきましたね。

その言葉に背中を押されたメリュジーヌは、蛇の姿で外に出る決心をします。このシーン、精神的にも脱皮してる感があって好きです。その根底にあるのがギューバッドとの友情というのもいいですねぇ。友情や師弟愛が登場人物の成長を促すのは、『黒魔女さん』シリーズに共通して言えることです。

 

魔酔いの森と貯庫霊都

そのおかげで無事牢獄を脱出した三人。ギューバッドたち二人は「魔酔いの森」に迷い込み、住人の火魔人に助けられます。彼はPart0でもギュービッドたちを助けてくれましたね。

「魔酔いの森」には黒魔女「デスカ」に関わる伝説があります。昔、悪霊の国から攻められそうになった森を、彼女が守ったというものです。Part0ではこの「デスカ」はメリュジーヌたちの担任のデスカ先生のことと説明されていましたが、今巻では先生の祖先ということになっています。これは今後の伏線でしょうか。気になります。

それから、このお話で重要な働きをしていたのが魔界グッズの貯庫霊都。食べると性別が変わるチョコレートで、物語冒頭、ギューバッドたちが幼き日の魔娑死にもらったものです。彼は本編でもオモテダケ(=占い師)として活躍していますが、この頃から才能はピカイチだったようで、二人の冒険も、『黒魔女さんのクリスマス』で再会することも全てお見通しでした。貯庫霊都をくれたのも、それが二人を助けるのがわかっていたからでしょう。とんでもない千里眼です。

 

悪霊の国のなぞ

濃い霧に包まれた謎の国、悪霊の国。なぜか代々女ぎらいで、女性は殺されてしまうため、国内には男性しかいません。子供が生まれないので、他国から「ニーニョ・ネグロ」と呼ばれる、国王になれる見込みのありそうな男子をさらってきて即位させます。ギューバッドは貯庫霊都を食べていたので一時的に男子になっており、ニーニョ・ネグロと間違われます。結局元の姿に戻れたものの、逆に女なのに悪霊の国に侵入した罪に問われます。

悪霊の国の国王・ラムエルテの前に引っ立てられるギューバッド・メリュジーヌと、二人を追って捕まえられていたビアヘロ。ラムエルテは小さな老人で、部下の言葉も信用しない、疑り深い人物です。メリュジーヌたちを捕らえた腹心のサンタフスタ騎士団についても、「魔界最強の騎士団などと、えらそうなことをいっているが、どうだかな」と軽んじている様子。

彼はバリバリの悪役ですが、ところどころ人間味を感じるところがあって好きです。たとえば、部下にはちょっとしたことで声を荒げる反面、ギューバッドたちの話はバカにしつつも最後まで聞いてくれたりとか。

貯庫霊都を食べたせいで女性の姿になってしまったが、本来は男だとデタラメの主張をするギューバッド。死刑になりかけてるのにえらい肝の座りっぷりです。結局、ラムエルテが行ったタロット占い「タロット・ディモニオ」の結果、三人は高い塔に閉じ込められることになります。占いによって政治を行うというのもあやしげでいいですねぇ。

 

サンタフスタ騎士団

 なんとか塔から逃げだした三人。しかし今度はサンタフスタ騎士団にとらえられ、騎士団の本部・ポンフェラーダ城に連れて行かれます。再び蛇に化け、脱出の手がかりをさがすメリュジーヌ。城の内部を探索していると、とんでもないものを目撃します。

たまたま見つけた部屋に潜り込んだメリュジーヌ。そこにいたのは、サンタフスタ騎士団団長のヴェルドレ・デ・インフィエルノ。彼はなぜか、国王にしか許されていないはずの「タロット・ディモニオ」をしていました。さらに部屋の壁一面に飾られていた歴代団長の肖像画を見て、メリュジーヌはある違和感を覚えます。

前述した通り、悪霊の国には男性しかおらず、女性は殺されてしまいます。しかし肖像画に描かれているのはどう見ても少女……。胸騒ぎは、子供の騎士たちの訓練に遭遇した時確信に変わります。彼らのひとりが、「サンタフスタ騎士団は女の自分をかくまって育ててくれた」と発言したのです。

そう、サンタフスタ騎士団は実は全員女性。まちがって悪霊の国に連れてこられた女の子を、男性の騎士として育て上げたのが騎士団の真の姿なのです。この設定、非常にこだわりを感じられて素晴らしいですね。団員がみな強く、騎士としての誇りを持っているのもかっこいいです。

秘密を知られたことを悟ったヴェルドレたちは、歴代の団長もひそかに「タロット・ディモニオ」を使ってきたこと、それらの事実がラムエルテにばれたので、近々国王軍と騎士団の武力衝突が起こるであろうことを明かします。国王軍との対決は兵力差的に不利だが、自分が行った「タロット・ディモニオ」の結果、ギューバッドたちの存在が騎士団にとって吉兆と出たと語るヴェルドレ。黒魔女の騎士として共に戦おうと持ちかけます。

団長は「食べて、変えよう、あなたの人生! 男の子は女の子に! 女の子は男の子に!」と、貯庫霊都の包み紙に印刷されているキャッチコピーを読み上げ、「いまこそ、人生を変えるのだ! 黒魔女の騎士として!」とふたりを鼓舞します。性別を変える貯庫霊都。それを食べたことが、ギューバッドたちが悪霊の国に迷い込む遠因となりました。そして今、サンタフスタ騎士団の一員になり、ある意味もう一度男女の差を超えることで国王と戦おうとする二人。まさに「女の子は男の子に」なって「人生を変える」冒険が始まろうとしているのでした。

 

 

全体を通して

まだ一巻だというのに、とんでもなく内容が濃いです。まとめるのにめちゃくちゃ時間かかりました。

わたしの思い込みかもしれませんが、『黒魔女の騎士ギューバッド』は登場人物全員に石崎先生の美意識やこだわりが込められている気がします。サンタフスタ騎士団のヴェルドレやゴンサロはもちろんのこと、ギューバッドの不敵で切れ者の感じとか、ビアヘロの時には冷酷なまでに合理主義な性格とか。『黒魔女さん』の一番濃い部分がつまっている外伝だと思います。

 

 

 

次巻はこちら

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【6-1黒魔女さんが通る】大形京太郎とは何者なのか&今後の展開【07巻感想】

一応、『黒魔女さんと悪魔の証明』の感想記事です。

前回のはこちら。

 

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*これは2019年6月の時点の考察です。最新刊(6−1黒魔女さんが通る‼︎10巻)を読んでの考察はこちら↓

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前巻に引き続き意味深な巻

 

前巻、『黒魔女さんの夏休み』の3話で大形の亡き祖父、大形京太郎が登場しました。そして今巻は彼自身は登場しなかったものの、いろんな伏線が張り巡らされた巻だった。なのでそのことについて書きます。

  

大形京太郎の正体

 生前の京太郎はどんな人物? 

京太郎の正体を考える上でヒントになると思うのは、大形(孫)が「幽絶ち」を知っていたという点です。

幽絶ちは「大むかし、日本のオカルト現象をもとに、魔界の黒魔女が編み出した」(『夏休み』p89)モノ。私はこの、幽絶ちを編み出した黒魔女こそが京太郎じゃないかと思うのです。

ギュービッド曰く、この呪文は魔女学校ですら教えないほどレトロだそうな。それをなぜ大形が知っているのかといえば、考案者から直接習ったと考えるのが自然だと思います。多分、孫が悪い魔力に襲われたときのために、護身術として伝えたものなんじゃないかと。霧とか出るし。

そう考えると、生前の京太郎はかなり強力な魔法使いだったと言えそうです。幽絶ちのような威力の強い呪文を生み出したわけですから。そして幽絶ちは「魔界の」黒魔女が編み出したので、呪文を作った時点ではまだ魔界に住んでいたことがわかります。

思うに、京太郎はティカのように魔界を追放されたのではないでしょうか。そして追放の理由は「黒魔法以外の魔法を使ったから」だと思う。『夏休み』で迦楼羅を通して伝言してきましたが、もし生前から二人に交流があったとすれば、黒魔法使いでありながら陰陽道、いわば白魔術にも手を出してたことになりますから。

 

京太郎の復活について

京太郎はチョコが唱えた真言で復活した。この真言は「烏枢沙摩明王の真言」だそうで、悪い魔力や他人の呪いを跳ね返す力があるとのこと。

10巻で、「魔力を持った子供は悪い黒魔女や黒魔法使いにとりつかれやすい」と書いてありました。だからこそティカはあらゆる手段を講じてチョコを守ってきた。

京太郎とて、気持ちは一緒だったと思います。7年前に亡くなったそうですが、死後も幼い孫を守りたいと思ったんじゃないかな。

根拠は皆無なんですが、そのために取ろうとした行動こそが「幽霊になって京を見守る」ことなのではないかと思うんです。「人は死んだら灰になってはいさようなら」とか言ってますが、今巻と前巻の内容的にそれは嘘。死者の復活なんて許したら魔界が大混乱するから、「死んだら終わり」ということにしてるだけだと思います。京太郎は超強力な魔法使いなのでそれに気づいてた。それでいざとなったら復活できるように準備をしたのだと思います。

ところが、誰かの妨害(呪い)によってそれが妨げられた。なので暗御留燃阿と孫が契約を結ぶのを止められなかった。しかし『悪魔の証明』で、「他人の呪いを跳ね返す力のある」烏枢沙摩明王の真言を唱えられたことでようやく復活できた、ということなのかなと思いました!

そしてこれは完全な勘ですが、復活を妨害したのってきみえじゃないかな〜

 

 

『悪魔の証明』で白大形になってたのはなぜ?

『黒魔女さんの悪魔の証明』第3話にて、ぬいぐるみつけなくてもホワイト大形になってるという事態が起きました。

大形ファンに怒られそうですが、私はちょっと戸惑いました。前巻まで悪役っぽい感じだったのに、随分唐突な改心だなと。

ですが最近、「白大形になったのは記憶の一部が消えたからでは……?」と思っています。

『夏休み』でチョコたちの元に現れた時、京太郎が言ったことは3点。

①京がこんな風になったのはわしの魔力を受け継いだせい

②京を癒せるのはわしだけ

③恨みの気持ちを消してあげる

①はまあわかる。②もまあそうでしょうねという感じ。問題は③なんです。

恨みの気持ちを直接植え付けたのは京太郎じゃなくて暗御留燃阿ですよね? 魔力を受け継いだのはきっかけにすぎない。それなのに、京太郎が「うらみの気持ちを消してあげる」って無理な話じゃないですか?

もしそれができるとすれば暗御留燃阿の弟子だった頃の記憶を消すしかない。なので、大形京は記憶の一部を失ったのでは? と思ったわけです。

でもそれで「大形くん、優しい子に戻ったね! おめでとう!」ってなるわけないから、多分もう一悶着ある。だって主人公関わってないからね! 無印3巻からずっと引っ張ってきた大形問題が、主人公不在のまま前巻急に出てきた老人によって解決とか無理があるし。

 

 

その他 

以前、こんな記事を書きました。

 

krmjsnfan.hatenablog.jp

 

要は「京太郎の正体わからん、今後の展開わからん、でも推し(暗御留燃阿)には関わってほしい」という内容が無いよう状態の記事だったんですが、いままでの記事の中だとダントツで読んでいただけたみたいです。ありがとうございました。そしてこんなスッカスカの記事で貴重なお時間を使ってしまい、ごめんなさい。

今回はこれを修正するつもりも込めて書きました。なので前回の記事は多分あと少ししたら消します。

読んでいただいてありがとうございました。

 

 

 

 

次巻の記事はこちら 

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【6-1黒魔女さんが通る】『黒魔女さんの夏休み』を振り返る【感想】

この続き。

 

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大形くんによるプロローグ

今巻はなんと、大形くんの一人称プロローグからスタートします!

前巻「黒魔女さんの修学旅行」で魔力封印のぬいぐるみを外すことに成功した大形くん。「夢の書」にうつった6-1の楽しげな光景をながめながら、「魔力が封印されなければ、こんなに愉快な生活を送っていたはずなのに」と悲しみます。

生まれつき魔力があった大形くん。幼稚園児のころ、暗御留燃阿に弟子にさせられるも、予想外に魔力が強いとわかると魔力を封印され、無印3巻でチョコにぬいぐるみを外されるまで意識がない状態で生きてきたのでした。だからこそ、魔界への復讐に燃える邪悪な魔法使いになってしまったのです。

大形「ぼくをこんなひどいめにあわせた暗御留燃阿は、魔界の黒魔女しつけ協会から罰を受けた。でも、それだけ。それどころか、魔力が強すぎるモンスターみたいに、ぼくをあつかうようになった。 ゆるせない! ぼくは被害者なのに!」『黒魔女さんの夏休み』p8

キタ――(゚∀゚)――― !!

大形問題に暗御留燃阿が関わるフラグキタ―――‼︎

前述した事情からわかるように、大形くんが恐怖の魔法使いになったのは100%暗御留燃阿のせい。なので大形も彼女に対しては特に強い恨みを持っています。無印4巻でコントロール魔法をかけてシンデレラの継母役をやらせた上、ヤギの姿にまでしたことからも、その憎しみのほどが伝わってきます。

ですが12巻ラストで暗御留燃阿はグラシュティグ会長に命じられ、チョコたちの仲間になります。だからと言ってこの二人のわだかまりは全く解消していないはずなんですが、それ以降、大形が妙に大人しかったんですよ。ぬいぐるみは何度も外れているのに暗御留燃阿の暗の字も出さないし、近くにいることはわかっているはずなのに復讐にもいかない。けど依然として魔界への恨みはあるらしい……。これはどういうことなのかなと、暗御留燃阿ヲタとしては思っていたわけです。

ところが今回、大形くんは改めて暗御留燃阿への恨みの気持ちを口にしました。発売日前の「ためし読み」の時点でこのプロローグは全部読むことができたのですが、その時からいい予感がしましたね。

 

第1話について

あらすじ

8月の全校登校日の朝、「ホンネ聞き取り魔法」の修行に苦戦するチョコ。しかし 、6-1の教室に着くと、呪文を唱えなくてもみんなの心の声が聞こえるようになります。

6-1では、町内会の夏祭りに何をやるかという議題で話し合いが行われています。いくつか意見が出たものの、最終的には大形(分身)が提案した肝試し大会をやることになります。

帰宅後、「肝試し委員長」に任命されたチョコに、ギュービッド・桃花・暗御留燃阿が相談に乗ってくれます。そこでの3人の様子に違和感を覚えるチョコ。そして5日後、肝試し大会本番に現れたのは、意外な人物で……。

 

暗御留燃阿の出番が多くて嬉しかった

暗御留燃阿は18巻から7巻ぶりの登場。しかも今回は13巻以降登場するたびに出てきた「暗御留燃阿さん、本当に優しい黒魔女さんになりましたね」という選挙カーのようにしつこいヨイショもなく、非常に読みやすかったです。

チョコの部屋でランチミーティングを開くギューチョコ桃花&暗御留燃阿。なんと暗御留燃阿がお昼ごはんをつくってくれます! 中学生男子のような勢いで料理にがっつくギュービッド、暗ギュー的に萌えました。p53の「そんな化け物になること、わたしの美的センスがゆるさないわ!」というセリフも、悪役時代の高飛車な感じがあって好きです。こういう暗御留燃阿がいいんだよ。

挿絵は亜沙美先生ですが、p43の暗御留燃阿は3巻か6巻を参考に描かれたのでしょうか。胸元のペンダントはそれ以外の巻ではつけてないし。やったぜ的には3巻の初登場時のイラストが超絶美人で好みです。

 

大形くんのセリフがとてもよい

肝試し当日、チョコ&6-1を魔界に連れて行こうとする大形くん。すかさず止めに入り、ぬいぐるみをつけようとするギュービッドたちですが、見たことも聞いたこともない呪文を唱えられ、魔界に逃げられてしまいます。

人間界から去る直前、ホンネ聞き取り魔法でチョコに気持ちを伝える大形くん。「ひとりぼっちはさびしいよ。やさしい黒鳥さんに、そばにいてほしいんだ」と言い残します。いつも魔界への憎しみを語っている大形くんが、繊細な子どもの一面を自らあらわにしたことにグッときましたね。プロローグもそうですが、今巻は強がりや怒りの裏にある彼の傷つきやすさや年相応な部分が見え隠れしていたのが良かったです。

それに比べて我が推しはさぁ……。

「いいえ、あなた(大形)は魔物よ。」って……。そのセリフを一番言っちゃいけない人が一番言っちゃいけない相手に向かって……。

無印18巻の桃花への発言もそうですが、改心後の暗御留燃阿は「いい人になった」という設定のわりにそれに反するような言動をけっこうしているので、結局どんなキャラなのかいまだによくわからないです。

まじでなんでこのセリフ言わせたんだろう。いくらなんでもあんまりな発言なので、何か考えがあってのことだと思いたい。

とはいえ、暗御留燃阿が大形問題についての責任を認めたのはうれしかったです。ここ↓に書いた問題が一つ解消されかかってるような気がして。

 

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それから、大形と暗御留燃阿の会話(?)シーンが描かれましたね。実は、この二人の会話が描かれるのはシリーズ全体を通しても初めてです。これが最初で最後じゃありませんように。

 

 

第2話

あらすじ

桃花ちゃん、東海寺家とともに麻倉家のお盆バカンスについていく羽目になったチョコ。良太郎&阿修羅に加え、個性豊かな家族たちもチョコ争奪戦に加わりヘトヘトになります。

麻倉家の別荘付近の海で泳いでいると、塊水浴という死霊の群れに襲われかけるチョコ。さらに夜になると、寝室のドアがノックされるような音がします。チョコ&桃花が音をたどっていくと、謎の階段を発見します。そこで二人の目に入ってきたのは、信じがたい光景で……。

 

「人は死んだら灰になってはいさようなら」って本当?

シリーズ開始以来、一貫して幽霊の存在を否定し続けてきた黒魔女さん。ところが今回、それを覆すような出来事が起こります。東海寺阿修羅の亡き祖父、迦楼羅が現れたのです。彼はチョコに重大な問題が降りかかっているはずだと話し、烏枢沙摩明王の真言を教えてくれました。

迦楼羅は魔力を持っていますが、生前は黒魔女ではなく、陰陽師として活躍していました。無印2巻のギュービッドによれば、陰陽師の霊力は白魔術にあたり、黒魔術と対立します。

迦楼羅の言う「重大な問題」とは前後の文脈的に大形問題のことと考えていいと思います。そして第3話では教わった真言を唱えた結果、大形の亡き祖父・京太郎が復活しました。彼らは故人です。つまり、黒魔術の世界ではナシだった幽霊の存在が、白魔術ではアリということになります。

「幽霊は存在する」というだけでも衝撃ですが、それが大形問題に関わるとなるともう目がはなせないですね。

 

まさかのご先祖さま登場

チョコをめぐってあらそう麻倉&東海寺。今回はなんと彼らの祖先、豪太郎&迦楼羅が登場します。実はこの二人、若おかとのコラボ作品ではすでに登場しているのですが、本編にまで登場してくるとは思わなかったのでびっくりしました。しかも若い頃には一緒に命がけの旅をした仲なんだとか。迦楼羅は石崎先生もお気に入りらしいので、外伝への期待も高まります。

それにしても、麻倉&東海寺のキャラがまさかこういった形で深まるとは思ってもみなかったです。本人たちは対立してるけど祖先はともに大きなことを成し遂げた仲だなんて、少年漫画の主人公とライバルみたいな関係じゃないですか。

 

 

第3話

あらすじ 

お盆の衝撃的な出来事から終日後。迦楼羅が唱えた呪文を練習するチョコ。メグに誘われ、「ホソカワ」に自由研究の材料を買いに行きます。

すると、客の中に魔界の住人らしき二人組を発見します。彼女たちから、8月31日に二級黒魔女昇格の認定式が開かれること、そのときまでに魔界グッズを創作し、持参しなくてはいけないことを聞いたチョコ。ギュービッド・桃花と協力し、なんとかグッズを作り上げます。

そして迎えた31日。認定式の最中に現れ、チョコを魔界に連れ去ろうとする大形。とっさに迦楼羅に教わった呪文を唱えると……。

 

創作魔界グッズはまたどっかで使いそう

二級黒魔女昇格の認定式に持って行く呪苦題をつくるギューチョコ桃花。桃花ちゃんが作ったのは「愛スクリーム」にリップを混ぜた「利ップ」。気になっている人が唇に塗ると、自分のことを好きになってくれるというアイテム。でも桃花ちゃんの片思いの相手の草太郎くんは、リップクリームとか使わなそうですね。

ギュービッドの「ウエッとティッシュ」は、普通のウエットティッシュにダンゴムシのフンやらどぶ水やらを染み込ませたもの。これで大形の顔を拭いてゲロをはかせたすきにぬいぐるみをかぶせるというストレートすぎる作戦に笑いました。

最終的に完成したのは「好感メモ蝶ふせん」。一見ただのふせんですが、これにメモを書いて飛ばすとお互いのいいところが伝わり合うというスグレモノ。これは「黒魔女さんと悪魔の証明」にて、迦楼羅とのやりとりに使われましたが、私はもう一度使われてもおかしくないなと思っています。おそらく、大形を完全改心させる時にまた出てくるんじゃないかと。

 

京太郎が謎すぎる

前巻に引きつづき、今巻も衝撃的なオチでした。烏枢沙摩明王の真言によって大形の亡き祖父・京太郎が復活し、孫の魔力は自分譲りだと告白したのです。

これを読んだ時本当にびっくりしました。なんたって大形問題に超重要そうな人物が登場する&大形の魔力の由来明らかになる&幽霊ネタのトリプルコンボですから。この問題を本格的に解決に向かわせようという気合いを感じました。 

ちょっと不安なのはこの話以降大形がいい人になったみたいな描写が続いていることです。なんでいい人になったのかはちゃんと掘り下げてほしいし、京太郎が物語的に美味しいところを全部持って行くみたいな展開にはなってほしくないなと思ってます。まあ心配することでもないでしょうが。

 

 

イラストが亜沙美先生に

これまで黒魔女さんシリーズのイラストを担当していらっしゃった藤田香先生が亡くなり、若おかの亜沙美先生がその役目を引き継がれました。

令丈先生のtwitterで訃報を知った時は本当にショックだった。数巻前から体調がすぐれないということでしたが、まさかこんなことになるなんて。黒魔女さんは藤田先生のイラストで最後まで読めると、当たり前のように思ってました。

私が黒魔女さん読み始めたのって、無印1巻の表紙のメグに一目惚れしたからなんですよ。特に初期は線が太めでちょっとゴツゴツしてる感じで、それが『黒魔女さん』の雰囲気にすごく合ってた。かわいいけどかわいいだけではない絵で、『黒魔女さん』も一筋縄ではいかない児童書だから、ベストパートナーすぎる!と思いました。

今巻から亜沙美先生がイラストを担当されてますが、亜沙美先生っぽさがありつつ、黒魔女さんワールドらしくもある絵で、「プロってすげぇな……」と思いました。石崎先生も亜沙美先生も、体に気をつけて頑張っていただきたいです。

そして藤田先生、こんなに素晴らしい黒魔女さんワールドを作ってくださって、本当に本当にありがとうございました。

 

 

 

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【6-1黒魔女さんが通る】『黒魔女さんの修学旅行』を振り返る【感想】

この続き。

 

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あらすじ

今巻は「白雪姫」をベースに物語が進んでいきます!

修学旅行に向かうバスの中でうっかり呪文を唱え、魔界へ来てしまったチョコ。しかもたどり着いたのは黒魔女さん2級認定テストの会場、セゴビア城! 自分が進級できなければギュービッドがインストラクターをクビになってしまうことを知ったチョコは、ロリポップココアの魔力増強お菓子を食べてテストに備える。ところがそれが城の主、理夫人の怒りを買ってしまい、殺されそうになるチョコ。しかしお城の番人が矢を放とうとしたまさにその瞬間、大形くんが現れ、チョコを助けてくれる。森に逃げ込んだチョコを待ち受けていたものとは……

 

ギュービッドとチョコ

今巻はギュービッドとチョコの師弟愛が『黒魔女さんのハロウィーン』並に丁寧に描かれたと思います。ある意味初期っぽいような。

一番衝撃だったのは、チョコがギュービッドに「あたしが修行をやめると同時にギュービッド様が魔界を追放されれば、二人はずっと一緒にいられる」と言ったことですね。自分が二級試験に合格できるか、ギュービッドがインストラクター免許試験を突破できるか不安なチョコ。もしどちらかが失敗した場合は、師弟関係が解消になってしまいます。そんなとき思い出したのは祖母・ティカの過去。ティカは魔界を追放されることで、人間の恋人・伊蔵と人生を共にすることができました。ギュービッドが魔界追放になれば、たとえ試験が不合格でも、祖母たちのようにいっしょにいつづけることができると考えたわけです。

わりと冷静な状態でこの発言をするから一層、チョコさんにとってのギュービッドの存在の重さというのがずしりと感じられました。物語冒頭で大形に試験に落ちたら師弟関係解消だと伝えられた時も、「そりゃあね、あたしの目標は、一日も早く黒魔女修行をおえて、ふつうの女の子にもどるだったよ。(略)でも、いいの! それより、ギュービッドといっしょにいることのほうが、ずっと、ずっと、ずっと、だいじなことなんだよ!」と言ってます。無印1巻では「この黒魔女、早く魔界に帰ってくれないかな」みたいな発言がなんどもありましたけど、いまはそれよりも、黒魔女として魔力を高めることよりも、「ギュービッドといっしょにいる」ことがチョコさんの最大の望みなんだなぁ……。

それを聞いたギュービッドは、「あたしはお前をそんな意気地なしに育てた覚えはない」とさとし、必ず二級にうかれと激励します。今まで幾度もいっしょにピンチを乗り越え、チョコの言葉が心からのものであることはわかっているはずのギュービッド。その思いを受け止めた上で、師匠として弟子を導こうとする姿、最強にかっこよかったです。もしかしたら師弟関係が終わってしまうかもしれない状況で美しい師弟愛を見せられるとグッときますね。

やっぱり、『黒魔女さんが通る‼︎』の根幹にあるのは、黒鳥千代子とギュービッドの絆なんですよねぇ。この二人の関係なくして『黒魔女さん』はありえないんですわ。

 

 

 

大形くんついに本気出す

5巻3話以降、長らく停滞気味だった印象のある大形問題。一応、12巻や16巻でぬいぐるみを外したりしてるんですが、毎回チョコたちがぬいぐるみをかぶせて一件落着☆みたいなオチで、あんまり大きな進展はなかったのかな〜と感じます。

ですが今巻はまさかのぬいぐるみ再装着なし。燃やしちゃったし。初めてこのラストシーン読んだ時は相当テンション上がりました。

今回の大形の何が素晴らしいって、読者をも裏切ってきたことですね。彼は最初、殺されそうになったチョコを助けにきます。そこで、ギュービッドがインストラクター免許取得の試験を受けること、それに落ちたらインストラクター黒魔女を失格になること、チョコはしばらく身を隠していたほうがいいことを伝えます。

このシーンで大形くんは理夫人の部下の攻撃から身を挺してチョコを守り(イラストも最高)、なぜそこまでしてくれるのか尋ねられると「仲間だねぇ。放っておけないねぇ」「守ってあげたいねぇ」と答えます。大形の口から出た「仲間」「守ってあげたい」という言葉や、チョコを守る姿に心を動かされた読者は私だけではなかったはずです。この二人は作中でカップリング的な描かれ方をすることも多いのでなおさらです。

その後も王子様姿でエレガントにチョコをエスコートしたり、励ましたりしてかっこよさを全開にする大形くん。しかし、その裏には別の計画がありました。実は、セゴビア城を受験会場に指定したのも、理夫人がチョコを殺すように仕向けたのも、「いくじ梨」を食べたチョコを試験中のギュービッドが助けたのも、すべて大形くんが仕組んだ計画。そのようにして、ピンチに陥ったチョコを白雪姫の王子様よろしく助け、試験時間が足りなくなったギュービッドが免許取得に失敗してインストラクターを外されることこそが、彼の望みだったのです。

大形くんはこれまでなんどもぬいぐるみを外しては魔界征服をたくらんできましたが、今回の計画は今までのなかでもピカイチに面白かったです。なぜなら、今まで読んできた物語全体が大形の計画通りに進んでいたことになるからです。チョコを助けたりする姿を見て「大形くん王子様みたいでかっこいい♡」と思う読者も、彼の掌の上で転がされていただけにすぎなかったとも言えます。本当に天才だと思う。今巻の大形くんは今までで一番悪役っぽかったです。ちゃんと悪役してくれる悪役、本当に素晴らしい。

それにしても、毎回思うんですけど、魔界全体を巻き込むレベルの魔法を使える大形くんを、人間界の一角に住まわせておいて大丈夫なんでしょうか。あの近辺に住む全黒魔女の魔力を合わせても多分彼にはかなわないでしょ。

 

 

全体を通して

初期厨のやったぜですが、『黒魔女さんの修学旅行』は本編と外伝合わせてもかなり好きな部類に入る巻です! 無印三学期編以降は物語上の大きな目標のようなもの(無印7巻までのギューチョコ掘り下げ、8〜10巻のティカ問題など)がなく、作品の雰囲気ものほほんとしていた印象があったのですが、この巻で大形問題の解決を目標に据えたことで、文章やチョコたちのキャラもキレを取り戻していっている気がします。

 

 

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【6-1黒魔女さんが通る】04巻を振り返る【感想】

これの続き。

 

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第1話

あらすじ

巡回魔法使いのアグリッパに弟子の育成方法について指導されるギュービッドと桃花。ギュービッドは言葉に気をつけるように言われ、パンフレットと魔界グッズを買わされます。

翌日、来週に予定されている授業参観のために、保護者用の入校証を配られる6-1。 ところが麻倉は親に来てほしくないらしく、入校証の受け取りを拒否します。彼のお母さんは超天然なので、それが恥ずかしいのではないかと噂するみんな。講談組の若い衆に頼み込まれたチョコは、なんとか麻倉を説得しますが……。

 

今風のインストラクターになるギュービッド

黒魔女しつけ協会からやってきた巡回魔法使いのアグリッパさん。彼によると、今はきびしく弟子を鍛え上げるのではなく、逆に修行してくれる事に感謝の気持ちをもつべきなのだとか。無印1巻ではギュービッドがチョコと出会って早々拘束魔法をかけたりしていましたが、魔界もコンプライアンスを重んじる風潮になってきているのでしょうか。

 アグリッパの言葉を受けて指導法を改めるギュービッド。しかし慣れないためか、前後の文脈を無視して「ありがとう」というなど、かえって不自然な行動になってしまいます。それを変だと思いつつも、「指摘を生かそうと一生懸命頑張ってるんだから」と、いつものツッコミを抑えるチョコ。師匠のギュービッドが不器用に頑張っていて、弟子のチョコがそれをちょっと大人な目線で見てるところに、この師弟の関係の一端が表れているなあと思いました。あとギュービッド様の久々の男装めっちゃかっこよかったのでもっと見たいです。

 ねちねちとうるさいアグリッパですが、指摘はなかなか鋭いですよね。特に「責任感が強すぎるとかえって弟子の心が見えなくなる」という桃花ちゃんへアドバイスは超的確で、伊達にグラシュティグに仕えてるわけじゃないなと感じます。とはいえ弟子の大形はうっかりすると魔界を支配しかねないので、心を見るどころじゃなくなってしまうのも仕方がない気はしますが。初めての弟子なのにヘビーすぎるよ……。

 

個性豊かな親たち

第1話は無印6巻以来の授業参観回でした。無印では教育実習生の清井ほたるに振り回される5−1の様子が中心に描かれていましたが、今回の最重要人物は麻倉くんのママ、くるみさんです。

くるみさんは超天然で、東京ディズニーシーの「シー」をABCの「C」だと思い込んでいるほど。そんなお母さんだから、クラスみんなの前でチョコを息子の彼女扱いするのではないかと心配する麻倉。チョコに恥をかかせるわけにはいかないと、母親が授業参観に来るのを阻止しようとします。その行動自体はともかく、好きな子に恥ずかしい思いをさせたくないという気持ちは”漢”です。

結局、チョコの説得でくるみさんは授業参観に来れることに。ですが当日、想像以上の天然ぶりを披露してしまいます。たとえば、「体の一部を使った慣用句」についての授業で、「うでが落ちる、腹を割る、肩を落とす……」などの例を聞くと、「まあ、たのしい! まるで、死体をバラバラにしていくみたいだわ!」とまるでサイコパスのようなご発言。ある意味この作品らしいママですが、思春期の息子にとってはなかなか頭が痛いかも。

 

 

第2話

あらすじ

悪い魔物がうろついていないかパトロールする事になったチョコ。見知らぬ金髪のお姉さんが近所の男子たちに”プ”ライドポテトの優待券を配っているのを目撃します。翌々日学校に行くと、そこには『少年マガジン』のグラビアに見向きもしない横綱の姿が! それだけでなく麻倉や東海寺も全くアピールしてこないなど、男子たちの様子がおかしい事に気づくチョコ。さらに鈴木重くんが奇妙なポーズで奇妙な呪文を唱えているのを発見したチョコは、ある事に思い至り……。

 

男のプライド問題

新キャラ・幽ねぇにもらったプライドポテトを食べてプライドが高くなる横綱。いつもは気弱でエロい彼なのに、「少年マガジン」のグラビアをみせられても「だから、見ないっていってるだろ」と毅然とした態度で断ります。そのあとの間髪入れない「は?」という地の文ツッコミに笑いました。「横綱、悪魔に魂でもぬかれたのぉ?」という大谷君の叫びもあながち間違っていなくておもしろかったです。いつも本能のままに(?)行動している男子たちですが、プライドを気にしてちょっと大人びた行動をしているのが可愛かったです。でも横綱でさえああなっちゃうんだから、速水君とか与那国君とかもともとプライド高そうなキャラはどうなってしまうんでしょうね。

麻倉&東海寺は「いちいちアピールするなんて、プライドのある男のすることじゃない」と、いつものチョコへの猛アタックがひかえめでした。クラス運営的にはポテトを食べてもらっていた方が楽そう。

 

鈴木姉弟が掘り下げられる

そして今回は鈴木姉弟の掘り下げ回でもありました。ウンチク女王・鈴木薫さんと、そのウンチクを「姉ちゃん! すごい! メモメモ!」といつもメモする双子の弟・重くん。とても仲の良い二人ですが、プライドポテトで重くんのプライドが高くなったことで、少し気まずい関係になってしまいます。ある日、薫さんのウンチクを聞いて、「そんなふうに、えらそうにいわなくても、いいじゃないか。おれたちは双子で、おなじ六年なんだ」と傷ついたような顔をする重くん。薫さんとしてはもちろん弟をバカにするつもりはなく、普段どおりの行動だったのですが……。

結局、チョコたちが幽ねぇを退治することで一件落着したのですが、幼少期は仲がよかったきょうだいが思春期に入ってすれ違いはじめるのが切なリアルでした。このくらいの時期って、上のきょうだいとしてはかわいい弟・妹のままでも、下のきょうだいとしては子ども扱いせず対等に接して欲しいみたいな気持ちがあったりしますよね。特に双子だと「そもそも俺、年下ですらないのになんで弟あつかいされてるんだろ?」と思ったり。わたしも双子なのでこの二人が掘り下げられたのは嬉しかったです。

 

 

第3話

あらすじ

宮瀬灯子ちゃんの弟と妹が通ういちご保育園。そこの先生が結婚するらしく、しかも式を保育園であげるらしい。その際にベールガールをやってくれないかと頼まれるチョコ。結婚式と同じ日に魔界喫茶ハンプティダンプティでロリポップココアの新作お菓子の発表会があるらしく、桃花ちゃんは一緒に行けないのを残念がります。

2日後、結婚式は無事に終わります。ところが数日後、灯子ちゃんから奇妙な話を聞くチョコ。なんでも、温厚な性格だった新郎が、結婚式以降怒りっぽくなり、不平不満ばかり言うようになったそうです。結婚式に原因があったのではないかと考えたチョコは、いそいで保育園に向かいますが……。

 

オカルト結婚式

今巻は6月という設定。そのせいか、第3話はジューンブライドというロマンチックなモチーフがでてくるお話でした。

灯子ちゃんの弟妹の先生の結婚式でベールガールを務めるチョコ。バラが並べられた窓、まっ白な布が敷かれたバージンロード、祭壇など、結婚式用に飾り立てられた園内の描写が非常にラブリーです。その様子にテンションが上がってウキウキで結婚式知識を披露する灯子ちゃんも乙女で可愛かったです。

新婦の先生曰く、バージンロードの白い布は教会の下に棲んでいる悪魔から花嫁を守る役割があるのだとか。こういうところにオカルトネタを仕込んでくるの、やっぱり黒魔女さんだなって感じですね。その話を聞いたあとにどこからともなく「呪ってやる」という声が聞こえてくるのも不気味で好きです。

 

マカズキン作家デビュー

桃花ちゃんの魔女学校時代のルームメイト、マカズキンが作家デビューしました!魔女学校を卒業して一年しか経っていないのにすごい。学生時代からプロの作家さんに小説を見てもらったり、努力していたのが報われましたね(『魔女学校物語』、みんな読んでね)! 外伝好きなので、そこで活躍していたキャラが本編に登場するのは嬉しいです。

デビュー作は『たなばったーんと呪運ブライド』。6月に結婚した「折り姫」と「疲子星」を主人公にした悲恋の物語です。幸せな生活を送っていた「折り姫」と「疲子星」夫妻。あるとき疲子星がつくった棚が「ばったーん」と倒れてきて、下敷きになった彼は大怪我をしてしまいます。それがベルゼブル様の怒りを買い、二人は引き離されてしまいました。それ以来、「折り姫」は幸せそうな花嫁を呪う「呪運ブライド」になったのでした……というお話。「呪運ブライド」自身は新婚の先生たちを呪ったりするシリアスなキャラですが、それともとのお話のギャグっぽさとの差がシュールで面白いです。そして6月と7月のイベントを一つのお話に詰め込もうとする姿勢はいかにも魔界の人っぽくていいですね。

 

 

全体を通して

麻倉や鈴木姉弟など、既存のキャラをさらに深く掘り下げるお話が多かったです。無印3学期編は新キャラも多く世界観をひろげる感じでしたが、六年生編になってからは深める方向に行ってるのかなと思います。

 

 

 

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